TSKさんいん中央テレビと山陰中央新報社のコラボ企画「カケル×サンイン」。
共通テーマを同時に取材、テレビと新聞それぞれの視点でニュースの核心に迫ります。
TSKでは安部大地記者が取材しました。
安部大地記者:
今回のテーマは「クマ」です。東北地方で人への被害が相次ぐなか、市町村の判断で市街地での銃を使った駆除が可能になる「緊急銃猟」が可能となりました。山陰では今のところ、人の命に関わる被害は出ていませんが、万一の場合に自治体が安全に対処できるのでしょうか。現状を取材しました。
東北地方を中心に人への被害が相次ぐクマ。
これまでにクマによる死者は13人にのぼり、過去最も多かった2023年の倍以上になっています。
こうしたなか2025年9月、市町村の判断で市街地でも銃を使ってクマを駆除できる「緊急銃猟」が可能に。
山陰両県でも運用を想定した訓練が行われています。
街なかでクマに銃を向ける可能性があるハンターはどのように思っているのでしょうか。
Q.クマをしとめるにはどれくらいの狩猟経験がいる?
浜田市のハンター・三浦幸人さん:
それはなかなか…イノシシでもそうですけど、ベテランでも難しいと思う。
狩猟歴26年のベテランハンターも不安を口します。
Q.緊急銃猟への懸念は?
浜田市のハンター・三浦幸人さん:
仮に誤って人にけがをさせたりとか、万全の策を講じるだろうが、何かで事故が起こった時の補償とか、特に市街地では心情的にはあまり出たくはない。
問題は技術面にとどまりません。
浜田市猟友会・下谷 巧会長:
決め事、ルールがないと『猟友会お願いします』とただそれだけだと不安がある。(市街地における緊急銃猟は)マニュアルを作って、行政も真剣に考えて欲しい。
運用にあたっては一定の条件が定められている「緊急銃猟」。
国は自治体に対し、体制の整備や判断の手順などまとめたマニュアルの策定を推奨していますが、山陰両県のほとんどの自治体では、まだ手を付けたばかりです。
島根県美郷町、山陰両県で唯一「緊急銃猟」の対応マニュアルを作成済みです。
美郷町・嘉戸町長:
住民のみなさんに安全な所に避難してもらう。情報共有とそれぞれの持ち場の役割分担を細かく決めているのがポイント。
マニュアルには、担当課の役割や住民への周知方法などのほか、発砲により建物や人に被害が出た場合を想定し、補償についても盛り込まれました。
さらに、課題となっているハンターの確保についても。
美郷町・嘉戸町長:
猟友会は趣味の会なので、趣味の会に捕獲をお願いするのは難しいお願い。
「タイガー株式会社」さんが認定捕獲事業者として、万が一の場合には緊急銃猟の対応にはあたってもらう。
緊急銃猟で駆除にあたるのは、大阪の鳥獣被害対策用品メーカー・タイガーの社員。
町内にある営業所に、狩猟免許をもつ社員が勤務。
町と連携してイノシシなどの鳥獣対策に取り組んできた実績もあり、銃によるクマの駆除をこの会社が担うことになりました。
ハンターの確保をめぐっては、国はもう一つ新たな方針を示しました。
狩猟免許を持つ専門職員、いわゆる“ガバメントハンター”の育成です。
鳥取県・平井知事:
ガバメントハンターを中心としたクマ対策チームを冬眠明けの時期に発足させていく。専門職員として採用を検討している。
国の方針を受け、鳥取県は採用について検討を始めました。
これが高齢化が進むハンターの後継者確保の一手となるのか、クマの生態に詳しい専門家は…。
新潟大学・箕口秀夫名誉教授:
猟友会の皆さんにおんぶに抱っこ状態になっていますけれども、こういった状態はいち早く解消をしていく。
専門の捕獲をする人たちを育成・組織していくことが重要と思う。
緊急銃猟の安全のためにも“猟友会頼み”からの脱却が必要だと指摘しています。
安部大地記者:
緊急銃猟やガバメントハンターへの対応については、自治体の間でも意見が分かれています。
島根県の丸山知事は「政府が道筋を示さずに言葉で書いても、絵空事で終わってしまう」と、明確な方針を示すよう国に求めています。
また、11月からは警察がライフルを使用してクマを駆除できるよう規則を改定するなど、国は矢継ぎ早に対策を打ち出してはいますが、場当たり的という印象はぬぐえず、自治体が振り回されているようにも感じます。
平川翔也アナウンサー:
ところでクマによる被害は、東北など北日本に集中していますが、山陰ではどうでしょうか?
安部大地記者:
島根・鳥取では今シーズン、クマのエサになるミズナラやコナラなどが豊作で、出没数は昨年度の半数程度、傷者も出ていません。
ただ豊作の翌年は凶作になるケースが多く、来シーズンは山陰でもエサを求めて人里に出てくるクマが増える可能性があります。
新潟大学・箕口秀夫名誉教授:
餌が本当になくなった時には、学習した人里に出て行って餌を取るということを学習してきた熊の集団が膨らんできている。
風船が破裂するのと一緒で、東北は今その“破裂”した状態になってきていると思うが、おそらく山陰地方も近い将来、それが“破裂”する可能性はある。
安部大地記者:
新潟大学の箕口名誉教授は、山陰でも来年は今年の東北のような状況になる可能性はゼロではないと警鐘を鳴らしています。「緊急銃猟」はあくまで非常手段だと思いますが、そもそもクマを人里に近づけない対策も次のシーズンに向け忘れてはいけません。