ファン層が拡大し、人気がV字回復している競馬。一方で第一線を退いた競走馬がどのような余生を送っているのか、知らない人も多いのではないだろうか?
毎年7000頭が引退する競走馬
多くのファンを熱狂させ、これまで様々なドラマを生んできた競馬。

JRAによると、勝ち馬投票券の発売金から返還金を引いた売得金は1997年をピークに減少傾向にあったが、ここ10年あまりは右肩上がりにV字回復。
ゲームアプリやアニメなどの影響もあって、ファン層が拡大していると言われている。
サラブレッドをはじめとする競走馬の寿命は概ね25年から30年とされ、その多くは5歳前後で第一線を退き、毎年7000頭もの馬が引退している。
ただ、繁殖用として競馬の世界に残ることができる馬はほんの一握りだ。
競走馬のセカンドキャリアは?
静岡県浜松市浜名区引佐町にある奥山高原乗馬クラブ。
現在飼育している8頭のうち4頭が元競走馬だ。

ここで日々、馬たちと向き合い世話をしているのが高橋嘉徳さんと妻の千夏さん。
毎日の体調管理はもちろんのこと、夏は暑さを避けた午前4時頃から馬場に出て調教を行っている。
速く走ることが是とされる世界で生きてきた元競走馬だけに、安全に人を乗せられるレッスン馬としてデビューするまでには少なくとも1年、長いと3年ほどかかるそうで、高橋嘉徳さんは「まずは人を乗せられるような健康状態であることが大切。馬によっては気性的に人を仲間と認識していないので、後からの調教で何とかなる部分もあるが、特に乗馬愛好家を乗せるためには元々フレンドリーな馬がいい」と話す。
高橋さんが引退した元競走馬と関わりを持つようになったのは47年前。
北海道生まれの牝馬クピードーもそのうちの1頭で、近年の競馬界ではほぼ見かけることがないアングロアラブと呼ばれる品種だ。
現在28歳のクピードーは人間の年齢に換算すると80歳から90歳くらいの高齢のため、すでにセカンドキャリアからも引退しているが、以前はレッスンや国体の馬術競技などで活躍していた。

オーナーの谷田部敬太郎さんは年に数回、自宅のある東京から様子を見に来ていて「20歳くらいまで頑張ってくれればよいと思っていたが、こちらのクラブの管理が非常によいので、ケガもしていたが、おかげさまで体もすごくよい」とクピードーを労わる。
JRAなども支援に乗り出す
JRAなどは2017年に引退競走馬を取り巻く環境の改善や向上を目指す検討会を設置。
2024年には様々な競馬関係者が連携して新たな団体を設立し、余生を支援する事業や一時休養施設の運営に取り組んでいる。
一方、地方競馬の世界では1年以上レースに出走しなかったことで登録を抹消される競走馬が年間1300頭あまりに上り、そのほとんどの行方を把握しきれていないほか、食用となる元競走馬がいることも現実だ。
高橋さんは「毎年、日本の乗馬クラブ全体でも全ての引退競走馬を受け入れられるほどのキャパはない」とした上で「ケガでどうしても乗馬用にすることができない馬もいるので、家畜としての要素に戻っていくことも必要かな」と本音をこぼす。
馬は牛や豚などと同じ、いわゆる産業動物の一種。
ケガや苦しい思いをしたまま余生を過ごすことが馬にとって本当に幸せなのか?
それだけに、高橋さんはレッスン馬として生きていくのか、それとも食用となり生涯を終わらせるのか、その選別は必要だと考えていて、「肥育業者も安心して食べられるようにと配慮していることは知っている。すべて乗馬用にできない部分があるので、そこはやはり理解していく必要があるのではないかと思う」と吐露する。

1頭でも多くの馬にセカンドキャリアを
それでも、1頭でも多くの馬がセカンドキャリアを歩めるようにするため「(引退競走馬の)セカンドキャリアというのは、乗馬クラブや個人で飼ってくれるオーナーがいることで成り立っているので、できれば馬を好きになり、自分で1頭飼ってもらえる状況を作っていくことを考えられたらよいと思っている」とも打ち明ける。

最近では動物福祉、いわゆるアニマルウェルフェアに対する意識の高まりから、時として厳しい目が向けられることもある競馬。
それだけに、セカンドキャリアに関するさらなる取り組みの推進が急務となっている。
(テレビ静岡)