下田市に残る歴史的な建物が宿泊施設として新たなスタートを切った。そこには観光面で新しい風を吹かせたいという願いが込められている。
歴史的建造物が宿泊施設に
ペリー艦隊率いる黒船来航の時代から続く歴史の息吹が、今も市内の至る所に残っている開国の街・静岡県下田市。

そんな下田にあって、ひときわ重厚な存在感を放っているのが築170年の雑忠だ。
下田まち遺産にも登録されている歴史的建造物が、宿泊施設として新たな一歩を踏み出した。
下田のために!
かつては廻船問屋として財を成した雑忠。
現在は当主の弟・鈴木浩之さんが管理している。
東京で生まれて東京で育ち、現在は千葉県に住む鈴木さんだが、父の死をきっかけに雑忠の管理をするようになり、次第に下田のために役立てる方法はないかと考えるようになったといい、「いまは鈴木家の人間が(下田に)住んでいないのに、『雑忠の鈴木です』と言うと『雑忠さん、雑忠さん』という感じで親しみ込めて呼んでくれる。そうして支えられているのだから、街のために使わなければという使命感が湧いている」と話す。

今回、宿泊施設にするためサポートを依頼したのが、歴史的・文化的価値の高い建物を現代のライフスタイルに合わせて再生するビジネスを展開する合同会社いとへんで、「オーナーとして使う時もあるが、使わない時は貸し出すことでお金を生む。他の人を招き入れるために家の中も定期的にメンテナンスをする。すごく良いサイクルで回っていると思った。雑忠もそうしたサイクルで、私が使う時もあるが、使わない時は他の人に使ってもらい適切な収益を上げ、それをメンテナンス費用に回して後世に伝えていけたらと思っている」と、その理由を明かした。
いとへんの佐々木幸壽さんも「他にも古い家を(宿泊施設として)やっているが、ここまで伝統のある素晴らしい家に出会ったのは初めてだった。そんな家に関われるのは本当にうれしい」と笑顔を見せる。
職人技が息づく建物と庭園
雑忠を建てたのは鈴木さんの曾祖父で国会議員も努めた鈴木忠吉さん。
残された写真には岸信介や鳩山一郎といった名だたる政治家の姿も確認できる。
今回、宿泊施設として生まれ変わったのは母屋の奥座敷と離れで、柱や梁、欄間など部屋の至る所に当時の職人技が息づいており、庭園が訪れた人を静かに迎える。

2025年9月に開かれた内覧会には市民や観光客など100人あまりが訪れ、注目度の高さがうかがえる雑忠。
この日訪れた市民は「こちらに泊まった人は異空間を体験できていいのではないか」と口にし、別の市民は「こういう建物は是非、後世の人に残してもらいたい」と歴史的なの新たな一歩を歓迎した。
街歩きの起点となって恩返しを
鈴木さんの願いはただ1つだ。

「下田の街を歩き回る起点にしたい。そうすることで、ここをきっかけに下田に遊びに来た人が下田のことを好きになって、また来てくれる。とにかく下田にまた来てくれる人が一人でも増えたらいいなと思っている」
歴史を未来へとつなぐ建物が下田の街に新たな風を吹き込もうとしている。
(テレビ静岡)