被告「店を介さず性的サービス」
一方、被告の美咲さんは、健司さんはデリバリーヘルス店の従業員時代の利用客の1人で、営業終了後は店を介さずに対価を受け取って性的サービスをしていたにすぎず、「不貞行為には当たらない」と主張した。
また、健司さんが既婚者であるとは知らず、「40歳代前半の男性が既婚者であると社会通念上疑いをもつべきであるともいえない」とした。
健司さんの会社に実名で贈り物を送ったことは、独身だと考えていた証拠だと訴えた。
さらに、2024年6月に真紀さん側から送られた通知書に「撤回する意向」と書かれていたことを根拠に、債務免除または請求の放棄が成立したと主張した。
裁判所「不法行為は成立」と判断
裁判所は、2人の関係性とその継続性に注目した。
2人が出会ったのはデリバリーヘルス店だったが、店の営業が終了した後も、月1回程度の頻度で個人的にホテルで性的サービスを提供する関係が、約4年間も続いたことを重視。
さらに、美咲さんに誕生日祝いを渡し、娘の遊興費も負担していた事、自動車の購入支援も行っていた事などについて、「2人の関係は単なる性的サービスの提供とその対価の支払いという関係にとどまらず、夫婦関係の平穏を害する行為だ」と認定した。
つまり、不法行為が成立すると判断したのだ。
健司さんが既婚者だったことを美咲さんが認識していたかどうかという点については、美咲さんが、「自らの家庭や娘の状況、過去の結婚歴、親族の状況などについて踏み込んだ会話」をしていたと認定。健司さんが独身を装う動機は見当たらない事と合わせて、健司さんから家庭や子供に関する会話が一切無かったというのは「考え難い」とし、健司さんが既婚者であると知っていたと認定した。
さらに、健司さんが既婚者であるかどうかの確認を怠ったこと自体、美咲さんの「過失を基礎づける事実」と断じたのだ。
また、妻・真紀が送った通知書の「撤回する意向」については、条件付きの意思表示にすぎず、確定的な債務免除や請求放棄とは評価できないと退けた。
東京地裁は2025年11月、関係の継続期間の長さや、別居という結果などを考慮し、原告・真紀さんが受けた精神的苦痛の慰謝料として100万円、弁護士費用10万円の計110万円の支払いを美咲さんに命じた。
