ことしも残すところわずか。忘年会シーズンまっただ中の12月。
各地で飲酒の機会が増える中、自転車の飲酒運転によって、車の免許が停止になる処分が急増しています。
夜の街で取材をすると、「別に事故らんかったらええんでしょ」と缶酎ハイ片手に自転車に乗って去る人も。
一方、実際に自転車を飲酒運転して、停まっていた車と接触し”免停処分”を受けたという人が関西テレビの独自取材に応じ、「“免停”って見たときに『えー!?』って」と驚きを語るとともに、「人にぶつかったりしていたら、もっと大変なことに」と反省の言葉を口にしました。
■「人には迷惑かけてない」横行する危険な”飲酒自転車”
先週、東大阪市で行われた飲酒検問。
この日、車の飲酒運転で検挙された人はいませんでしたが、自転車の隣で警察官に事情を聴かれる70代の男性がいました。飲食店でビールを飲み、自転車で帰宅しようとしていたのです。
警察官が「体の中にちょっとお酒入ったのは分かってはりましたかね?」と問いかけると、男性は「そうそう」と素直に認めました。
呼気からは基準値以上のアルコールが検出されました。
記者から「なぜ飲んだのか」と聞かれると…。
【自転車で飲酒運転していた人】「検問しているとは思わないし、みんなやっていると思うよ。ただ人には迷惑かけてないからね」
反省の態度を示さないこの男性は、酒気帯び運転の疑いで検挙されました。
■厳罰化された自転車の飲酒運転
自転車の飲酒運転はこれまで、正常な運転ができない恐れがある「酒酔い運転」だけが罰則の対象でした。
しかし去年11月の法改正で、呼気1リットルあたり0.15ミリグラム以上の濃度のアルコールが検出された「酒気帯び運転」も対象になるなど、罰則が強化されました。
その結果、大阪府警運転免許課の長谷川雄一調査官は「運転免許を持たれている自転車の運転者に対しても、6カ月(180日)を超えない範囲で、免許の効力の停止を行っています」と説明しています。
今、急増しているのが「自転車の飲酒運転」をすることで「車の運転免許」が停止処分となる件数です。
2025年9月までで、免停処分となったのは全国で896人、大阪は340人と全国ワーストとなっています。
■飲食店も対策に追われるが街の人は「それはちょっと厳しない?」
”飲酒自転車”厳罰化の流れに、酒を提供する飲食店も対応に追われています。
【店員】「きょう、車・自転車ご利用されないですか?大丈夫ですか?ごゆっくり楽しんでいってください」
客に声掛けをするだけでなく、店内にポスターを掲示し、積極的に飲酒運転防止を訴える店舗も増えています。
しかし、街の人に聞いてみると、「うそやろ!?それはちょっと厳しない?自転車くらいは大目に…」「へ~。自転車(の場合)は飲んでて事故って、あまりイメージないかも」と、免停処分になることまではあまり知られていない現状も浮き彫りになりました。
■「人にぶつかったりしていたら、もっと大変なことに」当事者が初めて語る後悔
では一体、どんな場合に免停となるのか。取材を進めると、免停処分を受けた当事者に独自に接触できました。
50代の男性はことし5月、友人と飲食店やラウンジでビールなど6杯飲んだ後、帰宅するため自転車に乗りました。軽い気持ちでスマートフォンを手に持ち、”ながらスマホ”で運転していたのです。
すると、「この辺りに軽自動車が止まっていて、真夜中で真っ暗なんですよね。よそ見していたので気づかずに(車に)突っ込んでしまった。注意力散漫が、お酒の影響で出てしまったかもしれない」と当時を振り返ります。
幸い、男性と車の運転手にけがはありませんでしたが、罰金10万円の処分に。そして、自宅に届いたのが、免許試験場への出頭通知書でした。30日の免許停止処分になったのです。
【“飲酒自転車”で免停になった男性(50代)】「免停って見たときに『えー!?』って。予想外でした」
道路交通法の規定では、この男性のように、「車を運転させてしまうと危険を生じる恐れがある」と判断された場合、免許停止処分となります。
違反者講習を受けることになった男性。仕事にも影響がありました。
【“飲酒自転車”で免停になった男性(50代)】「取引先との打ち合わせがあったが、『こういう事情なので1日2日ずらしてもらえませんか』と。(仕事)相手の時間を奪った。浅はかだったなっていうのと、飲んで不注意で、ながら運転して、もし万が一、人にぶつかったりしていたら、もっと大変なことになっていた」
■「視界が狭まる、距離感がつかめない」独自検証で判明した危険性
「大丈夫」と思っていても事故につながるおそれがある自転車の飲酒運転。一体、どんな状態になるのか。
番組は教習所の全面協力のもと、飲酒状態の視界を再現できるゴーグルを使い、実験を行いました。
【記者リポート】「いま飲酒体験ゴーグルをつけたんですが、まず視界が狭まったような感覚があります。ハンドルを握ろうとすると、距離感がつかめない」
この状態で、白線の上を走ってみようとすると、「かなりふらつきますが、大体白線の上を走っている感覚ではあります」と記者は言いますが、実際には、かなり白線からずれてしまいます。
次に、ポールを人に見立て、間をすり抜ける検証をしてみると、「ゴーグルをつけた状態だと、かなり視界がぼやけて見えるので、障害物…あっ!危ない。ぶつかってしまいました。障害物との距離感がつかめないので非常に危険です」という結果に。
■夜はさらに危険
さらに危険になるのが夜です。
「あ、急に前にポールが…危ない!距離感が掴み…危な!昼間に比べ、特にポールとの距離感が掴みづらい」と、街灯の光などで視界が昼よりぼやけ、危険性がより高まることが分かりました。
■「別に事故らんかったらええんでしょ」繁華街に潜む違反者
しかし、夜の繁華街を調べてみると、飲食店の前に並ぶ客のものとみられる自転車が多数。実際に店から出てきた男性に話を聞くと、「酒飲んでましたよ」と認めます。
一応、違反であることは分かっているようですが、「押して帰ってくださいね?」と促すと、自転車にまたがったまま地面をけって立ち去り、カメラから離れるとそのまま自転車を漕いで行ってしまいました。
さらに、毎日自転車通勤しているという別の男性は、缶酎ハイを手に持ちながら「2リットルくらい」飲んだと答えます。
法律違反だと指摘すると「そうなん?で?」と返し、やめるよう促しても「別に事故らんかったらええんでしょ」と言い残し、去って行きました。
■自転車の飲酒運転
共同通信社編集委員の太田昌克さんは「それだけ深刻な自転車事故が近年増えているっていうことの証左だと思う。『二輪と四輪、違うだろう』とお考えかもしれませんけど、同じハンドルですから、それを操る者として、『飲んだら乗らない』。どうかご自身とご家族のために、しっかり徹底していただきたい」と警鐘を鳴らします。
自転車はれっきとした「軽車両」で車両の一種です。これから忘年会シーズン、そして年末年始と、外でお酒を飲む機会も増えてきます。身勝手な考えから重大事故につながる恐れもある自転車の飲酒運転、皆さん、絶対にしないでください!
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月22日放送)