三重県南伊勢町にあるスーパー「サンバードコトブキ」は、名物の焼きサバ寿司をはじめ、地元でとれた新鮮な魚や手作り総菜が並び、地域の人々の暮らしを支えています。亡き両親の思いを受け継いだ3代目女性店主の奮闘に密着しました。
■名物は香ばしい「焼きサバ寿司」…港町で唯一のスーパー
三重県の港町に、昭和38年創業のローカルスーパー「サンバードコトブキ」があります。
生活雑貨から食品、鮮魚、総菜まで、なんでも揃います。
客:
「お魚がおいしい」
別の客:
「安くて新鮮」
店の自慢は、地元で獲れた安くておいしい魚。例えばこの日は、高級魚と言われるムツが2匹で227円。刺身でも煮付けでもおいしいタイは235円。どれも、その日の朝に水揚げされたばかりで新鮮です。
店には鮮魚だけでなく、手作りの弁当やお総菜も並びます。なかでもコトブキの看板商品といえば「焼きサバ寿司」(1本1000円)。
客:
「焼きサバ寿司はすごくおいしい」
別の客:
「好きなんで。おいしいです」
香ばしく焼いたサバと、少し甘めのタレが絶妙にマッチ。いまの時季に獲れる“秋サバ”は脂がのっていて、特においしいと評判です。
そんなコトブキは町で唯一のスーパーマーケットで、住民の暮らしの支えになっています。
客:
「コンビニもないし、モノを買うのに30分以上走らないと買えないので」
別の客:
「欠かせない店」
地域の住民たちの胃袋を預かっているため、休みは元日のみ。時には商品を自宅まで届けることもあります。
■受け継がれる“父の味”…丁寧に仕上げる「焼きサバ寿司」
そんな60年続くローカルスーパーを営んでいるのは、2024年に跡を継いだばかりの3代目店主・小田るみかさんです。
るみかさん:
「父と母がずっと『この地域の人のために』って。父と母の思いをつなげていきたい」
午前5時、るみかさんの1日は総菜の仕込みから始まります。メニューのほとんどが手作りです。
るみかさん:
「日によって種類を変えて、軽食だけで200食ぐらい。毎日皆さん広告を見て、広告の品を毎日買いに来る人もいる」
お米は地元でとれた新米を使用。1日に三升も炊くといいます。焼きサバ寿司も、るみかさん自らが仕込んでいきます。
るみかさん:
「サバの骨を1つずつ取っていきます。食べる時に骨があるとイヤな感じになるので、丁寧に1つずつ」
手作業で1本1本小骨を丁寧に取り除きます。
骨を取ったら、先代から受け継いだ少し甘めの醤油ダレに漬け込みます。ひと晩漬けたところでオーブンへ。美しい飴色になりました。
サバと酢飯を型に合わせたら、米粒がつぶれないよう、ほどよい力加減で押します。全て手作業。1本1本、丹精込めて作っています。
るみかさん:
「甘めです。この辺は漁師町なので。酢飯もけっこう甘めです。父の味をずっとつなげていきたい」
コトブキ名物の「焼きサバ寿司」は、先代から受け継がれてきた漁師町ならではの逸品です。
■世代を超えて…高齢者の“暮らし”を支える店
午前9時30分、開店と同時に常連客が顔を出します。そのほとんどが65歳以上の高齢者です。
常連客:
「ほとんど毎日」
車を運転できない高齢者のために「コトブキ前」というバス停も作られました。地域の人たちに少しでも安くておいしいものを提供したい。るみかさんは、それが自分の使命だと考えています。
昭和38年に祖母が開業したコトブキは、父・博さんが跡を継ぎ、地域に根差したスーパーとして長年愛されてきました。しかし、父・博さんが他界。
るみかさん:
「父が50年以上かけて築き上げた店を、私が継いでいけるのかなって不安だった。覚悟を決めたのはこの1、2年」
当初は跡を継ぐか迷っていましたが、父と母がずっと『この地域の人のために』と続けてきた思いを受け継ごうと決意します。
るみかさん:
「うちがなくなったら地域の方は買い物するところがない。コトブキはなくてはならない。あって当たり前と、地域の人は思ってくれている。その思いで私も覚悟を決めました」
この日は近くのイベントに出店。焼きサバ寿司は、並べたそばから飛ぶように売れていきます。
客:
「お店に並んでもすぐに売れちゃう」
別の客:
「おいしいの一言」
お店に戻るとすぐに接客。買い物の後の世間話はいつもの光景です。住民に寄り添い、愛されてきた“まちのローカルスーパー”。
るみかさん:
「お客さんに『来てよかったな』って思ってもらいたい。楽しんでもらいたいし、期待を裏切らないようにしたい。この店をできる限り続けていきたい」
父と母の思いを胸に、るみかさんは今日も変わらぬ味と笑顔で、地域の暮らしを支え続けています。
