ベトナム人留学生に用いられたのは「鎖」と「南京錠」だった――。
人権侵害行為があったとして、9月上旬、福岡市の日本語学校が新たな留学生の受け入れを認めない処分を受けた。
拘束された留学生、そして学校に以前勤めていた職員に取材を進めると、この学校が抱える問題が浮き彫りになってきた。
南京錠がついた鎖で拘束、パスポートや在留カードを取り上げ
2022年9月7日。「官報」には、或る日本語学校の名称が、抹消されたことが掲載された。
この記事の画像(27枚)官報
「西日本国際教育学院」
「項を削る」
認定を抹消されたのは、福岡市南区の西鉄大橋駅近くにある「西日本国際教育学院」。定員900名以上、全国有数の規模を誇る日本語学校だ。ここである行為が明るみになった。
スマホ動画:
はい、なんね、うへへへ、はい、はい、言うまで一緒、教えて、早く
学校の職員が笑いながら、留学生と自身のベルトを、南京錠が付いた鎖でつないでいる様子が映っている動画。
出入国在留管理庁によると、この行為が確認されたのは2021年10月。関係機関からの情報提供を受けて調査した入管庁に対し、職員は「人権侵害」を認め、「悪ふざけだった」と釈明したという。
入管庁は、「西日本国際教育学院」に対し、日本語学校として新たに留学生の受け入れを認めない処分を決定した。日本語学校の運営基準が厳格化された2016年以降、初めてとなる重い処分に、松野官房長官も…。
松野博一 官房長官:
留学生への人権侵害は、決してあってはならないものであり、今回の処分は、入管庁が厳正に対処したものであると承知しています
被害留学生“いきなり普通の会話レベルで授業” 転校や退学を申し出ると…
一体なぜ、留学生は鎖でつながれたのか。被害に遭った本人から、直接話を聞くことができた。
ベトナム人留学生 チャン・マウ・ホアンさん:
こんにちは
チャン・マウ・ホアンさん、21歳。日本で車の部品作りを学びたいと思い、2020年12月にベトナムから来日、西日本国際教育学院へ入学した。
ホアンさん:
日本人の仕事は繊細で安全、日本が大好きでした
しかし、期待は早々に裏切られたとホアンさんは話す。
ホアンさん:
学校に通い始めて2~3カ月は、ずっと「あいうえお」等を教えてもらって、その後、いきなり普通の会話レベルで教え始めたんです。授業はほぼ理解できず、他の学生たちも授業中は寝るしかない状況でした
この学校では自分の求める勉強はできないと思い、転校を申し出たホアンさん。しかし受け入れてもらえず、やむなく「学校を辞めて帰国したい」と説明したと話す。
ところが…。
【スマホ動画(2021年10月)】
ホアンさん:
私、トイレ
講師:
荷物、置いて。荷物置いて、先生と一緒に行こうか
ホアンさん:
私、ちょっとトイレ
講師:
トイレ?じゃあ荷物!荷物置いて!
ホアンさんが学校を飛び出すことを恐れたのか、荷物を置くよう指示してホアンさんを取り囲む講師たち。
さらに講師たちは、パスポートと在留カードの提出まで求めてきた。
ホアンさん:
私は、自分の身分証を他人に渡すのは嫌だったので、拒否しました。そしたら監禁されたのです
講師の1人が、おもむろに駐輪場から持ち出してきたのが、鎖と南京錠だった。
ホアンさん:
最初は、お腹のところに回して鎖を付けられそうになって、私は強く反対したのでベルトに付けられました
【スマホ動画(2021年10月)】
講師:
うへへへへ、はい、はい。(パスポートと在留カードの保管場所を)言うまで一緒。教えて、早く
周囲の講師も止める素振りを一切見せず、拘束時間は実に3時間以上に及んだ。
ホアンさんはベルト通しを破り、抜け出したが、その後、寮に帰っても講師の監視は続いたと話す。
翌日になってようやくホアンさんは逃げ出すことができ、現在(取材をした9月14日)に至るまで、友人の家を転々とする日々を送っている。
ホアンさん:
理由がないのに退学処分を食らった学生もいたし、満足のいく授業もなかった。いまは、(学校がある)大橋の周辺に行くのも怖いです。いまも学校に通っている学生はかわいそうです
いまだ多くの留学生が在籍…認定抹消された学校で在留資格延長できず
永松野々花 記者:
認定取り消しになっても、学生たち、いまだ、たくさん来てますね
認定取り消し後も、通常通り行われている授業。しかし、認定を抹消された日本語学校では、在留資格の延長が不可能だ。このままでは在校生約630人の在留資格が、失われてしまうことになる。
在校生たちは、みなSNSに不安をぶつけていた。
【SNSより】
在校生①「今後、どうなるんだろうかと心配してます」
在校生②「転校ってお金かかるでしょ?いまの学院に全部の学費、支払ってしまった」
この現状に対し学校側は、A4用紙1枚でコメントを発表した。
学校側コメント:
この度、問題となった行為を行った教員は、事件後、すぐに退職しておりますが、再発防止の実施や改善への取組を進めて参ります。この度の行政処分につきましては、学生の皆様の利益確保を第一に考えていかなくてはなりません
元職員が語る学校の闇…威圧的な経営?利益追求し学生への指導に支障か
「学生の利益第一」というコメント。その言葉に疑問を呈する男性がいる。数年前まで学校に勤務していたその男性が、カメラの前で重い口を開いた。
元職員の男性:
いままで学生に対する対応、余りにも人権無視したものが多くて。数え切れないほど多かった。一番印象深いのは、学生のパスポート取りあげ。失踪者が学校からたくさん出れば入管からペナルティを食らうと、だからパスポートを預かっていた
男性が勤務していた数年前、留学生から常時パスポートを取りあげていた時期があったと話す。さらに…。
元職員の男性:
1クラス17人と決められているはずなんですけど、実際には25人の学生がいて、二重帳簿で管理していたというのはありましたね。25人がリストに載っている紙と、17人と8人で分かれているリスト。入管から何か検査が来るという話を聞いて、その時には25人が1枚にまとまったリストは外して下さいというような話はありました。
より学生の数は増やしたい、人件費は抑制したいという中で、そのようなかたちになっていったのかなと
男性によると、数年前は学校の定員が650人ほどだったのが900人以上に増え、講師不足が常態化。利益を優先しすぎたが故に、学生の指導に支障が出ていたと話す。
学校に併設された系列校「国際貢献専門大学校」の授業風景を、2016年に撮影した動画を見てみると、教室は授業を理解できない生徒で溢れ、みなトランプに夢中だ。
元職員の男性:
ただ人数を増やすだけで、教育の理念が現場と乖離していたと
こうした状況のなか、ホアンさんのような「転校」や「自主退学」等を希望する留学生が現れた場合、学園のトップである総長から激しい叱責が飛んだと男性は話す。
元職員の男性:
学生の管理ができていない、つまり、学園総長の意に沿った学生への対応ができていないと思われれば、間違いなく罵倒されると。つるし上げを食らいます
――ご自身も?
元職員の男性:
辞める前はそうでしたね。お前の給料は、これから12万円にしてやるぞと言われました。
(今回、問題となった職員は)それだけは防ぎたい、じゃあどうしようとなった時に、その学生を目の前に留める方法として、鎖が浮かんだのだと思いますね
男性が在籍していた期間を含め、約5年間に、職員が実に90人以上も退職するという異常な状況だったことも明かした。
元職員の男性:
(学園総長の)指示に従えなくて、罵倒され「辞表を書け」と言われて退職に追い込まれる、そういった人が本当に多かったですね。
学園総長が普段から「俺は教育者ではない。俺は教育事業の責任者たい!」って、そのように言っておりましたので、この問題に対してきちんと責任をとってもらいたい
今回の問題は、講師たちへの威圧的な経営体制が引き金となったのか。
質問状に学校側の回答は? 受け皿整わない中で進む政府の政策
学校側のトップは、電話取材・インタビュー取材にも応じる姿勢を示さなかったため、テレビ西日本は質問状を提出。すると翌日、回答が届いた。
「転校は絶対にさせてはならない」というトップの指示に逆らえず、留学生の身体拘束を周りの講師が止めなかった、という指摘については―。
学校側の回答:
周囲の教員の態様につきましては、ご指摘のような事実はないと存じます。当該生徒含め、笑いが起こるほどその態様が子供じみており、拘束の程度や当該生徒の対応を踏まえ、強いて止めに入らなかったものと考えておりますが、人権意識、コンプライアンスという観点からは、即時に止めるべきであったと猛省しております
また、講師の不足については「一時的に不足していたが、現在は定員以上の教員編成で運営している」。パスポートの取り上げについては「在留資格更新手続時に一時的に旅券を預かることもあった」。さらに90人を超える退職者については「正式なものではなく、個々の事情について分かり兼ねる」などと回答した。
学校側は、入管庁の処分を不服として「取り消し」を求める行政訴訟を福岡地裁に起こしている。
今回の被害留学生や元講師などの証言から見え隠れしたのは、目先の学生数にとらわれた「日本語学校」が抱える闇。
問題の背景の1つとされるのが、留学生の増加だ。
2008年、留学ビザの発給要件が緩和されたことをきっかけに日本政府が掲げたのが「留学生30万人計画」だった。実際、新型コロナが流行する前の2019年には、31万人を突破している。
一方で、2019年には東京の大学で合わせて1600人の留学生が所在不明になるなど「留学生の失踪」または「不法残留」が社会問題化した。
西日本国際教育学院の元職員はこうした背景が、「失踪者・不法残留者を決して出してはならない」という厳しい管理体制、学園トップによる職員への圧力に繋がったと話す。
外国人の権利に詳しい指宿昭一弁護士は「受け皿体制が整っていないなか、日本政府の30万人政策だけが一人歩きしている。それに便乗した多くの日本語学校が過剰な受け入れと荒稼ぎに走っている。今回の問題は氷山の一角に過ぎない」とコメントしている。
留学生たちが、不安に怯えることなく勉強できる日は、いつ訪れるのだろうか。
(テレビ西日本)