医療の現場で幅広く活用されている漢方薬。原料の8割を中国に依存している状況だが、新たな取り組みが福岡で始まっている。

需要高まるが8割を中国に依存

福岡・筑豊地域の基幹病院である飯塚病院。全国でも珍しい入院治療ができる漢方診療科を持ち、30年余りに渡って漢方による専門的な治療を行っている。

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一般的な薬が、原因を直接取り除くことを得意とするのに対し、漢方薬は体に「足りないものを補う」という考えがベースにある。患者の体質や症状に合わせて自然由来の生薬を組み合わせて処方する。

近年では、新型コロナの後遺症や自律神経の乱れからくる子どもの起立性調節障害への治療など、幅広い治療に活用されていて、生産額はこの20年で2倍以上に増加しているのだ。

飯塚病院の漢方診療科部長、井上博喜さんは「西洋医学が進歩すればするほど、各診療科で細分化されればされるほど、そのはざまに、うまく漢方薬がはまるのかな」と話す。

しかし需要が高まる一方で漢方薬のもととなる生薬は、その8割を中国に依存しているのが実情だ。

日中関係が冷え込み、リスク分散の観点からも国産原料の必要性が高まる昨今、福岡で漢方薬の原料となる植物を栽培できないか。或る取り組みが始まっていた。

原料の安定確保へ高まる国産ニーズ

大野城市や宇美町など2市1町に跨る『四王寺県民の森』。福岡県は、漢方薬の原料を栽培する可能性を探るため2024年度から薬用植物の自生調査を行っている。

一般の利用者は入ることができない自然がそのまま残る区域に、第一薬科大学漢方薬学科教授の森永紀さんとともに、管理者の許可を得て取材に入った。

「これは非常によく漢方薬に使われる薬用植物で『サラシナショウマ』。排水がよく土壌として豊かな肥沃な土地に生えてくる薬用植物です」と早速、森永教授が説明する。

地中の部分には炎症や痛みを抑える効果があり、『ショウマ』という名前で漢方薬として広く使われている植物だという。

漢方薬の原料は、国産は僅か1割程度。福岡県は、原料の安定確保のため国産のニーズが高まっていることに目を付けた。

そしてもうひとつの狙いは、中山間地域の農業振興だ。

福岡県農山漁村振興課課長の外園浩人さんは「中山間地域は、農業生産をするのに不利な地域ですが、そういった地域の農業をしっかり守っていく。なおかつ収益性が高い品目を作って頂くことが、その地域を守ることにも繋がるのではないか」と期待を寄せる。

「西洋薬と漢方薬を併用する」未来

県の委託を受け、実際に調査を行っている第一薬科大学(福岡市)は、西日本で唯一、漢方薬の専門学科を持つ大学だ。

日本でも医師の9割が「漢方薬を処方する」とされている現代において、その需要は今後も伸びていくとみられている。

漢方薬学科の森永教授は「西洋薬と漢方薬を併用する、こういった形で需要が高まっているのが近年の状況。日本は決して広い国ではないんですが、南北に3000キロの長さがあり、国内に薬用植物と呼ばれるものが400種類、自生している」と話す。

今回、中山間部で実施した調査では、県内で100種類以上の薬用植物の自生が確認されていて、なかには珍しい植物も見つかった。

「『オケラ』。福岡で見つけたのも今回、初めてで、九州でもなかなか自生しているという情報はなく、非常に珍しい」と森永教授。オケラは根茎部に胃腸を整える働きがあり、正月に飲む『お屠蘇』にも使われている身近な生薬のひとつだ。

こうした実用的な植物が、数多く確認できたことに手応えを感じ、大学としても今後、生産者への栽培指導や取引先との橋渡し役などを通じて産業として根付くよう後押ししていきたいと考えている。

「薬用植物というのが独特の栽培方法があるので、最初から余り欲張らず、まずは『この植物でいこう』と、そういったところを大学としても福岡県と一緒に考えながら今後、進めていきたい」と森永教授は話す。

その実現の可能性について農山漁村振興課の外園課長は「現時点でも数品目、県内で有望じゃないかという品目が出てきています。しっかりフォローしながら少しでも中山間地域の活力向上に繋がって頂ければ」と前向きだ。

私たちの健康を支え医療現場では当たり前となった漢方薬。その原料生産という新たな産業の芽が福岡で育つ日も近いかもしれない。

(テレビ西日本)

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