ヘルニア持ちの筆者は、通院して湿布薬を処方してもらっている。

1袋7枚入りの「ロキソニンテープ」は、3割負担で1袋120円程。

ある時、足りなくなって薬局で「ロキソニンテープ」を購入したら1袋7枚入りで2000円近くした。

自費での購入だから、10割負担で400円ぐらいかと思っていたのだが、甘かった。

この値段の差は、病院で処方してもらう『OTC類似薬』と、処方なしで薬局で買う『OTC医薬品』との違いらしい。

■「OTC類似薬の保険外し」で医療費削減は実現できる?

日本維新の会は現役世代の社会保険料負担を軽減するため、現在は健康保険が適用されているOTC類似薬の保険適用見直しを求めている。

自民党と議論を進め、2025年12月19日には、両党の政調会長が会談し、市販薬と効能が似ている「OTC類似薬」に関する患者負担の見直しで合意していた。

※この記事は2025年5月17日、最初に公開した記事に追記したものです。

しかし「そう単純に医療費削減とはならない」と、日本医師会や日本小児科医会など医療界から懸念の声があがっている。

どういうことか。
「野田阪神駅前いまい皮フ科小児皮フ科アレルギー科」の今井康友院長に話を聞いた。

■家庭の薬代は数十倍に!

【今井康友医師】
「OTC類似薬(医師が処方する保険適用の薬)」と「OTC医薬品(処方なしで薬局等で購入出来る薬)」は、成分や効能、効果は似ていますが、薬価はまったく違います。

「OTC類似薬」は国によって薬価が低く抑えられていますが、「OTC医薬品」は製薬会社が自由に価格を決められる、つまり高く設定できるのです。

例えば皮膚の炎症や湿疹などの治療に使われる「リンデロン軟膏」。

国が定めるOTC類似薬の薬価は1 本(10グラム)169円で、3割負担の場合、薬剤師の料金を加算しても1本100円前後です。

これに対し、薬局で処方なしで買うOTC医薬品のリンデロン軟膏は、1本(10グラム)2000円前後。患者さんが支払う金額は20倍です。

仮にアトピー性皮膚炎の患者が1か月に100グラム使用するとして、3割負担で1000円程度。子供の場合は、乳幼児医療費助成制度対象者なら無料~数百円程度の負担です。

それが、OTC医薬品を使用するとなると100グラムで2万円。量が必要な患者さんでは支出が大きく増えます。

OTC類似薬の主な薬には、「咳止め」や「熱さまし」、「皮膚の保湿剤」などがあります。

風邪や皮膚トラブルは、多くの子供によく起こりますから、特に小さいお子さんのいる家庭の負担は大幅に増加。まさに子育て世代の家計を直撃します。

■「薬価」は自由競争すると価格が上がる?

Q:OTC医薬品市場が活発化すると、自由競争で価格は下がってくるのではないか?

残念ながら上がると思います。アメリカがいい例です。

アメリカは自由診療しかありません。国が価格を規制しない国がどうなっているかというと、医療費がすごく高い。

あまりに薬剤費が高額なのでトランプ大統領が薬価引き下げの大統領令に署名したくらいですよね。

「自由に決められる場合は高くなる」というのが結果として出ています。

製薬会社間で、「高い値段でいく」ことが暗黙の了解のようになってしまっているのです。

自由競争した結果、高いものが出来上がってしまいました。

■処方箋が高額な薬に置き換わり、医療費は増加

治療薬は一種類ではありません。

OTC類似薬の保険外しによって患者さんが負担する薬剤費(薬代)が高額になるなら、OTC類似薬以外の薬を処方する医師が増えるでしょう。

例えば、今、皮膚炎の治療に広く使われているリンデロン軟膏(ステロイド外用剤)の薬代が、月1000円から2万円になるので、OTC類似薬ではない「ブイタマークリーム(非ステロイド系薬剤)」を保険で処方したとしましょう。

薬価は3008円 /10グラムと高額ですが、3割負担なら1000円/10グラムです。薬局でOTC医薬品のリンデロン10グラムを2000円で購入するより、患者さんの負担は半分に減ります。

しかし、高額な薬を処方すると、当然、国の医療費負担も増えます。

OTC類似薬の薬価は安く、リンデロンの薬価は10グラム169円。OTCではないブイタマークリームは10グラム3008円。

高額な薬剤への置き換えが進む結果として、医療費、特に薬剤費は増加すると思います。

■医療控えが起こり、重症化患者が増え、医療費は増加

OTC類似薬の保険外しは、患者さんの自己負担が高くなることから、医療機関への受診控えが増えることが予想されます。

医療控えの結果、病気の発見が遅れて重症化患者が増え、結果、医療費は増加する…ただの風邪かと思ったらヒトメタニューモウィルスで肺炎になって入院、ということも起こり得るのです。

また、「病院へ行っても、結局、薬局で薬を買ってねとなるなら、最初から薬局へ行こう」という人も増えます。

しかし、自己判断は危険です。

大阪府保険医協会が会員に対して行った調査によると、回答した医療機関の4割が「これまで市販薬(OTC医薬品など)を服用し、副作用が出たり重症化したりして来院した患者がいる」と答えています。

「ロキソニンを自己判断で倍量服用し、急性腎不全になった」「総合かぜ薬で喘息発作を起こした」など、自己判断による誤った薬の使用は健康被害の拡大に繋がり、医療費も増加するのです。

■国民の健康を「安価に」守るのが医師の仕事

OTC類似薬の保険外しは、持病がある子供だけでなく、健康な子供の家庭も直撃します。

「これだけせきが酷いと薬が要りますね。処方箋出しますね」から「せきが酷いから薬局で咳止めを買ってね」に変わるわけですが、これまで500円だった薬代が3000円、4000円と何倍にもなるのです。

僕たち普通の保険診療の医者は、普通に治療に来た患者さんを、可能な限り安い値段のお薬で、フルファイト(可能な限りの治療)したいんです。

OTC類似薬の保険外しは、僕たちが率先して処方したい「値段の安い薬」を狙い撃ちして保険で使えなくする政策です。

みなさんの健康を守るためにも、保険診療をしっかりやっていけるよう、これからも実績のある安価な薬を使わせて欲しいと強く願います。
(今井康友医師)

■自民と維新は「保険適用は維持も患者負担の見直しで合意」

この『OTC類似薬』を巡っては、自民党と日本維新の会は12月19日、保険適用は維持するものの患者負担の見直しで合意した。

維新は、現役世代の社会保険料負担を軽減するため、現在は健康保険が適用されているOTC類似薬の保険適用見直しを求め、自民党と議論を進めていた。

合意では、市販薬と効能が似ているOTC類似薬について、湿布やアレルギー薬などの77成分、約1100品目を対象に薬価の1/4を特別料金負担と設定して、患者の追加負担を求めるという。

子供や難病患者などの要配慮者は負担の対象外になる見通しで、食料類似薬の保険給付見直しなどの他の取り組みとあわせて、総額約1880億円の医療費が軽減される見通しだ。

改正法案は次の通常国会で提出され、来年度からの実施を目指すという。

維新の斎藤アレックス政調会長は「この制度を活用して、その範囲拡大や負担割合の引き上げを検討する」と今後のさらなる医療費削減に意欲を示した。

関西テレビ
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