開会式を終え、日本勢初最初の金メダルも出るなど本格的にスタートした、ミラノ・コルティナ五輪。ミラノから約250km離れた山岳地帯で行われるソリ競技も開始した。氷でできたウォータースライダーのようなコースを、プロテクターなどは付けず、超高速で駆け抜けていく「リュージュ」競技にも注目だ。

圧倒的なスピード感…ソリ競技「リュージュ」

冬季五輪といえば、普段はなかなか目にすることができない様々な競技を見ることができるのも魅力だが、約140㎞/hで滑走するソリ競技「リュージュ」は、ジェットコースターのような圧倒的なスピード感で迫力満点の競技だ。

小林誠也選手(24)
小林誠也選手(24)
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そのリュージュに今大会、日本選手として唯一出場するのが小林誠也選手(24)。初出場となった4年前の北京五輪に続き、2大会連続出場となる五輪の舞台を間近に控えた1月末、小林選手をインタビューすると「かなり楽しみだし“ドキドキ”もある」と笑顔を見せた。そして、多くの人には馴染みのない「リュージュ」との出会い、その魅力を教えてくれた。

「リュージュは“究極のソリ遊び”です。自分もソリ遊びからここまで来ました。出身は長野県の飯綱町。冬場になると家の前の農道に雪が積もって、除雪が入らない場所なんですけど、そこでソリ遊びをするのがすごく好きで、小学校の頃は自分でコースを作って1人で乗って遊ぶくらい。そんな中で長野で冬季オリンピックを目指す選手を発掘・育成するプロジェクトの募集チラシが配られて、そこで初めてソリ競技というものを知って」

スピード溢れる滑走(提供:日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟)
スピード溢れる滑走(提供:日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟)

――時速140kmのスピードでコースを滑るが?
「もちろん恐怖心はあります。初めてのコースだったりするとすごく怖い。でも“もう行くしかない!”と思ってスタート台に立っています」

“ミリ単位のコントロール”「全身を使って操作」

わずかな操作や体重移動の差が、結果に大きく影響するリュージュ。体の重さも重要で小林選手は4年前の北京五輪から15kgほど増量し、今は80kgほどになった。増やした「体重」をコントロールする繊細さも必要だという。

「感覚的にはウォータースライダーに近い。ジェットコースターなら勝手に曲がっちゃうけど、ウォータースライダーは曲がる時に体が横になって波を打つみたいな感じに近い感覚です」

では、いったいどうやってコントロールするのか?リモートインタビューの画面上で実際に体を左右にひねりながら教えてくれた。

「足での操作が1番操作がコントロールしやすくて、あとは体のねじれ、肩のねじれを使って操作していたり、全身を使って操作をしています。すごく繊細な競技で、ちょっとした操作のタイミングのズレとか、入り口の数センチのズレ、それが大きなミスにつながってしまったりと、繊細な操作が求められる。それが自分の思い描く通りの良い滑り、納得のいく良い滑りができた時にはとても楽しくて、その達成感が魅力の1つです」

そんなミリ単位のコントロールが要求される繊細な競技で世界レベルに追いつくために、小林選手は海外での武者修行を続けている。

「世界のほとんどのコースを回っているのでノルウェーから始まって、ラトビア、ドイツ、オーストリア、カナダ、アメリカ、韓国、中国にも行きました」

パワーの源は「リンゴ」と「ワカサギ」

世界中のコースを知り尽くす小林選手だが、特に思い入れのあるコースを訪ねると、地元・長野で行われた長野五輪で使われたコースに思いを馳せた。自らも幼少期はそこで練習をしていたという。長野のコースは現在、資金の問題で氷が張られる事はなく、使用休止となっている。

「もし自分が動ける年齢の間に長野で滑れるとなれば、ぜひ挑戦してみたいし、将来いつかあるってなったら、おそらく長野のコースを使うのではないかと。自分が初めて滑ったコースなので、また滑りたいという気持ちはすごくあります」と懐かしそうに語った。

リンゴの収穫を手伝う幼少期の小林選手(小林選手提供)
リンゴの収穫を手伝う幼少期の小林選手(小林選手提供)

そして、海外の選手を地元の名産品でもてなしたいという。それは実家の農家で育てていて幼少期から収穫も手伝ってきたというリンゴだ。

「(海外選手が)『日本のリンゴ、長野のリンゴは美味しいよね!』という声も聞きますし、実家のリンゴをぜひ食べてほしいです」

さらに“リンゴ”は小林選手のニックネームでもあるという。

「本当に顔が赤くなりやすくて、人前に出ると真っ赤になるので、結構小さい頃“リンゴ”って言われてましたね(笑)」

ワカサギ釣りを楽しむ小林選手(小林選手提供)
ワカサギ釣りを楽しむ小林選手(小林選手提供)

また、地元・長野の霊仙寺湖でするのが趣味だという「ワカサギ釣り」もパワーの源だそうで、「釣れた時はレースよりも楽しい」と笑顔で語ってくれた。

おいしくて栄養満点の“リンゴパワー”と“ワカサギパワー”で五輪の舞台でもスピード溢れる滑走を披露してくれるはずだ。

わきあいあいとインタビューに答えてくれた小林選手。物腰やわらかく、笑顔の似合う好青年だが、五輪での目標を聞くと、日本リュージュ界の歴史を塗り替えると力強く口にした。

「今回の目標は15位。日本歴代の『男子1人乗り』の最高が16位なので、超えていきたい」

リュージュの「男子1人乗り」で、小林選手は日本時間8日に行われた1回目で54秒679をマークし24位。2回目は54秒645で1回目と合わせ1分49秒324とし、順位をあげ23位に付けた。日本時間9日に行われる3回目を終えて20位タイまでに入れることができれば4回目に進める。

雪国で育ち、“究極のソリ遊び”に魅了された“日本リュージュ界の星”が日本歴代最高順位の更新へ。“地元愛”と“競技愛”溢れる小林選手の滑りに注目だ。

報道スポーツ部
報道スポーツ部