全国的な課題となっている中小企業の事業承継。今回は福井市内で鉄板加工を行う福井市の「北鋼シャーリング」を特集します。
 
父が支えるこの会社に三代目として県外から帰ってきた長男、そして工場長の弟。父と息子2人、会社にかけるそれぞれの思いを取材しました。


福井市若栄町の鉄鋼団地。鉄板加工業者「北鋼シャーリング」です。
 
シャーリングマシンと呼ばれる機械で鉄板を切断した後は、厚さや用途に合わせて加工し建築資材や機械の部品の材料として県内の取引先に運ばれます。
 
創業60年を超える老舗会社の三代目・増田悠二さんは、大学を卒業後に県外の出版社に勤務、今から10年前に福井にUターンし家業に入りました。

悠二さん:
「「帰るのが自然だった…」
 
悠二さんは、鉄板加工の一通りの作業を経験した後、本格的に経営に携わるようになりました。


一方、この会社を長年支えてきたのは、二代目の代表で専務の増田浩三さん。悠二さんのお父さんです。
 
浩三さん:
「我々はほとんど福井では単独の会社。切り板から曲げ、穴あけ。全て工場で使う前の下地までできるのが自慢というかポリシー」
 
堅実に会社を経営してきた職人気質の父。息子が帰ってきたことには嬉しさを滲ませますがあくまで自然体です。
 
浩三さん:
「子どものころから一人か二人は継いでくれると思っていたし、長男もそのつもりだった」


一方の悠二さん。会社が将来あるべき姿に思いを抱くようになりました。それは、長年企業同士の取り引き、いわゆる「BtoB」に徹してきたビジネススタイルから一歩踏み出すことでした。
 
悠二さん:
「僕たちが切った製品は、それがさらに加工されて世に出ていく。最終製品ではない。技術力や企画力を世に発信したいと思った」
 
「最終製品を作って消費者に直接、販売したい」、悠二さんはそんな思いを形にしました。2020年、バーベキュー用の鉄板をオーダーメイドで作るサービスを始めます。
 
悠二さん:
「社員の懇親会でその鉄板を使ったらすごくおいしく焼けて…。これは商品にいけると」

悠二さん:
「今はテストマーケティングの位置づけで、個人事業としてやっているが、早く会社のみんなとこのプロダクトを一つの事業として発信していって、”北鋼シャーリングってそんな面白いことしてるんだ”と、対外的にも対内的にも広めていきたい」


しかし、これらは全て悠二さんの個人事業です。父の浩三さんは、勤務中の活動を許していません。
 
浩三さん:
「まだ早いかなと、反対をしてた。もうちょっと腰据えて全て社内の隅々まで覚えてからなら許したと思うけどね」
 
浩三さんは、先輩経営者として、そして父親として、本業を守り続ける難しさや、大切さを教えようとしていました。

浩三さん:
「人口も増えないし、住宅も余ってる。これ以上キャパや人を増やすのはNOだね」
 


それでも新たな事業を模索する悠二さん。その陰には工場長を務める悠二さんの弟、拓史さんの支えがありました。
 
拓史さん:
「僕が信頼されていれば、自ずと兄もうまく溶け込めるかなと思っていた。しっかり自分のやることをやって、誰も兄を裏切ったりしないように…。信頼される立場になっていたいと思っている」
  
福井県事業承継・引継ぎ支援センターによると、県内企業では親族以外の従業員やM&Aによる“第三者”への承継が7割を占めています。経営者として苦労した父親が、無理に子どもに継がせないケースも増えています。

そうした中、本業を貫く父と、その背中を見つめ挑戦を続ける長男、そしてそれを支える弟…。親子3人の思いが重なり「北鋼シャーリング」は事業をつないでいます。
  

福井テレビ
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