2025年、福島県で過去最悪のクマ被害が発生し、12月16日時点で人身被害24人・目撃件数1959件と急増。「ナラ枯れ」によるエサ不足と人里に定着した「アーバンベア」の警戒心低下が背景にある中、緊急銃猟による駆除やドローン技術を活用した新たな対策で、人とクマの共存への道を模索している。

雪降る山でも油断できない状況

福島県昭和村の山中。雪が積もり始めた森の中を、猟友会のメンバーが足跡を頼りに慎重に歩いている。クマの痕跡を見逃すまいと神経を尖らせながら、猟友会両沼支部昭和分会の羽染輝男会長は「かなり雪降った場合でも、沢の中にクマがいることがある。まだ警戒は必要。今年は特に」と警戒を緩めない。

冬山でも巡回続ける猟友会
冬山でも巡回続ける猟友会
この記事の画像(11枚)

2025年、村内の山林では枯れた木に生える「ナメコ」が多く見られるようになった。クマの重要なエサとなるナラの実が、「ナラ枯れ」という現象で大規模に失われている。

枯れた木に生えるナメコ
枯れた木に生えるナメコ

エサ不足に苦しむクマたちが、里へと降りてくる危険性が高まっているのだ。羽染さんは「里に降りなければよいが、降りてきたクマはどうしようもない。駆除するしかないと思う」と厳しい表情で語る。

記録的な被害をもたらした2025年

2025年は人身被害・目撃件数ともに過去最悪の状況となった。12月16日時点で、人身被害は24人(前年比+17人)、目撃件数は1959件(前年比+1333件)と、いずれも大幅に増加している。

福島県で目撃されたクマ(視聴者撮影)
福島県で目撃されたクマ(視聴者撮影)

クマの生態に詳しい福島大学食農学類の望月翔太准教授は「異常事態といえば異常事態」と状況を表現する。背景には、単なるエサ不足だけでなく「クマの変化」があると指摘する。「年々、人里で暮らすようなアーバンベアが毎年増えていっている中で、かなり人の生活圏に定着したクマがいたのではないか。今年はそれに加えて山のエサがないので、山からも降りてきてしまった。そういった二つの要素からこれだけのクマの出没が見られたのではないか」と分析する。

福島市の温泉街に出没したクマ
福島市の温泉街に出没したクマ

さらに懸念されるのは、クマの人間に対する警戒心の低下だ。「人に対してすごく警戒をもっていたものが、人里で暮すようになって警戒心が薄れる。人間って怖い生き物ではないと覚えてしまって、事故がたくさん出てしまったという状況」と望月准教授は説明する。

「緊急銃猟」による対応と判断の難しさ

喜多方市松山町では、11月に体長80センチほどのクマが連日目撃され、ワナにかかったところを「緊急銃猟」で駆除した。緊急銃猟とは、人の日常生活圏にクマやイノシシなどが出没した場合、一定の条件を満たした時に市町村長の判断で猟銃を使用した駆除などが可能となる制度だ。

喜多方市松山町に現れたクマ(視聴者撮影)
喜多方市松山町に現れたクマ(視聴者撮影)

福島県内で初めて緊急銃猟による駆除を判断した喜多方市の遠藤忠一市長は、その難しさを痛感したという。「やっぱり躊躇する。何かあったら大変ですから。ただ第一義的には市民の普段の生活を守る・安全を守るという中で執行した」と振り返る。今回は「住居地域と住居地域の間にある農地と雑地だったから、その辺は非常に良かった。同時に運よく日曜日だった。お休みになっている時間に実施できた」と状況が幸いしたという。

緊急銃猟の前日 警戒続く
緊急銃猟の前日 警戒続く

しかし遠藤市長は「ガイドライン作ったとしても予想できない。学校や公共施設、住宅地など、その場その場で判断しなくてはいけない。これが非常に難しい」と述べ、「動物は動きますから、判断が遅れれば別の被害がでるかもしれない。しかしながら判断する基準が難しい」と苦悩を語る。

喜多方市の遠藤忠一市長
喜多方市の遠藤忠一市長

また市街地で猟銃を撃つ射手へのケアも課題の一つとして挙げ、「緩衝地帯を作るとか、電気柵を作るとか。最後の最後に緊急銃猟に私はなるのではないか」と、クマを人里に寄せつけない対策の重要性を改めて強調した。

技術の力で人手不足を補う

深刻な状況に対し、昭和村では新たな対策も始まっている。村が取り組むドローンによるクマの探索は、熱を検知するカメラで茂みに隠れたクマを発見したり、足跡を効率的に見つけたりすることができる。さらに、犬の鳴き声や銃声などを鳴らすことでクマを安全に追い払う機能も備えている。

昭和村ではドローンを対策に活用
昭和村ではドローンを対策に活用

この取り組みは、村内でクマによる人身被害が発生したことを受け、防災用に導入していたドローンを活用し、目撃場所などを定期的に巡回するものだ。現在、猟友会のメンバーは8人と人手不足が深刻な中、大きな助けになると期待されている。

ドローンが撮影したクマ(画像提供:昭和村)
ドローンが撮影したクマ(画像提供:昭和村)

昭和村役場の栗城拓弥さんは「新しい技術を活用しつつ、実際に活動してくださる方の負担を軽減して、より鳥獣被害のない村を作っていければ」と今後の展望を語った。

共存への道を模索する

冬眠の時期に入り活動が落ち着きつつあるクマだが、来年以降も同様の状況が続く可能性は高い。エサ不足の解消や人里とのすみ分け、そして緊急時の対応体制の整備など、多くの課題が残されている。

福島市の中心部で目撃されたクマ(視聴者撮影)
福島市の中心部で目撃されたクマ(視聴者撮影)

人間とクマが共存できる環境をどのように作っていくべきか。その難しい問いに向き合い続けることが、私たちに求められている。
(福島テレビ)

福島テレビ
福島テレビ

福島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。