甘くてジューシーな味わいのイチゴ。しかし、いま”ある異変”が起きていて、収入の落ち込みなど農家の人たちにとって悩みの種となっている。
全国有数のイチゴの産地で異変
県東部や静岡市などを中心に栽培されているイチゴ。
「紅ほっぺ」や「きらび香」といった品種を中心に静岡県の生産量は全国5位を誇る。
ただ、このイチゴをめぐって近年、農家を悩ませている”ある問題”が起きていて、JAふじ伊豆韮山営農経済センターの片山真秀 主任は「例年12月上旬から中旬に採れるイチゴが、(近年は)クリスマスを過ぎたあたりから採れてくる」とこぼす。

片山主任よれば「イチゴは基本的に年内に採れた方が高く売れる」ことから「その時期に採れないと農家の所得が上がらない」と、イチゴ農家にとっては死活問題だ。
なぜイチゴの生育が遅くなってきているのか?
イチゴがクリスマスに間に合わない
伊豆の国市で7棟のハウスを使って「きらぴ香」を育てている森洋二郎さん。

甘くてコクがあるイチゴが評判で、特にクリスマスシーズンはホテルや洋菓子店からの発注が絶えないが「クリスマスに向けた小玉のイチゴが2024年の12月は(例年の)8割程度で2割ほど収量が減少した」と話す。
暑いと花芽分化というイチゴの生理現象が遅れてしまうためだ。
花になるため芽を形成する花芽分化は、ハウス内の気温が25℃を超えてしまうと進みにくいと言われていて、森さんは「遅れた分が、そのまま収穫までの期間も遅れることになるのでスタートの遅れが減収の要因となる」と嘆く。

イチゴ農家にとってクリスマスシーズンは1年で一番需要が高まるまさに書き入れ時。
裏を返せば、この時期に出荷が間に合わないと収入が大幅に減ってしまうため、暑さ対策は待ったなしの状況となっている。
ドローンを使い安全・正確な作業を
こうした中、伊豆の国市で行われたのが農業分野におけるドローンの活用を事業化している会社「ソラモ」によるデモンストレーションで、太陽の日差しを遮る塗料をドローンによってハウスの屋根に吹き付ける作業を実演した。

ソラモの清博幸 社長は「遮光剤は光と温度をコントロールする30年ほど前からある商材だが、高さ3~4mのビニールハウスの上に人が乗って遮光剤を塗布しなくてはならない。転落の危険性もある高所作業が1つの課題だった」と指摘した上で、「最新のドローンを使い人に代わってより安全に正確に散布できないかということで、ビニールハウスの上に遮光剤を塗布する取り組みを始めた」と説明する。
この日のハウスの表面温度は概ね50℃ほど。
それが遮光材を吹き付けることで41℃前後まで下がり、効果も約2カ月にわたって続くという。

このため、デモの見学に訪れたイチゴ農家のひとりは「9~10月の猛暑、0.5℃でも1℃でも下げるためにこれは良い。やりたい、明日にでもやりたい」と話し、別のイチゴ農家も「去年は良かったが、(今年も)同じになるとは思わない。少しでも暑さ対策をして花芽が早く育てば良いので遮光剤をまくことを決めた」と遮光剤の効果によるイチゴの適切な生育に期待を寄せる。
畜産分野でも効果発揮
また、こうしたドローンによる遮光剤の吹き付けは畜産分野でも活用が始まっている。
5つのハウスで約1000羽のニワトリを飼育している富士市の養鶏場「そらとふじ」。

2024年までは遮光カーテンなどで日差しを遮っていたが暑さの影響でニワトリたちの食欲が落ち、中には死んでしまった鳥もいたため今夏初めて鶏舎の屋根に遮光剤を塗布した。
遮光剤を塗ってから約1カ月。
平飼い養鶏農園「そらとふじ」の鈴木信司 代表は「去年に比べたら、食べる量も春や秋と変わらず良くなってきている。元気な鶏を見ていたらそれだけで元気なれる、とても良い」と満足げな表情を浮かべる。
ソラモによると遮光材は主に炭酸カルシウムからできていて、一定期間が経過すると雨によって自然に分解されるため、環境にやさしくこれまで健康被害の報告もないという。

前出の鈴木代表は「データで(ハウスの表面温度が)10℃位は下がっているのは見せてもらったが、体感としてハウスの中は3℃位は下がっていると思う。去年に比べてずいぶんと涼しい。これだけ目に見える効果があるので、卵の産卵率が上がるのかデータはこれからだが、そこも期待しているし来年以降もぜひ継続したい」と効果を実感し、今後も継続していく意向を示した。
厳しい暑さが長期間にわたり続くようになってきた日本。
新たな技術などを取り入れながら、これまでと同じような生産体制を維持するための試みが進められている。
(テレビ静岡)