文化庁の、「2021年度 国語に関する世論調査」が、先月、発表された。「姑息」をどういった意味で使うか、や、情報機器の普及で言葉の使い方に影響を受けるか、など、世論調査のニュースをテレビや新聞で、取り上げているのを見聞きした人も多いのではないだろうか。

コロナ禍、黙食はOK ニューノーマルは?

この世論調査で興味をひかれたのは、新型コロナウイルスに関連して使われた言葉に関する項目だ。新型コロナに関連して使われた言葉については、去年発表された「2020年度 国語に関する世論調査」でも取り上げられている。

調査では、新型コロナに関連した言葉について、その使われ方の印象を聞いている。

それぞれの言葉について、①この言葉をそのまま使うのがいい、②この言葉を使うなら、説明を付けたほうがいい、③この言葉は使わないで、ほかの言い方をしたほうがいい。この3つの中から選ぶ形式だ。

「国語に関する世論調査」では、新型コロナに関連して使われた言葉についても調査対象となっている。
「国語に関する世論調査」では、新型コロナに関連して使われた言葉についても調査対象となっている。
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対象となった言葉は、2020年度(2021年3月調査)が、*コロナ禍 (①そのまま使うのがいい 66.8%)、*ソーシャルディスタンス (①56.5%)、*3密 (①61.1%)、*濃厚接触 (①58.9%)、*クラスター (①51.3%)、*不要不急 (①67.2%)、*ステイホーム (①61.1%)、*ウィズコロナ (①29.7%)

2021年度(2022年1月~2月調査)が、*人流 (①50.2%)、*黙食 (①64.9%)、*ブレークスルー感染 (①12.9%)、*ブースター接種 (①12.9%)、*ワクチンパスポート (①44.9%)、*ニューノーマル (①11.6%)、*エアロゾル (①14.2%)、*おうち時間 (①69.1%)

働く世代は「人流」に違和感なし

ずらりとみると、「3密」や「黙食」のように、新たにできた言葉から、ブースター接種やブレークスルー感染など、専門家用語まで、数多くの言葉が使われ、新型コロナが、いかに生活に大きな影響を与えたかが分かる。

回答を見ると、耳慣れない、特に外国語を使った言葉に対し、抵抗感が強い傾向があることがわかる。意味を伝えるためには、「ワクチン接種後に感染するブレークスルー感染」などと、「説明を付け」なければ、分かってもらえないのだ。調査時点の、2021年3月には、すでに、「ウィズコロナ」が使われていたのにも驚いた。

一方、この中で、意外に思ったのが、「人流」。最近は、あまり聞かなくなったが、一時期は、「人流抑制」と、政府や自治体の関係者が、盛んに使った。およそ50%の人が、「そのまま使うのがいい」を選んでいる。思ったより多いな、という印象だ。

「人流」という言葉の受け止め方は、年代によって違いが見られたという(画像はイメージ)
「人流」という言葉の受け止め方は、年代によって違いが見られたという(画像はイメージ)

この言葉を最初に聞いたのは、2021年始め。コロナ禍以前にも使われることはあったらしいが、耳慣れない言葉で、「物流」からの連想か、人が段ボール箱のように流れていく光景が浮かび、私には、違和感があった。ニュースでは、「人の流れ」と言い直すことが多い。

この調査の結果を細かく見ると、「そのまま使うのがいい」を選んだ人は、20代から50代が50%を超え、60代は49%、16歳~19歳と70歳以上は、それぞれ、41.5%、40。0%と、ほかの年代より低くなっている。

勤労世代には、いわゆるお役所的な言葉に抵抗が低いということだろうか。もちろん、字で書かれたものを見ると、意味は一目瞭然だから、そのまま使っても意味はわかる、ということなのかもしれない。

コロナ関連”ワード” いつまで続くか

このほか、調査対象になった言葉のうち、「この言葉をそのまま使うのがいい」の割合が低い、「ウィズコロナ」「ニューノーマル」。いずれも、なんとなく、意味がわかるような、漠然としたイメージの言葉だ。使うのなら、「説明をつけてほしい」ということなのだろう。この調査には入っていないが、「エッセンシャルワーカー」も文脈によって、具体的に、当てはまる職業の幅がずいぶん広い。

すっかり定着した感のある「3密」という言葉は、将来、生き残るのか?(画像はイメージ)
すっかり定着した感のある「3密」という言葉は、将来、生き残るのか?(画像はイメージ)

去年発表された2020年度版の調査時期は、2021年3月。ちょうど、新型コロナの感染が日本でも広がり始めた時期から、約1年たったころだ。この調査では、使われた言葉だけではなく、「新型コロナウイルス感染症とコミュニケーション」と表題をあげ、マスク生活やウェブ会議がコミュニケーションに与える影響などを聞いている。

人と人との距離をとるよう呼びかけられる中、わずか1年で、このような調査が行われること自体が、人と人との関わり方が、大きく変化したことの証左だろう。ちなみに、この世論調査自体が、この年から、それまでの、面接方式から、郵送に変わっている。さて、次年度の調査では、「新型コロナ」に関する質問は残っているのだろうか?

(フジテレビ報道局・解説委員 田村浩子)

田村 浩子
田村 浩子

フジテレビ報道局解説委員 社会部・司法担当キャップ、デスク。ウィークエンド編集長などを経て現職。