「誰かの人生を生きることはできないけれど、誰かの生きる勇気にはなれる」
これはスピードスケート小平奈緒の言葉。
先日引退レースを迎えた彼女の競技生活はまさにこの言葉を体現したものだった。
2022年10月22日。
長野オリンピック以来の満員となったエムウェーブ(長野県長野市)でラストレースを迎えた地元出身の小平は、愛する地元の人々を前に見事に”有終の美”となる優勝を飾った。
五輪と被災地で見せた“強さ”と“優しさ”
2018年。平昌(ピョンチャン)五輪の「女子500m」でスピードスケート日本女子初の金メダルという快挙をもたらす。
光が当たれば、必ず生まれる影。
同種目で金メダルを逃し、悔し涙を流していた韓国のイ・サンファ選手を抱き寄せる姿はあまりにも印象的だった。
「たくさんのプレッシャーの中でよくやったねと。私はまだサンファ選手のことをリスペクトしているよと言いました」
小平は“強さ”と“優しさ”を持ち合わせていた。
それは時と場所を変えても…
2019年。小平の地元・長野を襲った台風19号。
大雨の影響でリンゴ農園も被害に。
その光景に胸を痛めた小平はボランティア活動に参加した。
「少しでも力になれたらなという思いで来させていただきました」
2020年、長野市で行われた全日本距離別選手権ではリンゴのマークが入ったユニフォームで出場。その思いはリンゴ農家、田中さんの胸の奥に届く。
長野のリンゴ農家・田中英男さん(83):
水害に遭って(心が)折れそうになっている時に、レーシングスーツのことを聞いたときには涙がでるほどうれしかったよ。
立ち直るきっかけをくれた恩人に田中さんが感謝の思いを込めてリンゴを贈った。
そして“寄り添った心”は力となって自分自身に返ってきた。
「本当に胸がいっぱいで…。前に進んでいる農家の皆さんの姿を見て“すごいな”という思いと、私も一緒に進みたいなという思いがあったので、すごく勇気をいただきました」
それから交流は続き、今ではプレゼントを贈り合う仲になった。
仕事への愛と、地元からの愛。
強い絆に支えられ、ラストレースに挑んだ。
“感謝”届ける現役最後のレース
レース前の会見で小平は
「私のラストレースが終わった後にすてきな仕掛けがしてあるので、それを楽しみにしていただければと思うんですけど、これからの活力になるようなつながりをこれからも持てたらいいなと思います」と語り、現役引退レースの“その先”も見据えていた。
リンゴ農家の田中さんは午前6時、会場のエムウェーブに姿を見せた。
長野のリンゴ農家・田中英男さん(83):
このチケットも(小平選手に)持ってきてもらったの。最後のレース、大きな花を咲かせてもらいたいですね。
田中さんにも見てもらいたい最後の雄姿。一目見ようと集まったファンで会場には長蛇の列ができていた。
そして最後のレース。得意種目の女子500メートル。
100m通過タイム
1位 小平奈緒 10秒44
2位 曽我こなみ 10秒51
3位 稲川くるみ 10秒57
好スタートを切った小平は、全体1位のタイムで100メートルを通過する。
引退レースとは思えない滑りを田中さんも食い入るように見つめていた。
最後まで滑りきった小平にスタンドからは割れんばかりの歓声が上がった。
それでも口元で人さし指を立て、後続の選手に影響が出ないよう細かい気配りを見せる。
女子500m 結果
優勝 小平奈緒 37秒49
2位 髙木美帆 38秒18
3位 稲川くるみ 38秒25
結果は2位に約0.7秒の差をつけて大会8連覇。
ウイニングランの最中には、田中さんに気付いて手を振った小平。
それを見た田中さんは「分かったみたいよ、あの感じは。(心が)通ったね」と笑った。
優勝で有終の美を飾った小平はレース後の会見で「オリンピックでメダルを取った時よりも世界記録に挑戦した時よりも、私にとってすごく価値のあるものだったなって感じました。もっと涙でいっぱいになるのかなって思ったんですけど、すっごい楽しくて」と話して、
「涙がこみ上げている?」と聞かれると「うれし涙です」と笑った。
引退セレモニーの後には地元の農家からリンゴ1000個を購入し、観客に配るというサプライズで締めた小平。
最後まで色々な方への感謝を忘れないー
彼女のとても謙虚な姿勢が印象的だった。
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