国内に約20万人が暮らしているとされるイスラム教徒「ムスリム」。外国人労働者が増えて、日本で家庭を築き、日本で生まれ育つ「第2世代のムスリム」も増えている。

しかし、いま、ある理由から安心して日本で暮らせないと感じているという。それは、お墓の問題だ。

静岡県藤枝市に住むスリランカ人のモハメドさん一家。

16年前に父親の仕事で日本に移り住んだモハメドさん。妻のアイシャさんに、リーナちゃんとライアンくん。一家4人、毎日にぎやかに暮らしている。

モハメドさん一家(静岡・藤枝市)
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大きな不安・・お墓

しかし、日本での生活に大きな不安がある。

モハメド・ヌーマンさん:
私たちの家族には墓がない。日本では火葬が主流なんですが、私たちは土葬をしないといけないので土葬できる土地が見つからない

モハメドさん「土葬できる土地が見つからない」

イスラム教は土葬

イスラム教では火葬ではなく、土葬で遺体を埋葬する。しかし、土葬ができる専用墓地は国内に10カ所程度しかなく遺体の行き場がない。自分たちの将来、そして日本で生まれ、日本で育った子供たちはどうなるのか。

モハメド・ヌーマンさん:
外国人だけでなく、ムスリムは日本人にもいるので、亡くなって土葬できる場所がないと困る。

山梨県にある専用墓地

ムスリムの墓地とはどんなものなのか?

甲府盆地を見下ろす山の中腹に立つ曹洞宗の寺「文殊院(もんじゅいん)」。敷地の一角に、国内でも数少ないムスリムの専用墓地がある。

ムスリムの専用墓地(山梨・文殊院)

文殊院・古屋和彦住職:
こちらがイスラム教徒の方々の墓地です。

杉村祐太朗記者:
日本のお墓とはずいぶん雰囲気が異なりますね。

文殊院・古屋和彦住職:
イスラム教徒は、墓地を華美に飾り付けをしないと聞いています。

杉村祐太朗記者:
墓地の区切りはどうなっていますか?

文殊院・古屋和彦住職:
四角い石が四隅に置いてあって、その下に土葬したという目印になっています。

華美な飾りはない

先代の住職がムスリムと交流が深く、50年ほど前に寺の土地の一部をムスリムの専用墓地にした。当初は年間数人程度が購入していたが、1990年代半ばから国内で暮らすムスリムの増加に伴い年間10人以上に。

これ以上増えると収容できなくなると感じ、2002年には寺の檀家が眠る墓の一部もムスリムの墓地として使うようになった。こうして、現在では約150人のムスリムが一般の墓のとなりで眠っている。

文殊院・古屋和彦住職:
十分に埋葬先が確保できないので、致し方なくこの場所に集まってくる。これが日本の現状というのはあると思います。

専用墓地の拡張もした

墓地が増えない理由

墓地が増えないのには理由がある。

「静岡ムスリム協会」の事務局長をつとめるアサディみわさん。協会は県内にムスリムの専用墓地を新たに作ろうとして、去年11月、宗教法人格を取得した。

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長:
特に今年は、新型コロナウイルスで多くの人が一気に亡くなる可能性がある。そういった方を受け入れられる墓地を整えることは、コミュニティとしての大きな責任と感じている。

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長「コミュニティとしての大きな責任」

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長:
ムスリムが亡くなったとき、体をきれいに水で洗う。そのあとに真っ白い布で体を覆って、それから埋葬する。

遺体は布で包んだ後、そのまま土葬する。

これまでのムスリム墓地は100万円近くかかるため、高額で多くのムスリムにとって手が出しづらいと話すアサディさん。手に入りやすい墓地を作るべく候補地を探しているが、新設には高いハードルがあると言う。

遺体は布で包み土葬する

市の条例は・・・

協会は静岡市内の山中に候補地を見つけたが、市から難色を示された。

テレビ静岡の取材に対し市が公表した条例の事務取扱要領には、墓地の設置場所について次のように書かれている。

「申請地の周囲約100メートル以内に水道の水源又は飲用井戸等がない場所とする。ただし、墳墓内に焼骨のみを埋蔵することが明らかな墓地についてはこの限りでない」(事務取扱要領より)

条例の事務取扱要領には「水資源保護」が(静岡市)

市によると、火葬された遺骨の埋葬は近くに水源があっても設置が許される場合があるが、土葬の場合には衛生面などの懸念により条件をより厳しくしているという。

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長:
飲料水や飲料用水のもとになるような水源地に近い所はいけない。実際どのくらい水源地から離れることで安全が確保されるのかという質問をしたが、明確な答えがもらえなかった。

“土葬”の条件は厳しい

安心して人生を全うするために

また、他県ではムスリムの団体が新設墓地のための土地を確保した後に、地元住民が反対運動を行い計画が頓挫したケースもある。

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長:
安心して、経済的にも、静岡で暮らしながら亡くなる事もできる人生がここで成り立つような環境を整えていきたい。受け入れてもらえる日が来たらうれしい。

静岡ムスリム協会・アサディみわ事務局長「受け入れてもらえる日が来たらうれしい」

国の外国人労働者の受け入れ拡大に伴い、日本で「生」を受け「育ち」「働く」外国人も今後ますます増えていくことが予想される。

そんな彼らが、人生を送ったこの日本の地で眠ることのできる自由を望んでいる。
 

イスラム教の礼拝堂・モスク(静岡市)

(テレビ静岡)