能登半島地震で全壊の被害を受けた石川県七尾市の老舗喫茶店「中央茶廊」が、地震からちょうど1年9カ月となる2025年10月1日、“コーヒーの日”に元の場所での営業を再開した。自家焙煎のコーヒーと昭和の雰囲気で地元の人々に親しまれてきた同店は、地震後、市内の仮設商店街で営業を続けていたが、待望の「帰還」を果たした。県内の仮設店舗からの移転再開第1号となる。

「新規オープンという感じではなく、やっと少し震災前に戻った」

中央茶廊 窪丈雄さん
中央茶廊 窪丈雄さん
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「嬉しいのは嬉しいんですけど、喜んでいい嬉しさじゃなくて、ほっとしている」

店主の窪丈雄さんは営業再開の朝、そう語った。午前6時半、開店準備をする窪さんの表情には、達成感というより安堵の色が浮かんでいた。

「新規オープンっていう感じではなくて、やっと少しずつ震災前に戻ったかな」

中央茶廊は1953年の創業以来、七尾市府中町で豆と自家焙煎にこだわったコーヒーを提供してきた。地元住民に愛され続けて73年目を迎えるこの喫茶店だが、2024年1月1日に発生した能登半島地震で店舗は全壊判定を受けた。

「ここが崩れてます」当時、店内を案内してくれた窪さん。

「本当は行き来ができるようになっていたんですけど、震災直後は来られなくて夜の8時過ぎに一回様子を見に来て、表が崩れているのを見て」「中に入ってみて、パーティションが倒れていたり、ぐちゃぐちゃに食器が割れていて足の踏み場もなかった」と話していた。

全壊の被害を受けながらも、窪さんは「お店を復活することが一番」との思いで再建への道を歩み始めた。

2024年8月には無事だった焙煎機などを持ち込み、七尾市一本杉通りの仮設店舗で営業を再開。

同時に、元の場所での再開を目指して自費で店舗を解体し、一日でも早く戻れるよう努力を重ねてきた。

1日の再開の日。「目指していた仮設第一号卒業生になった。やるならずっとそれを目指さないとって思っていた」と話す窪さん。仮設店舗を出て元の店を再建したのは、窪さんが県内第1号だ。

昭和の雰囲気そのまま「昔のイメージを残しました」

その再開した店舗に、石川テレビの稲垣真一アナウンサーがお邪魔した。

店内に入って最初に目に入るのは、ガラスケースに収められた破片。これは被災前の店舗の壁の一部だという。「地震のことを忘れないように」という思いから設置されているそうだ。

中を案内してもらうと、そこには震災前と変わらない昭和の趣ある雰囲気が広がっていた。

「コンセプトは昔のお店を思い出していただけるような形で、金沢の設計事務所さんにお願いして、昔のイメージを残しました」と窪さんは説明する。

パーティションやテーブル、椅子は震災を乗り越えたものをそのまま使用。

無事だった焙煎機も設置した。

君は放課後インソムニアで登場した座席も復活
君は放課後インソムニアで登場した座席も復活

さらに奥に進むと、七尾を舞台に描かれた、アニメ「君は放課後インソムニア」の13話で登場した座席も。

「できるだけ昔のままに戻しました」と窪さんは胸を張る。

常連客との再会「昔のままだねって言ってもらえれば」

再開初日、店内には窪さんのコーヒーと会話を楽しみに訪れた常連客の姿があった。

七尾市の茶谷義隆市長も訪れ、「懐かしい半面、新しくて新鮮だなという感じはします。でもレイアウトとかほとんど変わっていないので前と同じかな」と感想を述べた。

「これからほかのいろんなお店も再建していくと思いますけれども、励みになるのではないか」と茶谷市長は期待を寄せる。

常連客との会話も自然に戻った。「きれいになったな」「ようやくちゃんと店っぽくなりました」。窪さんと客の間には震災前と変わらない親しい会話が交わされ、中央茶廊には地震前と変わらない時間が流れ始めた。

「輪島のお友達がここのコーヒー大好きで、再開するということでこれをおみやげに」と豆を買いに来た客もいた。「一杯ひっかけに来てください」と窪さんは笑顔で応じる。

コーヒーの日にブラジル産「キャラメラード」で乾杯

カウンターに座ると、ステンドグラスのランプが目に入る。これも震災の被害を免れたものだという。

再開初日の10月1日はコーヒーの日。この特別な日に窪さんがいれてくれたのは「ブラジルのキャラメラード」というコーヒー。

「きょうコーヒーの日に、こうやって店の再開の日を迎えられたのは幸せなことだな」と話す窪さん。「去年の正月の地震が無かったらこういう事はなかったわけで、ようやく日常に戻ったという感じです。」

その日常に戻る第一歩となるコーヒー。透き通った美しいコーヒーだ。

再開を祝してコーヒーで乾杯をする2人。コーヒーを一口味わうと…「すっきりしていてしかし香りは本当に口の奥から伝わってくるような、いいコーヒーですね」と稲垣アナウンサーは話す。

73年の歴史から100年へ「みんなが元気になってれば」

窪さんは今後について「今、創業73年目に入っていますので、あと27年頑張って100年のお店にしていきたい」と意気込む。

100年後の七尾市の風景はどうなっているだろうかと問われた窪さんは、「想像もつかないですけども、みんながね、元気になってればいいな」と優しい笑顔で答えた。

「一緒にコーヒー飲みながら語ったり、たわいもない話をするのはやっぱり日常だな」と窪さん。今は、飲み物だけの提供だが、徐々にメニューも増やしていくそうだ。

「君は放課後インソムニア」でも描かれたこの喫茶店が、これからも七尾市の日常の一部として、人々の笑顔を集める場所であり続けることだろう。

中央茶廊
石川県七尾市府中町12
午前7時~午後4時(不定休)

(石川テレビ)

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