琵琶湖がゲル化…独特な世界観の動画に注目

今、滋賀県が発信したとある動画が、その“シュールすぎる”世界観を見せつけ、話題となっているのをご存じだろうか。

問題の動画は「ニュートンに学ぶ、これからの滋賀ノーマル」というタイトル。「滋賀ノーマル」という言葉も初耳だが、まずはその内容を見てみたい。
 

「ニュートンはペストによる休校中に、落下するリンゴをみて万有引力を発見しました」

「ならば あなたは、落下するフナ寿司をみて なにを発見しますか?」

落下するフナ寿司に我々は何を思うべきか…
落下するフナ寿司に我々は何を思うべきか…
この記事の画像(8枚)

ニュートンがりんごが落ちる様子を見て発見したという「万有引力」のエピソードから始まるこの動画。しかしそれに続くのは、なぜかクルクルと回転して落ちてくる滋賀県名物のフナ寿司!

さらに、ミュージカルのような男性の歌声による突然の問いかけに困惑している間にも動画は進み、続いて「回転する彦根城をみて なにに気づきますか?」という問いが投げかけられる。

高速回転する彦根城
高速回転する彦根城

なおも動画には「ゲル化した琵琶湖」「行進する赤こんにゃく」「増殖する丁稚羊羹」など、次々と不可解なものたちが現れ、そのたびに「あなたは何を思いますか?」「何を学びますか?」と哲学めいた質問が残されるのだ。

なぜか行進する「赤こんにゃく」の群れ
なぜか行進する「赤こんにゃく」の群れ

一見、シュールな映像で滋賀県の名産品をPRしているかのようなこの動画。しかし最後に現れるメッセージは、「Withコロナ」の世界へのメッセージで締めくくられているのだ。

「ある日、想定外に変わってしまった世界。しかし歴史上、同じような状況の中で新しい価値観や発見が生まれてきました」

「今の想定外な暮らしの中にも、未来のヒントが転がっているのかもしれません」

動画の冒頭に登場したニュートンは、ケンブリッジ大学在学中にペストが流行。大学が休校になった期間に有名な「万有引力」を発見したことから、その休暇期間を「創造的休暇」と呼んだという。

動画は、そんなニュートンになぞらえて「新型コロナによって一変した生活の中でも、未来のための新しい発見ができる」と呼びかけているのだ。10月21日に滋賀県公式Youtubeチャンネルで公開されると、18万回以上の再生数を記録(11月4日現在)。

SNSではさっそく「滋賀、最高」の声や、滋賀県がこれまでにも「石田三成CM」など独特な動画を発信してきていることを受けて「また滋賀県が面白いもの作ってる」とコメントが投稿されるなど、話題となっている。

その不思議な世界観の中に、コロナ禍へのメッセージが織り込まれた、インパクト大のこの動画。一体どんな思いで発信したのだろうか。滋賀県庁の広報課にお話を聞いた。

「お願いや自粛が飛び交う中、優しい空気感を」

――動画を作った理由は?

この動画では、ニュートンがペストの大流行により大学が休校された期間に、万有引力の法則を発見できた説をフックに、滋賀の名物名所が、次々と想像しない形で登場してきます。

こんな時だからこそ、次の時代に向けて、新しい価値や発見が生み出せること、決して、人を傷つけたり、否定したり、破壊ではなく、これからの未来を想像(創造)して欲しいという想いをこめています。

また、このコロナ禍において、多くの自治体から、感染症予防対策の徹底や、三密の回避、追跡システムの利用など多くの動画発信がありました。当初は、この動画も、そういった感染症対策の徹底を若い世代にお知らせする目的で制作を予定していました。

ただ、毎日、テレビやWEB、SNSなどあらゆる媒体で、行政からの「お願い」や「自粛」が飛び交っている中で、今、私たちが届けるべき情報は、これだけなのだろうか、何か大事なことが抜けていないだろうかと思っていました。行政として、大事なことを言えば言うほど、人の人に対する許容性や優しさが失われていくような気がしていました。

通常のCM広告であれば、伝えたいことを研ぎ澄ました結果、届く言葉や映像ができあがるのでしょうが、今回の動画制作では、目に見えない発想や、「こんな事をしていいんだ」という、優しい空気感をつくることも目指していました。伝えたいことを洗練させることはせず、「意味の分からなさ」を、決して壊さないように進めてきました。結果として、とても意味が分からなく、良い動画ができたと思っています。

スプーンですくわれる「ゲル化した琵琶湖」
スプーンですくわれる「ゲル化した琵琶湖」

現在、多くの自治体から発信されている「Withコロナ」の生活への注意喚起。

しかしそんな中で、滋賀県が目指したのが「人を傷つけたり、否定したり、破壊ではなく、これからの未来を想像(創造)すること」「次の時代に向けて、新しい価値や発見が生み出せること」を伝える動画。

外出の自粛で家にこもりっきりの生活になってしまった…そんな中でも、家族と過ごす「おうち時間」を楽しむための遊びを見つけたり、「オンライン飲み会」が新たなブームとなったり…と、「Withコロナ」の生活だからこそ生まれた新習慣というのも、新たな発見の一つかもしれない。

そんなことを考えながら改めて動画を見てみると、その「なんでもあり」な自由な世界観に、スカッとした気持ちになり、少し前向きな気分になれそうな気もする。

「ふっと笑みがこぼれる動画になっていれば」

そんな優しく、真面目なメッセージが込められた動画だが、やはりどうしても気になるのが、ひとつひとつのシーンのインパクト!


――耳に残る歌やインパクト大のシーンが続々…このアイデアはどこから?

動画のアイデアは、今回、動画制作を依頼したクリエイターの藤井亮さん(豪勢スタジオ)の提案をベースに、藤井さんらと県の若手チームが会議を行い、県の名産名物を入れ込み、表現方法を工夫する中で実現しました。

音楽作曲は、大阪市の林彰人さん(マロン音楽事務所)になります。歌も林さんが歌われております。

滋賀県の中でも知る人が少ないカロム(指ではじくビリヤードのようなもの)という盤上の遊びや、“令和おじさん”風に、県職員も出演しています。今回、残念ながら登場しなかったのは、「安土城」や「サラダパン」ですね。安土城は、炎上する以上のインパクトが見つけられませんでした。サラダパンはタクアンが挟まった面白いパンなのですが、流石に個別商品はNGとなりました。

――大きな反響がありましたが…

多くの方に動画を見ていただけていることは大変嬉しく思っております。ツイッター上では、「滋賀県が振り切っている。病気だ。頭おかしい」など、誉め言葉をいただいております。このコロナ禍で、見ていただいた方に、何か、ふっと笑みがこぼれて、普段の生活に一息つけるような動画になっていれば嬉しく思います。

また、これは想定していなかったのですが、予想外に県外の方も多くご覧いただいていて、(西川貴教さんのリツイートのおかげもあり)、赤い物体は何だ!?赤こんにゃく。流れているのは何だ。パインアメか!?など。滋賀県のプロモーションにも一役買いました。これは、とても嬉しい効果です。

なぜかおじさんが陣取っているが、こちらが「カロム」の盤
なぜかおじさんが陣取っているが、こちらが「カロム」の盤

滋賀県が発信した、一見「なんだこれは…」と困惑してしまう、不思議な動画。しかしそこには、コロナ禍の中でも視点を変えれば新しい発見ができる…という、前向きなエールが込められていた。

そのエールをかみしめつつ今一度、「行進する赤こんにゃく」に何を学ぶべきか、思いを馳せていただきたい。

【関連記事】
「たらい一つ分の距離感」佐渡島が“withコロナ時代の観光”を動画で発信
観光地PRなのに、たどり着けない…鳴門市が放つ「うずしお動画」に引き込まれる

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。