「象徴」を模索してこられた陛下

カテゴリ:国内

  • 在位三十年記念式典で陛下が述べられた感謝のお言葉
  • 式典中に心温まるハプニングが
  • 改めて明らかになった皇后さまと国民への感謝の想い

在位三十年記念式典で感謝のお言葉

天皇陛下は、2月24日、政府主催のご在位三十年記念式典に出席し、祝ってくれたことに対し感謝のお言葉を述べられました。陛下が行われるお言葉を述べられるのは残り少なく、その思いを知る貴重な機会となりました。

式典では、平成15年の歌会始で披露された、天皇陛下の和歌、御製と皇后さまの和歌、御歌を女優の波乃久里子さんが朗読しました。

我が国の旅重ねきて思ふかな年経る毎に町はととのふ(御製)

ひと時の幸(さち)分かつがに人びとの佇(たたず)むゆふべ町に花ふる

波乃さんは感極まったような声でしたが、両陛下への感謝の言葉と共に、和歌を朗読しました。

作詞は天皇陛下 作曲は皇后さま

続いて、歌手の三浦大知さんが千住明さんのピアノと千住真理子さんのバイオリンを伴奏にして「歌声の響」を歌い上げました。

この曲は、両陛下が皇太子時代に初めて沖縄を訪れた1975年、ハンセン病の療養所「愛楽園」を訪問された際、入所者が両陛下をお見送りしようと、沖縄民謡の「だんじゅかりよし」の合唱が自然発生的に始まりました。「だんじゅかれよし」は船出を祝う歌で、その歌声を両陛下は立ち止まったままお聞きになられました。

この歌声のお返しにとその訪問の時の光景を、陛下は沖縄独特の和歌、琉歌で作り、愛楽園に贈ったということです。感激した愛楽園では、入所者がこの琉歌を朗読していたのですが、この和歌に節が欲しいとのお願いがあり、陛下は、それなら皇后さまに作曲してほしいということで出来上がった曲なのです。つまり、作詞は天皇陛下、作曲は皇后さまという曲なのです。

沖縄出身の三浦大知さんは、思いを込めて熱唱。両陛下もじっと耳を傾けられていました。

「象徴」という道

そして、天皇陛下は、お言葉を述べられました

「即位から30年、こと多く過ぎた日々を振り 返り、今日こうして国の内外の祝意に包まれ、このような日を迎えることを誠に感慨深く思います」

このように平成の三十年間を振り返られました。

この中でも、戦争のない三十年だったことに触れつつも、「多くの予想せぬ困難に直面した時代」と、決して「平坦な時代」ではなかったと自然災害、高齢化、少子化に触れながら、さらに、グローバル化する世界の中で「叡智を持って自らの立場を確立し、誠意を持って他国との関係を構築していくことが求められているのではないかと思います」と述べられています。

そのような中で、陛下はどのように務めを果たされてきたのか・・・

「天皇として即位して以来今日まで、日々国の安寧と人々の幸せを祈り、象徴としていかにあるべきかを考えつつ過ごしてきました。しかし憲法で定められた象徴としての天皇像を模索する道は果てしなく遠く、これから先、私を継いでいく人たちが、次の時代、更に次の時代と象徴のあるべき姿を求め、先立つこの時代の象徴像を補い続けていってくれることを願っています」 

1991年被災地を見舞われる天皇皇后両陛下

ぼんやりとした「象徴」という言葉に対し、陛下は真摯に考え続け、「象徴」としてあるべき行動を常にとられてきました。「象徴」という普通の人たちが通ったこともない道を陛下は皇后さまと拓いていかれたのです。どれだけのご苦労があったかを思うと、本当に頭がさがります。

しかも、陛下はまだ道半ばであり、新天皇に即位される皇太子さま、その次の時代の方たちに、今の「象徴」を基に、更に道を進んでもらうことを期待されました。しかも、陛下は歩まれる道は全く同じではなく、時代とともに変わることを認め、次の時代の方々に、「象徴」という道は入り口から始めなくてもいい、私の道を補い続けてほしいとということを述べられているように思います。

そして、ともに歩んできた人たちへの感謝を述べられいています。
「私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした」

陛下はこれまで「天皇という象徴の立場への理解」を国民に求め、そして、陛下は国民に対する理解を深め、常に国民とともにあるという自覚を育てる必要があると述べられています。相互の信頼関係がここまでできたことに感謝をされているいるのですが、一方で、私たちに対し陛下からどれだけの信頼と敬愛をいただいたか考えると、陛下を支え続けてこられた皇后さまと共に、お二人に感謝の思いが溢れます。

心温まる光景

ここで、ちょっとしたハプニングがありました。

お言葉は3枚の紙にまとめられていましたが、3枚目を机の上に置いたままにした陛下は、2枚目を読んだ後、1枚目を3枚目と間違え、再度1枚目を読み始められたのです。そのことに気が付いた皇后さまは、陛下に耳打ちし、素早く机の上に合った3枚目をお渡しになられたのです。陛下も、お言葉の紙を確認しお言葉を続けられたのです。

いつもお側にいる皇后さまがどのようにいつも陛下に気を配られているのか、長年のご夫婦ならではの、心温まる光景となりました。

そのお支え続けた皇后さまの和歌を陛下はお言葉の中で紹介されています。

「ともどもに平らけき代を築かむと 諸人のことば国うちに充つ」(御歌)

陛下にとり、戦争のない時代だったことにどれだけ安堵されているのか・・・

「全国各地より寄せられた『私たちも皇室と共に平和な日本をつくっていく』という静かな中にも決意に満ちた言葉を、私どもは今も大切に心にとどめています」

式典は厳かな中にも、両陛下が喜ばれるような温かい雰囲気で終了し、舞台を発つ際には、両陛下は出演者一人一人にお礼のお言葉をかけられていました。

このように、私は陛下のお言葉について感想のようなものを書き続けてきましたが、ぜひ皆さんには全文をお読みいただきたいと思います。それぞれの方にそれぞれの読み方はあり、それぞれの感動があると思うからです。

お言葉を理解しようとするとき、私たちも陛下がなされてきた「象徴」を理解する第一歩となるのではないでしょうか。陛下の思いは、陛下のお言葉の中にあるのです。しかも、ご退位の時に陛下のお言葉が予定されていますが、陛下のお言葉を聞く機会はもうわずかしかないのですから。

陛下のお言葉全文

即位三十年に当たり、政府並びに国の内外から寄せられた祝意に対し、深く感謝いたします。即位から30年、こと多く過ぎた日々を振り返り、今日(こんにち)こうして国の内外の祝意に包まれ、このような日を迎えることを誠に感慨深く思います。

平成の30年間,日本は国民の平和を希求する強い意志に支えられ、近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちましたが、それはまた、決して平坦な時代ではなく、多くの予想せぬ困難に直面した時代でもありました。

世界は気候変動の周期に入り、我が国も多くの自然災害に襲われ、また高齢化、少子化による人口構造の変化から、過去に経験のない多くの社会現象にも直面しました。島国として比較的恵まれた形で独自の文化を育ててきた我が国も、今、グローバル化する世界の中で、更に外に向かって開かれ、その中で叡智(えいち)を持って自らの立場を確立し、誠意を持って他国との関係を構築していくことが求められているのではないかと思います。

天皇として即位して以来今日(こんにち)まで、日々国の安寧と人々の幸せを祈り、象徴としていかにあるべきかを考えつつ過ごしてきました。しかし憲法で定められた象徴としての天皇像を模索する道は果てしなく遠く、これから先、私を継いでいく人たちが、次の時代、更に次の時代と象徴のあるべき姿を求め、先立つこの時代の象徴像を補い続けていってくれることを願っています。

天皇としてのこれまでの務めを、人々の助けを得て行うことができたことは幸せなことでした。これまでの私の全ての仕事は、国の組織の同意と支持のもと、初めて行い得たものであり、私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした。

災害の相次いだこの30年を通し、不幸にも被災の地で多くの悲しみに遭遇しながらも、健気(けなげ)に耐え抜いてきた人々、そして被災地の哀(かな)しみを我が事とし、様々な形で寄り添い続けてきた全国の人々の姿は、私の在位中の忘れ難い記憶の一つです。

今日この機会に、日本が苦しみと悲しみのさ中にあった時、少なからぬ関心を寄せられた諸外国の方々にも、お礼の気持ちを述べたく思います。数知れぬ多くの国や国際機関、また地域が、心のこもった援助を与えてくださいました。心より深く感謝いたします。

平成が始まって間もなく、皇后は感慨のこもった一首の歌を記しています。

ともどもに平(たひ)らけき代(よ)を築かむと諸人(もろひと)のことば国うちに充(み)つ (御歌)

平成は昭和天皇の崩御と共に、深い悲しみに沈む諒闇(りょうあん)の中に歩みを始めました。そのような時でしたから、この歌にある「言葉」は、決して声高に語られたものではありませんでした。

しかしこの頃、全国各地より寄せられた「私たちも皇室と共に平和な日本をつくっていく」という静かな中にも決意に満ちた言葉を、私どもは今も大切に心にとどめています。

在位三十年に当たり、今日(こんにち)このような式典を催してくださった皆様に厚く感謝の意を表し、ここに改めて、我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります。

【執筆:フジテレビ 解説委員 橋本寿史】
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