年々、ビジネスとしての注目度が上がっている陸上での養殖事業。静岡県内でも異業種の企業が“高級魚”や“幻のカニ”などの養殖を始めていますが、商機はあるのでしょうか?
静岡市清水区に完成した魚の養殖施設。
育てられているのはクエタマ。
高級魚のクエと成長が早く、病気にも強いことで知られるタマカイを交配させた、いま注目の魚です。
静岡ガス未来価値共創担当・橘高大輝さん:
我々としては去年からトライアルをしていて、陸上養殖事業に関してはしっかりとできると判断して今回事業化した
養殖ビジネスを手がけるのは一見すると畑違いにも思える静岡ガス。
なぜ、いま異業種から陸上養殖に参入するのか?
古くからニジマスやウナギといった魚類の養殖が盛んな静岡県。
農水省の統計によれば川や湖を活かした内水面養殖の生産量は鹿児島・愛知に次いで全国3位につけ、全体の約11%を占めています。
国内の人口減少に伴い、将来的な売上高の減少に危機感を持っていた静岡ガス。
そこで新規ビジネスとして狙いを定めたのが陸上養殖で、1年前から実験や検討を重ねてきました。
静岡ガス未来価値共創担当・橘高大輝さん:
ハタ系の魚に関しては静岡ではほとんど流通していない魚。今回作った魚を地域の新しい名産にしたい
いま世界では急激な気候変動などによりタンパク源となる肉や魚、乳製品などの生産量が追いつかなくなる“タンパク質クライシス”が近い将来やってくると言われていて、静岡ガスでは年間6000匹のクエタマを育て、出荷することを計画。
そのためにも、いかにして施設の水温を一定に保てるのかがカギを握りますが、そこはエネルギー会社なだけあって得意分野です。
静岡ガス未来価値共創担当・橘高大輝さん:
課題は販路や陸上養殖をどうやって広げていくか
一方、浜松市に本社を置く自動車部品メーカー、エフ・シー・シーが取り組んでいるのが漁獲量が少なく“幻のカニ”とも称されるドウマンガニの養殖です。
エフ・シー・シー生産技術センター
土屋彰範グループリーダー:
今育てているのが200gくらい。市場に出回るサイズは300gからなのでまだ小さい
自動車やバイクに使うクラッチの製造を専門としているエフ・シー・シー。
ただ、いわゆるEVシフトが進む中、2年前から生き残りを懸けて始めたのが新規ビジネスの創出に向けた実証実験です。
とはいえ、最初は悪戦苦闘の連続だったと振り返ります。
エフ・シー・シー生産技術センター
土屋彰範グループリーダー:
排水のところがそのまま下に流れる構造で、脱皮した殻が詰まって水があふれるトラブルや網を破って脱走してしまうトラブルが多かった
共食いや脱走のおそれがあるほか、成長に時間がかかることから養殖は難しいと言われるカニ。
それでも、クラッチの製造で培ってきた発想力と技術力で唯一無二の設備を作り上げました。
エフ・シー・シー生産技術センター
土屋彰範グループリーダー:
自動で動かすところが本業で工場の自動化をするときに使うような技術を使って自動でエサを落としたり自動で掃除をしたり、カメラも乗せてAIでカニの状態を監視している
今では市場に出回るサイズにまでカニを大きくすることに成功していて、生産量を安定させていくことや市場に受け入れられる価格帯になるようコストを抑えていくことが事業化に向けた次なるステップと位置付けています。
エフ・シー・シー生産技術センター
土屋彰範グループリーダー:
お客さんと供給するレストランとしっかり調整していって、少しずつ出荷する体制を作っていくことに向けていければ
専門家は、こうした異業種からの参入を事業として成功させるためには採算性や安定した供給体制はもちろんのこと、どれだけ付加価値をつけられるかが大切だと指摘します。
静岡経済研究所・冨田洋一 主任研究員:
天然魚、海や川で獲る魚も産地の名前をブランドにして販売している会社があるように、陸上養殖でも作っている場所や使っているエサに特徴を出して個性的なブランドを確立していくことが大事。天然魚と比べられるケースが多くなるので天然魚との違いをどう示せるのかがカギ
社会が変化する中で、養殖事業が未来を切り拓き本業以外における新たな収益の柱となるのか…今後の動向が注目されています。