富山を代表する自然景観のひとつ、称名滝の周辺には太古の昔から姿を変えないヒカリゴケが生息している。日本一の落差350mを誇る称名滝とその周辺に広がる神秘的な自然の姿を追った。
10万年の歳月が刻んだ絶景

称名滝は、およそ10万年という長い年月をかけて川が台地を削り形成された高さ500mの断崖絶壁に位置している。水量が減少する秋にもかかわらず、轟音を響かせながら流れ落ちる姿は圧巻である。

暑く長かった今年の夏、滝で涼んでいるのか、茜色した赤とんぼが優雅に舞い、一足早い山の秋を感じさせてくれた。
岩穴に宿る緑の輝き

滝の全景を撮影するため八郎坂の展望台へと向かう道中では、苔むした岩が露出する登山道で貴重な植物を観察することができる。光が差し込む岩穴の奥に見られる緑色に光るヒカリゴケだ。


この植物は自ら発光しているわけではない。ヒカリゴケはレンズ状の細胞がわずかな弱い光を集めて光合成を行い、緑の光は吸収せずに反射するという特性を持っている。この反射が、暗闇の中で神秘的な輝きを生み出しているのである。
原始から変わらぬ姿


ヒカリゴケは太古の昔から姿を変えていない原始的な植物として知られている。特定の環境に特化して生き残ってきたため、環境の変化に対する適応能力が低いと考えられており、日本では環境省のレッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されている貴重な存在である。

八郎坂の展望台からは、滝の全景を見ることができる。滝の真下からは見えない2段目を含め、全4段に流れ落ちる称名滝の壮大な姿を一望できる。

10万年もの年月をかけて水の流れが削りだした造形美と、太古から姿を変えずに生き続ける植物の神秘。称名滝周辺で大自然の奥深さに出会うことができた。