オフィスに何を着て行けばいいのか迷った経験がある人は多いだろう。そんな中、AIがデザインを導きだしたオフィス服が注目されている。
オンワード樫山が展開するオフィスカジュアルファッションブランド「any SiS(エニィ スィス)」は8月、5点の秋冬向けアイテムを発売した。
ラインアップはスタンドカラープリーツワンピース、サイドボタンフレアスカート、スタンドカラースキッパーブラウス、フロントボタンタックブラウス、リブインナーアンサンブルで、「any SiS」全店舗と、オンワードグループ公式通販サイト、パーソナルスタイリングサービス「DROBE(ドローブ)」で販売。
どれもオフィスカジュアルに欠かせない清潔感があり、ほどよくトレンドを取り入れたデザインが特徴だというが、実はこれらの制作工程にAIがかかわっているのだ。
AIで15万人の購買データを分析
オンワード樫山の「any SiS」担当者によると、通常の服作りの工程では、最初に「ブランドらしさ」「トレンド」「過去実績」「店舗スタッフからの声」などについて、人間が情報を集めて分析したうえで最初のサンプルのデザインを考えるという。今回は、この情報収集と分析の工程をAIが行った。
AIによる分析データを提供したのは、パーソナルスタイリングサービス「DROBE」を展開する株式会社DROBE。
パーソナルスタイリングサービス「DROBE」とは、スタイリストとAIがユーザーのプロフィールをもとに一人ひとりに合ったアイテムを提案して送付。ユーザーは、届いたアイテムを試着して気に入ったものだけを購入できるというサービスだ。このサービスで蓄積された15万人のユーザーの購買履歴やアイテムの評価などをもとにAIで分析を行ったという。
新たな方法でデザインされた洋服だが、発売から2カ月ほど経った今、売れ行きはどうなのだろうか。またAIを取り入れてよかったことはどんな点だったのだろうか。「any SiS」と「DROBE」の担当者に聞いた。
AIを取り入れた服作りは浸透していない
――売れ行きはどう?
気温が下がってくるとともに一気に売り上げが上がってきました。とくにスタンドカラープリーツワンピースが売れていて、ECサイト「オンワード・クローゼット」でも上位に入っています。また、パーソナルスタイリングサービス「DROBE」では、スタンドカラースキッパーブラウスを中心に購入率が平均より高くなっています。
――AIを取り入れた服作りは画期的なの?
ファッション業界では、まだAIを取り入れた服作りは浸透していないように感じます。DROBEでは以前にもAIのデータを活用した商品を作成したことはありましたが、今回のような規模での取り組みは珍しいと思います。
――コラボしたきっかけは?
DROBEは、ユーザーから商品についての意見をもらい、そのデータを集計しています。そしてそれを取り扱っているブランドに提供しています。
DROBEがサービスを開始した初期から「any SiS」を取り扱っていました。取り引きを続ける中で「any SiS」のテイストと「DROBE」のユーザーの好みに親和性があることを両者ともに感じていました。そこで、「DROBE」のデータを服作りに生かせないかという発想からこの企画が始まりました。
1万通りほどの組み合わせからAIが採点
――具体的に、どのように開発を進めたの?
アパレルブランドの服作りではまず、「店舗スタッフからの声」「トレンド」「過去実績」「ブランドらしさ」などの情報を人の手で収集・分析します。
例えば、シャツを3デザイン、各100枚製作するというように、どんなアイテムをどのくらい販売するかを決め、次にシャツは丸首かVネックか、シルエットはゆったりかタイトかなどといった服の要素となるキーワードを導き出します。そしてそれをもとにデザインを起こし、ファーストサンプルを作ります。
しかし今回は、AIが服の要素を導き出したので、すぐにデザインに入ることができました。
――どうやってキーワードを導きだした?
柄、襟の形状、袖丈、シルエットなどの1万通りくらいの要素の組み合わせの中から、どの組み合わせが一番「DROBE」のお客様にマッチするのかを、蓄積されたデータをもとにAIが採点していきました。
“予想外”の色をAIが算出し採用「非常によく売れています」
――AIを利用してみてどうだった?
通常はファーストサンプルができると、試着をして、「やっぱりここは丸首ではなくVネックがいい」などの修正事項が出てくるのですが、今回は既に要素が決まっていたため着心地や完成度に集中できましたし、修正も少なく、かなりの時間短縮になりました。
また、新しい発見もありました。「any SiS」のお客様は優しい色が好みだと思っており、これまで黒やチャコールグレーなどの強い色はあまり採用してきませんでした。ところが、AIが出したデータには黒とチャコールグレーのカラーバリエーションが入っていました。そこで今回はサイドボタンフレアスカートにチャコールグレーを、スタンドカラースキッパーブラウスに黒を採用してみたところ、非常によく売れています。
――AIに置き換えられない点はあった?
例えば、ポリエステルにも硬いもの、柔らかいもの、薄いもの、厚いものと様々なものがありますが、そういった中からそれぞれの服に最適な素材を選ぶことや着心地を試すことは今のところAIにはできないので、デザイナーの仕事となります。もちろん縫製に関しても、職人の手で行っています。AIは“服作りのガイド”になると思います。
――今後もAIを使った服作りを予定している?
考えていきたいと思います。今回の取り組みによって、いろいろな方から声をかけられ、新しい、面白いことをやっているという実感が出てきて、私たちも良い経験になったと思っています。
従来は人間が行っていた情報収集と分析をAIが行ったことで、制作時間の短縮ができたようだ。
またAIの分析によって新たな色の売れ筋商品も明らかになった。今後はアパレルブランドの服作りにもAIが進出していくのかもしれない。