全国で相次ぐクマの出没。27日には勝山市の高齢男性が自宅の庭でクマに襲われ顔にけがをするなど、近年、人の住む集落や街なかでクマによる被害が増えてます。なぜ、いまクマが里に増えているのか。坂井市丸岡町の竹田地区に住むベテラン猟師に、山で起きている変化やクマ出没への認識を聞きました。
◆雪の減少で野生動物の生態に変化か
取材したのは、この日、78歳の誕生日を迎えた猟師歴50年の竹内作左エ門さんです。1カ月に10回は通っているという丸岡町竹田地区での狩猟に同行させてもらいました。
昭和50年に狩猟免許を取り、ちょうど今年で50年が経つ竹内さん。「1人で猟に行くわけではなく3~4人で行って、イヌも連れて行く。自分の猟のポイントは覚えている」
そう話し、到着した場所で車を降りると、イノシシの掘り起こした跡が。「古いものなら、木の葉が落ちている。だから、昨日かその前に掘り起こしたと判断して、どこから来たのかを見る」
獲物の探し方を教えてくれた竹内さん。また、しばらく進んで見つけたのは、幹の一部が大きく剥がされたネムノキ。シカの大好物だといいます。
「50年間、猟師をやっている中で一番変わったのは、環境。きょう始まったことではない。ずっと積み重ねで起きていること」
竹内さんは山や川、そこに暮らす野生動物や植物とって、生きる環境が悪化していると感じています。「山に入る人がいなくなり、木が大きくなり、樹齢を重ねればその木も枯れる。循環性がない。広葉樹のないところに野生動物は生活できない。この20年間でイノシシ、シカが来て山の動物の環境が変わってきた。カモシカはシカに自分の縄張りをとられてしまう」と話します。
人の営みが山から離れることにより「山の循環」が滞っていることに加え、「雪の量」が大きな環境の変化をもたらしていると指摘します。
竹田地区では、以前と比べ降雪量が減ったことで、シカやイノシシなどの分布域が広がり、クマやカモシカなどの野生動物が山から追いやられているのではないかと竹内さんは推測します。
◆山を追いやられ里に下りたクマ
すると突然、ゆっくりと運転をし始めた竹内さん。何かを探しているようです。
「クマが木に登っていればいいかな。木が黒くなっている。枝を折ったから」
どうやら木に登っているクマを探しているようです。
「どの木でも上がらるわけじゃなくて、実がついている木だけ。里に下りずに山で生活しているクマもいる。里に出るのは山のクマではない。里山のクマ。だから山に帰ってくることはない。山のことを知らないから」
竹内さんによると、山から追いやられた里山のクマは、畑の農作物や人が植えたカキなど栄養価の高いエサを食べるため体も大きく、一度に生む子どもの数も増えるといいます。
近年、問題となっているクマによる人身被害の一因とも言えそうです。
「里グマが増えていることは事実。クマを減らして済むわけではない。シカやイノシシが増えて、居場所がなくなったクマが里に出てきている可能性もある」
クマによる人身被害を減らすためには、ただ駆除するだけでなく山の野生動物全体の管理が必要だと指摘します。
◆地区のハンターはたった1人に
竹内さんはかつて3、4人のハンターとともに狩猟を行っていましたが、みな高齢になり今では地区のハンターは竹内さんただ1人となってしまいました。
「クマを獲って持って帰って、村中が一緒になって食べて騒いだり…あんなことは今はない。20年ほど前からほとんどない。クマをとるメンバーが誰もいないから、それを教えることができない」
「人の生活」が「山」から離れつつある今、人と野生動物との「適切な境界線」のあり方が問われています。
「山が変化すれば、人間も変化するし同時に地域も変化していく。田舎だからこそできること、田舎だからあるものを生かして解決策につなげていけたら」そう竹内さんは話し、山と向き合います。