「令和の回覧板事情」です。地域の情報について自治会などが発信する回覧板。ただ、担当者は仕分け作業、各世帯は次に回さなけばならないという負担があります。さらに、近年はそもそも自治会に加入しない人も増えています。こうした中、負担を軽減し、より多くの人に読んでもらおうと各地で「デジタル化」が進んでいます。長野県内の実情を取材しました。
■回覧板 住民はどう思う?
地域の情報やイベントなどを住民に知らせる「回覧板」。基本的に自治会の担当者が作り各世帯が順番に回していきます。
その始まりは1940(昭和15)年に政府の伝達を住民に届けるために組織化された「隣組制度」といわれています。
この回覧板について、住民はどう思っているのでしょうか。
80代:
「いつもあれ(回覧板)見て、隣近所の様子も分かりますし」
20代:
「隣の人がいなかったら面倒くさいなって思う」
20代:
「実家の時はありましたが読んだことないですね。今、なんでもスマホで分かるので」
今は令和の時代。重宝しているという人もいましたが、回覧板を回すことに煩わしさを感じる人や、読んでいないという人もいました。
地方自治の専門家は―。
県立大(地方自治が専門)・ 田村秀教授:
「回覧板自体が、不在がちの人で止まってしまうとか、伝わってこないとか、めんどくささもありますし、回覧板自体がちゃんと読まない人もいるとか、21世紀の時代の中に少し時代遅れということもないわけではない」
■回っても読んでくれているのかな?
振替休日だった11月24日。長野市三輪地区・本郷区の公民館で行われていたのは回覧板の仕分け作業です。
自治会担当者:
「市から本郷区宛に来た毎月来たものを回覧しなければならないので、回覧順に並べて組長に渡すようにしている」
1400世帯、2800人が暮らす本郷区。大きな自治会のため回覧板は数世帯から20世帯ごとにつくる「隣組」ごとに回しています。区には130を超える隣組があり、自治会の担当者は休日などを使って回覧板の資料やチラシを仕分けています。
自治会担当者:
「大変です。これを皆さんが読んでくれればいいが、なかなか回ったとしてもこれを読んでいるのかなって」
全戸配布する市の広報なども隣組の世帯ごとに仕分けます。こちらがこの日に仕分けた16組分の配布物です。
(記者リポート)
「約70世帯に配る配布物や回覧の資料ですが、持つととても重いものです」
担当者は隣組の組長に持っていくまでが作業。場合によっては2時間ほどかかる日もあり大きな負担となっています。
三輪地区本郷区・藤田彰区長:
「以前は月2回くらい回していた時期もあったが、大変なので今は月に1回でやっている」
■住民たちの状況が分かる効果も
三輪地区では2025年10月から住民自治協議会のホームページでも回覧板の配布物を見られるようにしましたが、「回覧板」自体をやめることはなかなかできないと話します。
三輪地区本郷区・藤田彰区長:
「(高齢者などは)紙ベースではないと情報が届かない人がいる今の状況で、やらざるを得ない。(過去に)回覧板が全然回らないねという話をしていたら、入院していたことがわかったとか、隣組がどうなっているかある程度、分かる効果もある」
■負担を軽減「デジタル回覧板」
11月15日、茅野市玉川小堂見区―。
小堂見区の住民:
「ごみステーションの当番表が来るんですね」
女性がスマートフォンで確認しているのは、ごみステーションの清掃当番表です。
茅野市玉川小堂見区が2025年4月に導入したのが「デジタル回覧板」。回覧板をいつでも、どこでも専用のアプリで見ることができます。
小堂見区の住民(デジタル回覧板を利用):
「(これまで)この日当番と分かっていても、それを写真にとって保存しておかないと忘れてしまうが、アプリを入れてからは常に見ることができるので便利」
利用者のメリットもありますが導入の理由は、やはり自治会担当者の負担を減らすためです。
茅野市玉川小堂見区・外立一幸区長:
「区長の負担を減らす。そして区民の負担を減らす中で回覧板の負荷があり、それをデジタルアプリで減らせれば」
■デジタル回覧板「賛成」48%
小堂見区も長野市の本郷区と同じように自治会担当者の「仕分け作業」が負担だと考えていました。
そこで、2024年「デジタル化推進特別委員会」を設置。住民にアンケートを実施したところデジタル回覧板に「賛成」が48%、「反対」は10%、「どちらでもよい」が40%で賛成多数となり、導入を決めました。
専用のアプリに登録すれば自治会や茅野市のお知らせを見られます。
また、個人やグループでトークする機能や、リアルタイムで投稿する機能もあり、災害時には支援の要請などもできます。
アプリ利用料は年間約30万円。1世帯当たりでは月額約70円。これまでの区費の予算内でまかなえる金額です。
現在、アプリの利用率は6割ほど。今は紙の回覧板も併用していますが、いずれ「デジタル」だけにしたいということです。
■「デジタル回覧板」住民たちの声は
小堂見区の住民からは、さまざまな声が聞かれました。
小堂見区住民(50代):
「スマホを開いて見られるのはすごくメリット。今年から太鼓の活動を始めて、それを今やっているよと(デジタル回覧で)投稿できれば、みんなに知ってもらい、参加してもらったりすることができると期待している」
スマホにあまり慣れていない高齢者もいますが―。
小堂見区住民(70代):
「最初は不安かなと思ったが、マニュアルもあり、使い方の通りにやれば何とか大丈夫です。みんなよく教えてくれる」
こちらは秋田で暮らす男性。小堂見区に自宅がありアプリを活用しています。今年、帰省した時に―。
60代:
「わが家の愛犬が家を脱走して、探し回っていた時、デジタル回覧板を使えばいいと言われて、子犬の迷子を呼びかけたのは心強かった」
「デジタル回覧板」で情報発信した結果、短時間で犬が見つかったということです。
小堂見区は今後、アプリの機能をさらに拡大し区費などをキャッシュレスで徴収することも検討しています。
茅野市玉川小堂見区・外立一幸区長:
「デジタルは冷たいものというイメージが皆さんの中にあったと思うが、そうではなくて助け合いにもできる。(新しい)つながりもここから生まれてくると思うので、楽しい、みんなのことを考える安全、安心の小堂見区をつくれれば」
■山間部の方がメリット!?
近年、自治会加入率の低下が全国的に課題となっています。小堂見区も約600世帯が暮らしていますが、現在、加入率は5割程度。「デジタル回覧板」のメリットをPRし、加入者の増加にもつなげたいとしています。
徐々に進む「デジタル回覧板」。
NBSの調べでは県内で中川村や高森町、木曽地域や松本市の一部の区などでも導入したり、検討を始めたりしているということです。長野市など都市部よりも山間部が多くなっています。
県立大の田村教授は「デジタル化」は山間部の方がメリットが大きいのではないかと話します。
県立大(地方自治が専門)・ 田村秀教授:
「地域によって、山間部は車で(回覧板を)運ぶかもしれない。都市部にもメリットあるが、実はもしかすると山間部の方がメリットが大きいのかもしれない。デジタル化を進めていくことが、生活自体がデジタル化しつつ望ましい」
令和の回覧板事情。
生活スタイルの変化、進む少子高齢化。自治会のあり方とともに回覧板も今後どうしていくのかを考える時期に来ているのかもしれません。