震災発生当日、石巻でも渋滞が発生していた
震災発生当日、石巻でも渋滞が発生していた
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東日本大震災が発生したあの日、沿岸部の至るところで発生したのが、避難を急ぐ車による渋滞だった。高台を目指す車列が身動きを封じられ、多くの命が津波に呑み込まれた。
津波避難は「原則徒歩」とされているが、震災後に行われた調査でも、依然として約7割の人が車での避難を選択している現実がある。命を守るために、私たちは今、どのような避難行動を選択すべきなのか。

「車を捨てて逃げた」生死を分けた判断

草島真人さん
草島真人さん

震災当日、石巻市で激しい渋滞に巻き込まれた草島真人さんは、変わり果てた街の光景を鮮明に覚えている。

草島真人さん:
 信号機は全部消えて真っすぐ立っていないし、道路は波打っている状態。

揺れは車を運転しているときに襲ってきた。
避難所で使うものを取りに、海から80mほどの自宅に戻った草島さんの目に飛び込んできたのは、堤防を遥かに超える高さで迫り来る津波だった。
高台へ向かったが、渋滞で車は動かない。草島さんは「車を捨てる」判断をし、走って逃げた。直後、背後では多くの車が濁流に呑み込まれていった。

草島真人さん:
津波から逃げているはずなのに、突然近くの家が爆発して。水しぶきで家がどんどん消えていく。辺り一体そうなっていた。何かがちょっと違っていたら、自分が死んでいた。

なぜ車避難が減らないのか 背景にある「生活再建への不安」

車での避難が原因となる渋滞は、津波の危険が迫る度に発生している。
そういった混乱や逃げ遅れのリスクを避けるため、津波避難は原則として徒歩とされているが、現実は違っている。

2025年のカムチャッカ半島付近の地震で津波警報が発表された際の避難について宮城県が調査したところ、避難した人のうち、実に66.4%が車を使用。徒歩での避難は29.5%に留まった。

災害時の避難行動を研究する東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は、車避難が減らない心理的要因に、東日本大震災での痛切な経験があると指摘する。

東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授
東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授

東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授:
震災で車を失ってしまった経験をした人がたくさんいる。避難した後に車が無かったことで、避難生活の対応や生活再建にさまざまな支障をきたした経験がある。

被災者にとって、車は単なる移動手段ではなく、避難生活におけるプライベートな空間であり、復興に向けた不可欠な資産でもある。しかし、それを守ろうとする行動が、命を危険にさらす皮肉な結果を招いている。

北海道厚岸町が作成したCG映像
北海道厚岸町が作成したCG映像

北海道厚岸町が作成したCG映像では、時速40キロで街を飲み込む津波に対し、行き場を失った車列が一瞬で押し流される様子が可視化されている。

「車でなければ逃げられないか」の再考

津波に襲われる石巻市(住民撮影)
津波に襲われる石巻市(住民撮影)

佐藤准教授は、震災後15年で進んだ「街づくりの変化」に目を向けるべきだと提言する。

東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授:
多くの地域で防潮堤が整備されたり、道路が高台化されたりしたこともあって、徒歩で避難できない状況にいる方はかなり少なくなってきている。想定されている以上の人が車で避難をすることは、想定以上に渋滞の発生可能性が高まる。それによって津波にさらわれてしまう人が増えてしまうかもしれないことを踏まえ、地域の中でどのような避難行動をするのか、改めて考えていただきたい。

「信じてもらえる自分」が命を救う

一方で、避難を呼びかける側の「信頼関係」も重要な鍵となる。
15年前、草島さんは必死に「逃げろ!」と叫んだが、周囲の反応は冷ややかだったという。 

草島真人さん:
津波が来るぞ!逃げろと大きな声で叫んだ時、当然みんなが逃げると思ったら、「いきなり大きな声を出して、何言っているのかな?」みたいな視線しかなくて。

その悔恨から、草島さんは現在、公園の清掃活動などを通じて積極的に地域住民と交流を続けている。 

公園の花壇を清掃する草島さん
公園の花壇を清掃する草島さん

草島真人さん:
東日本大震災が起こるまでの自分の生き方が、伝わらない呼びかけにつながった。こういう活動を日ごろから一生懸命やって、そういう私が必死に呼びかけたら付いて来てくれる人がいるだろう。そういうようなことが災害に強い街づくりの一歩だと思っている。

「自分だけが逃げる」のではなく「共に助かる」ために。
車で避難するという選択肢が、自分や誰かを危険にさらすことにならないかを考える。
日常の交流と、冷静な状況判断が、より多くの命を救うことにつながる。

仙台放送
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