近年注目を集める単発・短時間の勤務形態「スポットワーク」が、保育や介護などエッセンシャルワーカーの人手不足に悩む現場で広がりを見せている。働く側と雇う側、双方にメリットをもたらす新たな働き方の可能性を探った。

子育てとの両立可能に「良いバランスでできている」


富山市の徳風幼稚園。ある日の午前9時半、「おはようございます、よろしくお願いします、"ちょこっと"の山崎です」と出勤してきたのは、保育士と幼稚園教諭の資格を持つ山崎藍さん(41)だ。保育施設の求人を1日単位で紹介する民間サービス「ちょこっとほいく!」を利用して働いている。

この日の勤務は午前中の3時間。遊戯室での見守りや着替えのサポート、担任の保育教諭の1人が有給休暇で不在のクラスに補助に入った。山崎さんは15年以上勤めていた幼稚園を、娘の出産を機に離職。現在は子育てとのバランスを取りながら好きな保育の仕事を続けている。

「保育士の仕事を嫌いになってやめたわけではない。娘が小学生で、自分ができる範囲で仕事をできる。子どもたちとも関わる仕事ができて、子育ても楽しめて、良いバランスでできている」と山崎さんは話す。
人手不足解消の新たな選択肢に

富山県内の保育士の有効求人倍率は2.61倍と、求人が求職者を上回る人手不足の状況が続いている。「ちょこっとほいく!」は、山崎さんのように資格を持ちながらもフルタイムで働けない「潜在保育士」と保育施設をつなぐサービスだ。昨年6月に県内で導入されてから、登録する保育士や施設が急増している。

徳風幼稚園の井上春枝副園長は「先生たちが研修に出かける時や有給休暇を取る時に、事前に分かればそこに入ってもらえる。新規採用ができない状況の中で、『子どもたちが自由にのびのびと安全に』と考えると、こういったシステムは大事」と評価する。
介護現場でも実証実験、農業分野にも拡大


富山市の「特別養護老人ホームささづ苑」では、県とスポットワーク大手「タイミー」が連携し、介護現場でのスポットワーク導入に向けた実証実験が進んでいる。


介護助手として働く30代男性は「転職して本業の年収が落ちたため副業として始めた」と話す。「介護業界は未知の領域で、『人が足りていないのだろう』と良い印象はなかったが、来てみたらすごく自分に合っていた。仕事を終えた後に入居者から『ありがとう』と言われると働いて良かったと思う」と語る。


南砺市の農家、森田英さんも農業専門のスポットワーク求人サービスを活用している。この半年でのべ115人を採用し、そのうち8割がリピーターという。「10代の学生さんや将来農業経営をしたいという人も来てくれる。きっかけになるようなサービスだと感じている」と話す。

急成長するスポットワーク市場
スポットワークの市場規模は、昨年の時点で1216億円。2年前(373億円)と比べ3倍以上に拡大している。勤務時間の柔軟さなどを背景に急速に普及しており、今後も人手不足解消のキーワードになりそうだ。

保育分野では、マッチングサービスを通じて園の理念やポリシーに合う人材を見極める仕組みが整い、スポットワークから本採用につながったケースも出てきている。単なる人手の穴埋めだけでなく、新たな担い手を生み出す可能性も秘めている。
