気になる政治家の“業界用語”
多くの業界には、その世界だけで通じる業界用語があります。内部だけで使われるなら業務の円滑な遂行にも役立つのでしょうが…
1月4日、岸田首相の年頭会見で、このような発言がありました。
「1月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問し、胸襟を開いた議論を行う予定です。G7サミット議長として今年1年強いリーダーシップを発揮してまいりたいと思います。このうち、米国バイデン大統領との会談は、G7議長としての“腹合わせ”以上の意味を持った大変重要な会談になると考えています」

欧米5カ国訪問の意義を説明した箇所で、各社のニュースで取り上げられていました。
この会見を聞いて、意味は、なんとなくわかるのですが、普段は使わない言葉だなと思ったのは「腹合わせ」です。
3冊の辞書を調べたところ、三省堂国語辞典に、(3)として、ともに同じ考えを持てるように、話し合うこと。「トップ同士が~をする」とありました。

ちゃんと辞書に出ている言葉だったのですね。
一方、広辞苑には「腹合わせ」の項目には、ぴったり合うような意味は出ていませんでしたが、「腹」の欄の、「腹を合わす」の意味として、(1)心を合わせる。一致協力する。(2)共に悪巧みをはかる。ぐるになる。と書かれています。
会見で出てきた、「腹合わせ」は、(もちろん(2)ではなく)(1)の意味に近いですね。
これまで、弊社の政治原稿では、あまり見たことがない言葉だったので、政治部のデスクに確認したところ、実は、政治家のブリーフィングなどで非常に良く出てくるとのこと。

確かに、新聞のネット記事を検索してみると、数は少ないもののかなり前から使われていました。ただ、弊社では引用以外では原稿にそのまま「腹合わせ」と書くことはあまりなく、別の言葉に言い換えることが多いそうです。
記事に出てくる言葉としては、あまりふさわしくないということでしょう。言い換えるとすると「下準備」とか「調整」でしょうか。場合によっては「根回し」もぴったりくるかもしれません。
「腹」という言葉には、考えや気持ち、胆力や度量といった意味もありますが、少し「俗」っぽさも感じられます。引っかかりを感じたのは聞き慣れない言葉だった他に、そういった理由もあるのかもしれません。
政治家の発言には、このような、いわゆる“永田町業界用語”的な、独特の言葉が使われることがあります。
政治家が大好きな「一丁目一番地」
例えば、与野党問わず会見ではよく使われる「一丁目一番地」。
政界や官界以外で使われているのを聞いたことがありません。「最初」とか「先頭」のイメージでしょうね。
こちらも、三省堂国語辞典には立項されていて、最優先の(課題)と説明され、用例としては、「政権の一丁目一番地・一丁目一番地の政策」が挙げられています。

「これが、我が党の最優先の政策です」の方が、わかりやすくて心に響くと思うのですが。
ちょっとした引っかかりがあったり、聞いたことがない言葉だったり、横文字だったり。会見や講演でこうした表現が出てくると、ついついそこで思考は止まりがちです。
23日から通常国会が始まりました。「次元の異なる少子化対策」「防衛増税」など、多くの課題が山積です。
国会では、国民みんなが理解できる言葉での活発な論戦を期待しています。
【執筆:フジテレビ 解説委員 田村浩子】