静岡県内に甚大な被害をもたらした2022年の台風15号から9月23日で3年。この台風では多くの住宅被害が出たほか、大規模な断水も起きた。こうした中、いまも被災の爪痕が残っているのが大井川鉄道だ。
秋の行楽シーズンに…
2022年9月、静岡県内各地に甚大な被害をもたらした台風15号。

記録的な大雨となり、土砂の崩落などによって3人が死亡したほか、住宅被害は1万3000棟に上った。
また、静岡市清水区では6万戸を超える大規模な断水が発生。
解消までに最大で13日を要した。

さらに、島田市では採石場の跡地から土砂が流れ込み、倒木などの影響も相まって大井川鉄道が全線での運転見合わせを余儀なくされることに。
あれから3年。
大井川鉄道は、いまも一部の区間は再開できないままとなっている。
盛り返そうとしていた矢先の出来事
全区間のうち、約半分でいまも運休が続く大井川鉄道・大井川本線。
線路上に生い茂った草木が3年という月日を物語っている。

当時は約4.5mの高さまで土砂が堆積し、これまで少しずつ撤去が進められてきたものの、いまもレールは見えないままだ。
それにしても3年が経過してなぜ復旧がなかなか進まないのか?
大井川鉄道の加冷英鵬 係長は「財政的に厳しい期間が続いた後、これから盛り返していこうというタイミングでの災害だったので、当社単独で(復旧)は資金的に難しい」と打ち明ける。

被災したのは新型コロナウイルスの蔓延により落ち込んだ業績を回復させようと秋の行楽シーズンに向けて再出発した矢先。
それだけに、費用の全額を大井川鉄道だけで賄うのは現実的に不可能だった。
沿線の商売にも影響
列車の走らない日常は観光にも大きな打撃を与えている。
現在運休している区間にある地名駅前で古民家をリノベーションした民宿「古(いにしえ)の風」を営む猪又克弥さんは、幼少期から大井川鉄道に魅了され、8年前に兵庫から移住してきた。

「大井川鉄道が好きで移住してきて、ここ(民宿)を始めたのは、大井川鉄道を見ながら、列車にこだわったものを展示してそれを見てもらいお客さんに楽しんでもらえたら」と話す猪又さんの民宿は、目の前を悠然と走る蒸気機関車やレトロな列車をベンチに座って眺めることができるのが特徴だ。

SLやきかんしゃトーマス号を間近に見ることができるとあって、一時は予約が取れないほどの人気ぶりだった。
しかし、コロナ禍にともなう営業停止や大井川鉄道の運休も重なり客足は遠のいた。
その時のことを猪又さんは「これから先どうやって生活していくのか、本当に心配だった」と振り返る。
現在の売り上げは最盛期の6割ほどで、仕事の合間に学校給食を配達するアルバイトをすることで家族を支えている。

そんな猪又さんは「町民と一緒に町を盛り上げ、それには大井川鉄道が必要ということで、官民一体となって盛り上げていく動きが必要だと思う」と口にする。
復旧費用調達の目途が立ち完全復活へ
大井川鉄道の全線再開に向けて県と共に協議を進めてきた島田市と川根本町。
2025年3月には21億円と試算される復旧費用のうち、17億4000万円については補助金などを活用した上で、残る3億6000万円を県と島田市が大井川鉄道に貸し付けることで合意した。

4年後の完全復活を目指していて、現状について大井川鉄道の鳥塚亮 社長は「2026年度から正式に復旧工事が開始する中、川根温泉笹間渡駅から順番に伸ばしていこうと考えているが、その区間の実地調査を始めているところ」と説明する。
また”いましか体験できないこと”をコンセプトに運休区間の線路を使ったハイキングを企画するなど大井川鉄道自身も経営改善に向け必死にもがいている。

鳥塚社長は「私たちが目指しているのは地域に人を呼ぶツールになること」と強調した上で「大井川鉄道が走っていると、SLであったり、きかんしゃトーマス号であったり、井川線であったり、『おもしろそうだから行ってみよう』『景色が綺麗だから行ってみよう』という人たちに来てもらうことによって、地域と共に良くなっていく経済を巻き起こすのがローカル鉄道の使命だと思っている」と自身に言い聞かせるように話した。
今は静まり返ったレールの上に、再び乗客の笑顔と汽笛の響きが戻る日を願って…大井川鉄道の歩みはこの先も続く。
(テレビ静岡)