富山県内の漁業就業者数は5年前と比べ2割あまり減少し、初めて1000人を割り込んだ。この状況を打破するため、県内の漁業関係者たちは従来の求人方法を見直し、県外出身者や女性、外国人技能実習生など多様な人材の確保に取り組んでいる。

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深刻化する漁業の人手不足

午前4時の新湊漁港。深夜に出航した定置網漁師たちはこの時間にはすでに港に戻り、魚の選別作業を行っている。

「今の時期新湊はカマス、シイラ、アオリイカ」と照栄漁業の尾山哲兵漁労長は語る。

しかし、働く時間の特異性などから国内の漁業就業者数はこの60年あまりで7分の1にまで減少した。富山県も例外ではなく、農林水産部水産漁港課の垣地綾課長補佐は「個人で営んでいる人も多いので高齢化や後継者不足による廃業や人手不足の影響などが大きいと考えている」と現状を分析する。

求人方法の変化で広がる可能性

この状況を打開するため、新たな求人方法を取り入れる動きが広がっている。新湊で定置網漁を営む照栄漁業では、従来のハローワークや知人の紹介に加え、インターネットでの求人にも力を入れるようになった。

「昔は募集媒体がハローワークや知り合いのつてが100%に近かったがそれだけでは人が集まらなかった」と尾山漁労長。「ネットの募集できるサイトを使うと県外の人が多い。募集の仕方を増やしたら県外の人が増えた。県外の人の目につく機会が増えた」と効果を実感している。

その結果、照栄漁業の11人の乗組員のうち5人が県外出身者となり、そのうち3人が女性という多様な構成になった。

女性漁師の活躍

「富山は漁業がさかんなので移住してやってみようと思った」と岩手県出身の28歳の女性は語る。熊本県出身の25歳の女性も「天然のいけすと言われる富山湾なので色んな魚が見られるのはとても日々楽しい職場」と充実した様子だ。

大阪府出身の宮國麻紗美さん(38)は「海に関わる仕事がしたくて漁師を選んだ。女性に働いてほしいという声は色んなところから聞く。体験もあるのでまず挑戦からしてみたら気軽に入ってこられると思う」と話す。

照栄漁業の尾山漁労長は「男でも女でも外国人でも気にしたことはない」と話し、現在は人手が十分であると語る。

県の取り組み

富山県としても4年前から求人情報をWEBにまとめて掲載するなどの対策を講じている。富山県農林水産公社水産部の渡辺健部長は「県内外からホームページにアクセスしていただいて、県外の人にも来ていただいていてうれしく思う」と手応えを語る。

垣地課長補佐も「男性しかできないというイメージもあると思うが女性の活躍も漁業の現場でも広がってきているのでそういった取り組みも周知していきたい」と今後の展望を示す。

インドネシアからの技能実習生

魚津漁協では、人手不足に対応するため、約10年前からインドネシアからの技能実習生を受け入れ始めた。現在57人のインドネシア人が働いており、魚津で働く漁師の約2割を占めている。

魚津漁協の一室では、日本語の勉強会が定期的に開かれている。20歳のインドラさんは「今はまだ日本語は上手じゃない」と話し、21歳のアレクサンデル・ラ・アチさんは「定置網漁師。大変だけど家族のために頑張りたい」と意欲を見せる。

魚津漁業協同組合の濱住博之組合長は「魚津漁協管内の漁業者も減少の一途でこのままでは廃業などの状態になることを心配して取り組み始めた。優秀で真面目にやってもらっているのでどんどん増えてきた。助かっているというのが本音」と技能実習生の受け入れについて語る。

相互支援の関係構築

日本語の勉強会では、昨年から漁協に勤めるインドネシア人のティアル・リジャルディン・ファウジさんが講師を務めている。「彼らを応援する仕事。日本語のレベルをアップしたい人はここに来て、日本語を教えている。悩みがないように彼らと話をしたり提案したりもしている」と説明する。

底引き網漁師のワユディ・イクバルさん(27)は「日本人は私たちの力がほしいが私たちは仕事がほしい。だからお互いに良い。できればずっと日本で仕事します」と語り、双方にとってメリットがある関係が構築されている。

持続可能な漁業への展望

漁業の現場では、県外出身者や女性、外国人など多様な人材が新たな担い手として活躍している。従来の求人方法にとらわれず、インターネットを活用した募集や技能実習生の受け入れなど、新たな取り組みが人手不足解消の糸口となっている。

富山の漁業は、多様な人材の力を借りながら、持続可能な未来へと歩みを進めている。

(富山テレビ放送)

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