小児科医が不足する中、さらに医師の働き方改革で小児医療が厳しい状況になっている地域がある。緊急診療の24時間体制維持は不可能。深夜に対応できる小児科医の減少で、子どもを持つ親は不安を抱えている。

小児科医が不足する地域で開業

佐賀・武雄市の住宅街にある「わかば子どもクリニック」。小児医療に特化したクリニックとして2025年5月にオープンした。

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院長は3カ国語を使いこなすルーマニア出身のトカン・ヴラッドさん(48)。日本に留学したトカンさんは医療の仕事に魅力を感じ、武雄出身の女性と結婚したこともあって九州大学で医療を学んだ。

武雄市にクリニックを開いたのは“妻のふるさと”という理由だけではない。小児科医が不足している地域の医療に貢献したいとの思いで、この地を選んだという。

わかば子どもクリニック トカン・ヴラッドさん:
小児科は成長や発達を見ることができる。それが私にとって一番面白い。親の話を聞いて一緒に考えるという姿勢を常に見せることを心掛けている

夜間の小児科診療 体制維持が困難に

かつて武雄市内には小児科を掲げる診療所が4か所あった。しかし、そのうち半分が去年(2024年)3月に閉院。小児科の減少は、子どもを持つ親にとって大きな問題だ。

母親:
すごく待ち時間がかかって半日ぐらい終わってしまう

父親:
昔は自分の好きな病院を選べたが、いまは選べない状態

この地域では、小児医療に関する深刻な問題が生じている。それは、急病の子どもに対応する夜間診療など“医療体制の限界”。背景にあるのは小児科医の不足だ。

武雄市や嬉野市など佐賀県南部の救急医療を担う嬉野医療センターでは、今年(2025年)3月までは小児科医が24時間365日、来院者に対応していた。しかし、4月以降、夜間の時間外診療を一部制限せざるを得ない状況になっている。

医師不足…さらに働き方改革

嬉野医療センターの小児科で働く医師は昨年度から2人減り、深夜帯をカバーできる医師はわずか3人。深夜働ける小児科医が減少し、小児科診療の維持が困難になっている。

深夜に働ける小児科医が減少する中、さらに追い打ちをかけたのが“医師の働き方改革”。
医師の過酷な労働環境を改善しようと、去年(2024年)4月から残業時間などが法律で規制され、違反した病院には罰則もある。

嬉野医療センター 力武一久院長:
24時間体制を維持するというのは、今の働き方改革でもう不可能。できる範囲内での夜間診療を行う

現在は、緊急の事態には近くに住む医師を呼び出すことで対応することにしているが、子どもを持つ親にとっては安心できる医療環境とは言えない。

母親:
診療時間変更の張り紙を見ました。親としては我が子が夜遅く急病になったらすごく心配

「地域に必要な医療を勉強したい」

小児科医が不足する武雄市でクリニックを開業したルーマニア人の医師トカン・ヴラッドさんは、診療を終えた後、月2回のペースで地元の医師会が運営する検診センターに向かう。夜間に急病の子どもなどに対応するためだ。

地域の小児医療が課題を抱える中、トカンさんは地域に根差した医療を長く提供したいと話す。

わかば子どもクリニック トカン・ヴラッドさん:
他の先生と協力して、この地域にどんな医療が必要なのかを勉強したい。子どもの成長をかたわらから見守っていくのが小児科医の役割なので、それをこの地で長くやっていきたいと思っている

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