難病を抱える子供達が、入院や通院治療を受ける際、家族や付き添いの人達が、“病院近くの我が家”のように暮らせる『ファミリーハウス』。このうち、福岡市東区にある『シバタハウス』が今、存続の危機に立たされている。これまで数多くの利用者の精神的、経済的負担を助けてきた存在だけに、患者や病院関係者も危機感を募らせている。
1泊1部屋1000円で滞在可能
福岡市東区の九州大学病院のすぐ近くにある『シバタハウス』は、2016年6月10日、アパートのオーナーが無償提供した3部屋をリフォームし、寄付やボランティアで運営している。

存続の危機にある『ファミリーハウス』の必要性を広く知ってもらおうと、2025年11月、市民参加型のイベントとシンポジウムが開催された。代表の髙原登代子さん(64)は、長男が小児がんを発症した経験から、ファミリーハウスを開設したと話す。

ファミリーハウスとは、重い病気と闘う子供やその家族が、病院の近くで滞在できる施設のこと。長期にわたる治療による家族の精神的、肉体的、経済的な負担を軽減することが目的だ。

『シバタハウス』は、1泊1部屋1000円で滞在することができ、これまで9年間の利用者は、延べ1万2000人近くにのぼるという。

髙原さんは、「大体、生活に必要なものは揃っています。キッチンがあるというのは、ホテルとはまた違いますよね。
お母さんの手作りの料理を作っていただける。九州一円、沖縄・山口、時には、四国や関東からもこの施設を利用する場合がある」と語る。

『シバタハウス』の部屋に置かれたノートをめくると、重い病気の子供を抱えた親達の苦しい状況や切実な思いが綴られている。

「PICUへの入院が長くなり、熊本から知らない土地で家族にも会えず、子供の治療の不安もあり、涙することもあったが、ハウスの方々に助けて頂き、なんとか頑張ることができました。本当に感謝」(利用者Aさん:2023年12月)

「娘の手術のために利用させて頂きました。宮崎からです。心臓の大きな手術で、私の心も落ち着かず、不安な1週間でしたが、何かあってもすぐに病院に行ける距離なので、ゆっくりお風呂に入り、寝ることができ、体力温存できたので、明日から娘と一緒に退院まで頑張ります」。(利用者Bさん:2020年7月10日~7月20日)

『病院近くの我が家』なぜ危機?
元々、古いアパートをオーナーから無償で提供を受け、部屋を改装して作られた『シバタハウス』だが、今、存続の危機に立たされている。

理由は、『シバタハウス』の前の道路が、道路拡張計画が進み始め、3年後を目途に『ハウス』を返すことになっているからだ。

高原さんは、『シバタハウス』の近くで、別のファミリーハウスも運営していたが、2024年の夏、老朽化で建物の取り壊しが決まり、立ち退いている。

「提供して頂いているということは、どうしても、こういうことが起こる訳であって、早く自分たちの『ファミリーハウス』をということを、益々考えた。

次に進まないといけない」と髙原さん達は、『シバタハウス』利用者の現状などをまとめた冊子を作り、行政や地元企業などに支援を呼びかける活動を行っている。時には、企業を直接訪問することもある。

この日、高原さんが訪ねたのは、大賀薬局本社。「拠点病院にファミリーハウスがないということは、今の利用状況を見ると、無くす訳にもいかないという思いがあって…」と訴える。
高原さんに対して大賀薬局の大賀崇浩社長は、「抗がん剤のシェアで、福岡だと3割くらいは弊社の患者さんなので、関わっているところでは、大いにあるんですよね。何かしらやらせていただきたい」と理解を示した。

また、医療現場も高原さん達のファミリーハウスの重要性を高く評価している。九州大学病院小児医療センター長の田尻達郎医師は、医療が進歩して助かる命が増える中、『ファミリーハウス』の需要は高まっていると指摘する。

「子供に最新、最善の医療を提供したい。そのためには、インフラ。ファミリーハウスもインフラ。そういう充実は、まだまだ必要だと思う。少子化だからこそ、1人1人の子供の健康、将来の生き方に関して、社会全体が支援するような仕組みになっているとよいと思う」と田尻医師は語る。
「子供が死ぬかもしれない」という恐怖
存続の危機にあるファミリーハウスの必要性を広く知ってもらおうと、2025年11月、市民参加型のシンポジウムが福岡市内で開催された。

シンポジウムでは、九州大学病院の看護師長や九州がんセンターと福岡こども病院の医師も出席し、難病と闘う子供達の治療の状況について説明した。

「重度の先天性心疾患患者が九州中から集まってきます。いつ急変するか分からない状況で、集中治療室にお預かりしていると、そして調子が悪いからすぐ来て下さい、しばらく1週間くらいは、近くにいて下さいとか、お伝えする訳すが、患者さんの家族に負担がかかっていると思う」と『福岡市立こども病院』循環器科の倉岡彩子医師が説明する。

そして、高原さんも「高度医療病院を地元に持っている私たちが、遠くから『子供が死ぬかもしれない』という恐怖の中、やってくる人達をみんなで支えて欲しいんです」と訴えた。

各地で広がる『ファミリーハウス』
『シバタハウス』のようなファミリーハウスは、全国各地にある。福島県の『パンダハウス』は、土地を住宅供給公社から無償で借り、建設費はチャリティーイベントの寄付金で賄った。また、長崎県の『ペンギンハウス』は、銀行の合併で余った支店を提供してもらい、リフォームも銀行側が負担してくれたという。この他、東京のファミリーハウスは、企業や行政に掛け合い続け、築地市場跡地に新たなハウスの開設が決まっている。

こうした中、『シバタハウス』への理解や支援も広がりつつある。今回のシンポジウムでは、髙原さんが直接、社長に会って協力を求めていた大賀薬局が、イベントやヒーローショーを行い、多くの集客に一役かってくれた。髙原さんは、「このハウスがなくなることは、小児医療の致命的なことになると思うので、これをみなさんに共有してもらって、社会からウエーブを起こしたいと思います」と今後も引き続き活動を続けていく決意を新たにしていた。
(テレビ西日本)
