「新たな大量破壊兵器」と言われるAI(人工知能)で制御するドローン(無人機)の「群れ」作戦を、イスラエルが世界で初めて実戦で実施したと伝えられた。
英国の科学誌「ニュー・サイエンティスト」電子版6月30日の記事で、それによるとイスラエル軍は5月中旬のガザ地区での紛争で小型のドローンを群れのように使い、ハマスの武装勢力を発見して確認、攻撃したという。同誌によれば、ドローンの「群れ」が実戦で使われたのはこれが初めて。
蜂などの大群がブンブン飛び交うように
ここで「群れ」としたのは、原語では「swarm」とあり、直訳すれば「蜂などの大群がブンブン飛び交うこと」だ。さまざまな機能を備えた小型ドローンを、昆虫の群れのように多数飛ばして敵の状況を詳細に把握し、最も効果的な手段を備えたドローンから攻撃する。
例えば偵察用のドローンには、可視光、赤外線、放射線などの探知を担当するものがあり、攻撃用ドローンには機銃やミサイルを搭載したものの他、目標に自爆攻撃するものもある。さらに「群れ」には、敵方の電波を撹乱するジャミング担当のドローンも同行することがある。


AIが攻撃を判断
これらのドローンは、人間の兵士が離陸させた後はAIの指示で互いに情報を交換しながら行動し、AIの判断で攻撃を行う。その規模はさまざまで、インド軍は2021年1月ニューデリーで行った軍事パレードの際、75機のドローンの「群れ」を飛行させたが、将来的には1000機の「群れ」を目標にしているという(「フォーブス」電子版2021年1月19日)。
![2021年1月に行われたインド陸軍によるドローンの模擬作戦([Forbes]電子版より)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/700mw/img_d6948cf0b6e3916712d27cecec064203111258.jpg)
低空で飛行する小型のドローンは、レーダーなどで補足しにくく、建物内や洞窟内などにも入り込むことができる。また「群れ」の一機が撃墜されても同機能の別のドローンが代わりを務める。
コストの安さも強みだ。「群れ」で使われるドローンの機体部分は民生機とほぼ共通だ。農薬散布用で搭載能力10キロの民生用ドローンなら数千ドル(数十万円)前後なので、それに軍事用の装備を加えても、せいぜい1機数万ドル(数百万円)ぐらいだろう。
「ドローン39000機で原爆1発に匹敵」する破壊力
今回イスラエルがどのようにドローンの「群れ」を使ったかまでは「ニュー・サイエンティスト」は明らかにしていないが、担当したのはイスラエル軍8200部隊で、人家に紛れ込んでいるハマスのロケット基地を発見し、AIが効果的と判断した方法で攻撃、打撃を加えたとされる。
こうしたドローンは、高度の技術や高額な開発費用を必要としないので軍事大国以外でも開発が進められており、中でもトルコとイスラエルは、各種の小型ドローンと制御システムなどを積極的に輸出を始めている。

核戦争などによる人類の絶滅までの残り時間を示す「終末時計」を公表している「原子力科学者会報」は2021年4月5日、「ドローンの群れは新たな大量破壊兵器だ」とする論文を掲載した。その破壊力は、ドローン39000機で原爆1発に匹敵するとしている。
中国は2020年11月に、3051機のLEDドローンを飛ばして空中にアニメーションを描き、ギネス記録を更新しており、原爆級の「群れ」を制御するのは時間の問題だろう。
このため、ドローンの「群れ」作戦を含めた「自立型致死兵器(LAWS)」を規制する国際的なルール作りが求められるようになってきている。そうした中で日本は、LAWSそのものについて「安全保障と人道のバランスを追求する立場から開発しない」と先月加藤官房長官が言明しているが、せめて防御手段の研究はすべきではないのか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】