「育てる漁業」で水産業を救う

サンマに秋サケ。記録的な不漁にあえぐ北海道内の水産業。そんな苦しい現状を変えようと、いま道東で、ある画期的な取り組みが始まっている。キーワードは「育てる漁業」。

炭火であぶられ、脂が滴り落ちそうな北海道産の秋サケ。そして、まぶゆい光を放つのが、特製のイクラの醤油漬けをご飯が隠れるほどふんだんに載せたイクラ丼だ。

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釧路市中心部にある飲食店「炉ばた 煉瓦」では、この時期、秋サケを使ったメニューは看板商品の一つだが…

炉ばた 煉瓦 木村隆志店長:
魚が獲れないということでキロ単価が上がった。仕入れが例年より高騰している

ーー値段への転嫁は?

炉ばた 煉瓦 木村隆志店長:
本当は上げたいですけども、去年と変わらない価格で提供させてもらっている

ーー我慢の年?

炉ばた 煉瓦 木村隆志店長:
そうですね

秋サケの不漁で旬の味覚が、大ピンチ。
そんな中、漁業者からの注目を浴びているのがこの筒状の網。いったいコレは何なのか。

千歳市の千歳川にあるインディアン水車。水車を使って採卵用のサケを捕獲する秋の風物詩だ。

一方、小樽市では…

本田祐里佳記者:
いましたいました!小樽運河に流れ込むこちらの川で、サケが泳いでいます

大量のサケが小樽運河に迷い込む珍現象が。これは8年ぶりの光景だという。

一見、たくさんいるようにも見えるサケ。しかし、海での秋サケ漁は深刻な不振が続いている。そんな予測がつかない水産業を救う秘策として、いま注目を集めているのが「育てる漁業」だ。

根室港で2019年から始まった「ベニザケの養殖」。海中に設置した筒状の網の中で、ベニザケを育てる。ベニザケは基本的には日本沿岸には生息しておらず、ごくわずかしか獲れない高級魚だ。

秋サケなどほかのサケの仲間に比べて、病気に弱く養殖が難しいとされている。

根室市水産研究所水産指導主幹 工藤良二さん:
いま日本各地でサーモン養殖が行われているが、ベニザケはサケマスの仲間の中でも病気に弱く成長が遅いので、養殖魚としては結構ハードルが高い

根室市水産研究所では2019年、88匹の水揚げに成功するなど研究は順調で、今後は国内初の事業化も視野に入れている。

根室市水産研究所水産指導主幹 工藤良二さん:
事業化はどの地域でもやっていない、スーパーに行っても養殖紅鮭というのはないと思う。課題を一つ一つクリアし、地元の新たな産業としてできないか

研究所ではサケ以外の水産資源の栽培漁業にも力を入れている。こちらは1センチに満たない花咲ガニの稚ガニ。

そして、筒の中では、ヤナギダコの親が卵を抱いている。

さらに今年、研究を強化したのが…

上杉幸生記者:
今年春にオープンした新しいセンターです。71基の水槽がずらりと並ぶ。育てる漁業に力を入れるため、ホッカイシマエビもいます

現在は40トン前後と浜の水揚げは安定している特産のホッカイシマエビだが、将来を見据え研究を強化した。

新たな施設では屋根から光を取り入れて、エサとなるプランクトンの発生状況を整えたことで、エビの共食いが減り、生存率は50パーセントを超えた。

根室市水産研究所水産指導主幹 工藤良二さん:
根室ならではの独自の生産技術、資源の守り方、増やし方、"根室スタイル"とまではいいませんが、持っておいて損はない、いざ何かあった時にこういう施設がありますよ、こういうことができますよと。あらゆる選択肢を蓄積して用意しておきたい

「育てる漁業」が北海道の救世主となるのか。数年後の食卓を変えるかもしれない新たな挑戦が始まっている。

(北海道文化放送)

北海道文化放送
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