「加熱式たばこ」増税論。煙は消えても議論は白熱

加熱式たばこの急速な浸透

カテゴリ:暮らし

  • 「たばこ税」の増税論は、市場が拡大する「加熱式たばこ」も対象
  • 加熱式は重量1グラムを紙巻き1本に換算して課税
  • 日本での加熱式たばこの市場規模は2021年に約9400億円との予測も

2018年度税制改正では、「たばこ税」の扱いも大きな焦点で、現在、増税に向けた議論が進んでいます。
2018年度に実施されることになれば、約8年ぶりの引き上げとなりますが、政府・与党で強まる増税論は、人気が高く市場が急拡大している「加熱式たばこ」にも照準を合わせたものとなっています。

燃焼させず、蒸気を吸引

加熱式たばこは、火を使わない新しいタイプのたばこです。

葉たばこを燃焼させずに加熱し、発生した蒸気を吸引する方法により、ニコチンなど葉たばこ由来成分の味や香りを喫するというもので、日本国内では、フィリップ・モリスの「アイコス」のほか、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」、日本たばこ産業(JT)の「プルーム・テック」の3つの商品が販売商戦を展開しています。


「アイコス」と「グロー」は、葉たばこを詰めたスティックを充電したホルダーに差し込み、電気により「直接加熱」するタイプで、「アイコス」が、葉たばこを内側から加熱するのに対し、「グロー」では、熱源がスティックの外部にあり、外側から熱を加えます。

一方、「プルーム・テック」は、電気を加熱に利用する原理は同じですが、熱するのは、専用の液体であり、カートリッジ内の液体を熱して発生させた蒸気を、葉たばこのカプセルを通過させ吸引する「間接加熱」方式をとっています。加熱のやり方に差異があるとはいえ、火をつけない点は3商品とも共通していて、紙巻きたばこの燃焼温度が700~800度に達するとされるのに対し、加熱式の葉たばこの温度は、最も高温になるアイコスでも300度以下としています。

各社は、燃焼させない工夫により、健康へのリスクがあるとされる有害物質の発生量を抑え、周囲の室内空間に悪影響を及ぼさないなどと主張しています。

日本での加熱式たばこの市場規模

国内の加熱式ブームの火付け役となったのが、アメリカのフィリップ・モリスが先陣を切って発売した「アイコス」です。

名古屋市で先行発売された「アイコス」は、2015年9月に12都道府県での販売がスタートし、2016年4月には全国展開に踏み切り、圧倒的なシェアを誇っています。紙巻きたばこの販売数量に対する加熱式の輸入数量の割合は、2015年まではほぼゼロが続いていましたが、「アイコス」全国拡大の7か月後には5%を上回り、2017年4月には約12%に達しました。

この間、2016年12月には、イギリスのブリティッシュ・アメリカン・タバコが、仙台市で「グロー」を発売し、2017年7月に販売エリアを東京・大阪・宮城に、10月からは全国に広げています。また、JTの「プルーム・テック」は、2016年3月の福岡市での先行発売後、2017年6月から東京での販売に乗り出しました。

イギリスの調査会社のユーロモニターは、日本での加熱式たばこの市場規模について、2021年には約9400億円と、2016年の4倍超に拡大すると予測していて、たばこ市場全体に占める加熱式の割合は22%に達する見通しだとしています。

一方、国内での喫煙者数が減少の一途をたどるなか、「紙巻きたばこ」の販売数量は、この10年で4割減っていて、この先、加熱式が普及していけば、紙巻きの売れ行きは一段と落ちこむことが予想されます。

2017年度上期の紙巻きたばこの販売量は、前年度と比べ11%減少しました。

前年度の同じ時期の6.5%減からマイナス幅はさらに拡大していて、加熱式への切り替えの進行をうかがわせる数字だといえます。
こうしたなか、議論されているのが、加熱式への増税です。

実は、加熱式たばこは、1本あたりで税額が決められている紙巻きたばことは異なり、「パイプたばこ」に分類され、重量に応じて税金が算出されています。紙巻き1本あたりの税率12.244円を、加熱式では、スティックやカプセルの重量1グラムあたりに置き換えて計算していて、税負担割合が、紙巻きに比べ低くなっているほか、同じ加熱式の商品でも、重量の軽重により差が生じています。

現在、小売価格は、代表的な紙巻きの銘柄であるJTの「メビウス」で440円、加熱式の「アイコス」「プルーム・テック」が460円、「グロー」が420円と、紙巻きも加熱式も同じような価格帯ですが、価格に占める消費税を含んだ税金の割合は、「メビウス」が63.1%なのに対し、加熱式では、最も重量が重く税負担割合の高い「アイコス」でも49.2%です。「アイコス」より軽量の「グロー」は36.0%、さらに軽い「プルーム・テック」は14.9%と、重量が軽い商品ほど、負担の程度は低くなります。

第一生命経済研究所と共同通信による試算では、紙巻きから加熱式への切り替えがこのままのペースで進んだ場合、2017年のたばこ税の税収は、前年より500億円~780億円程度減少する見通しで、2020年には、4年間の累計の減収額が2000億円~3000億円に達する可能性があるということです。加熱式たばこの増税は、税収の減少に対応するとともに、税負担の格差をなくそうというものであり、重量だけでなく、価格も加味した新たな税額計算方式を取り入れることが検討されています。

「喫煙と健康」の問題に税制面からどう向き合うか

かつて、ビール系飲料をめぐっては、酒税区分の隙間を狙って、メーカーが税率の低い商品の開発を競い合ったのに対して、税務当局が、カテゴリー分けや税率の細かな変更で応じ、さながらいたちごっこの観を呈したことがありました。しかし、加熱式たばこは、喫煙への規制が強化されるなか、各社が有害物質や健康懸念成分の少なさなどを掲げて投入している商品であり、税金の安い新ジャンル登場に伴う「税収減の穴埋め」という視点のみから、増税の検討を行うのは十分ではありません。たばこ税については、健康被害を防ぐ観点から、種類を問わず課税を強めるよう求める声が根強くあります。

加熱式たばこの人体などへの影響の厳密な検証については、中立的機関による詳細な調査データが待たれるところがあるのは確かですが、増税にあたっては、「喫煙と健康」という問題に税制面からどのように向き合い、紙巻き・加熱式双方の課税強化のバランスをどうとっていくのか、という視座が欠かせません。加熱式たばこの急速な浸透が、業界の競争環境を大きく変えつつあるなか、市場の需要動向だけでなく、健康増進に向けた今後の喫煙のあり方を、長期的な視野で見据えた税制論議が求められています。