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宮城県女川町。震災から15年を迎えようとするこの町の山々を、3日間かけて100マイル(約160キロ)走り抜ける過酷なレースが、新たな復興の風を吹き込んでいる。
100マイルトレイルラン大会「女川100TRAILS」。この大会を支えているのは、主催者の「恩返し」の決意と、それに応える街の人々の温かな眼差しだ。

雪の少ない女川の山が育てた、日本代表の「恩返し」

大会プロデューサー 須賀暁さん
大会プロデューサー 須賀暁さん

トレイルランとは、登山道や舗装されていない道を走るアウトドアスポーツ。
この大会では、3日間をかけて約160キロを走る100マイルの部など、5つの部門でタイムを競い、完走を目指す。

大会プロデューサーを務めるのは、トレイルラン日本代表の経験もある、須賀暁さんだ。
山形県出身の須賀さんは、冬場に積雪で山に入れない時期、雪の少ない女川を訪れ、トレーニングを重ねてきたという。

須賀暁さん:
本当にこの女川の山で鍛えて育てていただいた。特に冬、高い山は行けなくなるので、女川の山でいつも過ごさせていただいた。この町への恩返しですかね。

須賀さんは以前から、女川の山を走り、トレーニングを重ねてきた
須賀さんは以前から、女川の山を走り、トレーニングを重ねてきた

震災発生当時、大学生だった須賀さんは、主体的に復興に関われなかったことにもどかしさを抱え続けてきた。その想いが、この時期に大会を開催する原動力となっている。

須賀暁さん:
この町へ恩返ししたい気持ちや、復興に貢献したいという思いを、自ら動くことで実現していきたい。特に女川は被害の大きかった場所で、すごくこの十数年で変わった場所でもある。どんな風にこの町が変わってきたのかを大会を通じてぜひみなさんに感じてもらえたら。

「メイド・イン・女川」で迎える400人のランナー

完走者に送られる記念タイル(2025年大会のもの)
完走者に送られる記念タイル(2025年大会のもの)

この大会は、コース設定から副賞に至るまで、徹底して「女川」にこだわっている。

コース:メイン会場の女川スタジアムを中心に、北側約16キロ、南側約20キロをループ
完走記念タイル: 「みなとまちセラミカ工房」が手作り。女川の海と山をイメージ
入賞者の盾: 「onagawa factory」が地元のスギを加工して制作
地域振興: 参加者全員に町内で使えるクーポンを配布

記念品の製作に携わった「みなとまちセラミカ工房」の成澤峰子さんは、「これだけ復興した町で、このようなイベントをしていただけるのは大変うれしく思う」と語り、「onagawa factory」の湯浅輝樹代表も、「復興需要がなくなりつつある町に、イベントで人がまた来ていただけるというのはとてもいいこと」と、新たな交流の形を歓迎する。

入賞者に送られる記念盾(2025年大会のもの)
入賞者に送られる記念盾(2025年大会のもの)

全国から集まった約400人の参加者からは、「海と山、素晴らしい景色が見られる。楽しみたいと思う」「駅前が充実していて、スーパーの惣菜もおいしくて、もっといろんな人が来て楽しんでほしい」といった、現在の女川の魅力を楽しむ声が上がっている。

自然の中で楽しむスポーツだからこそ考える「野生動物との共生」

トレイルランという、広大な自然を駆け抜けるスポーツにとって、避けては通れない議題が「野生動物との共生」だ。

宮城県では2025年度、3月3日時点で3,533件、クマの目撃情報が寄せられ、過去最多を更新し続けている。人的被害も6件発生するなど、過去に例のない規模で被害が頻発している。

そんな状況で大会を開催するにあたって、運営は対策として、運営スタッフに対策グッズを携行させることはもちろん、参加者にもクマよけのスズとクマよけスプレーを携帯することを義務づけた。

大会の公式ホームページでは、野生動物と遭遇した際の注意点のほか、コースの変更や中止となる場合といった対応について記載されている。

ホームページには、須賀さんの野生動物への考え方も掲載された。

須賀暁さん:
野生動物との遭遇は、自然の中で活動する私たちが背負うべきリスクの一つです。100%の安全はありません。
「受け入れて共生する」という考え方が、地方に住む私たちやトレイルランナーには必要です。その中で安全性を最大限に高める準備と対策を、女川100TRAILSでは行なっていきます。
10年、20年先、さらにはもっと遠くの未来―
変わらない生活がそこにあって、人と自然が共生している世界がきっとあるはずです。その未来のためにも女川100TRAILSは活動していきます。参加される皆様におかれましても、当大会が自然との関わり方について考え行動するきっかけになることを願っています。
(※大会ホームページより一部抜粋)

逆転した「ありがとう」の言葉

大会の準備に奔走する中で、須賀さんが最も印象に残っているのは、町の人々からかけられた言葉だという。

須賀暁さん:
「大会を開催してくれて、女川を盛り上げてくれてありがとうございます」って言われたことが本当に印象に残っている。本当は私が言う立場なんです、ありがとうって。そのありがとうっていう言葉に、気持ちに、大会を成功させることでしっかり答えていきたい。

「支援する側」と「される側」という垣根を超え、一人のスポーツマンが愛した自然を舞台に、新しい女川の物語が走り出している。

仙台放送
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