トランプ入院で支持率アップ
トランプ米大統領が新型ウイルスに感染して入院後、支持率が上昇していることが分かった。

トランプ大統領は、現地時間で2日午後6時過ぎにウォルター・リード陸軍病院に入院したが、ジョン・ゾグビイ・ストラテジーズ社が同日午後7時以降オンラインで行った世論調査で、バイデン候補の支持率は49%、トランプ大統領は47%だった。許容誤差はプラス、マイナス3.2%なので、両者はほぼ拮抗したと言える。

ジョン・ゾグビイ・ストラテジーズ社が8月29日に行った調査では、バイデン候補48%、トランプ大統領42%だったので、その差は4ポイント縮まったことになる。
調査当時、トランプ大統領の入院が米国社会の最大関心事で、米国のテレビが休まずこのニュースを伝え続けていたことを考えると、大統領の入院は支持率にプラスになってもマイナスには作用しなかったことを物語っている。
トランプ大統領の新型ウイルス感染は、同大統領がウイルスの脅威を軽視していたとする民主党側の批判を裏付けることにもなり、大統領選の最終局面で「命取り」になるのではないかとも分析されていた。

ウイルスに感染した大統領を批判するのは「タブー」
トランプ嫌いのテレビの中には、改めてトランプ大統領のこれまでの発言を再生して「それ見たことか」と批判を煽っているものもあるが、総じて大統領を個人攻撃するのは控えている様子が窺える。
「大統領とファースト・レディに神の恵みを。彼らと、他の感染者たちの速やかで完全な回復に祈りましょう。このウイルスはゾッとするような存在で無慈悲です。それが誰かに取り付くことを望むものではありません。感染の広がりを抑制しなければなりません。それだけです」
MSNBCのキャスターのレイチェル・マドーさんはこうツイートした。

マドーさんは、米国のマスコミ界でもトランプ批判の「旗頭」的な存在で、大統領の「ロシア疑惑」を連日放送し、昨年はニュース・チャンネルの視聴率で首位を続けていた。
そのマドーさんが、大統領夫妻の回復を祈ることをツイートしたのはある種意外だったが、そうした米国民の大統領に対する思いについて、やはり大統領の感染と選挙への影響について分析した2日の英国BBCニュースはこう伝えている。
「国が混乱に陥った時、米国民は大統領を支持して結集する傾向がある。トランプ政権はウイルスの扱いについて厳しく問われるだろうが、トランプ個人と夫人は健康上の試練について、国中からの同情と祈りの受益者になるだろう」
ウイルスに感染した大統領を批判するのは「タブー」になったのかもしれない。
バイデン陣営も、トランプ批判のテレビCMを全て放送中止にすると発表したが、こうした国民感情を計算してのこととも思える。

トランプ再選への「オクトーバー・サプライズ」か
一方のトランプ陣営とすれば、今後の大統領選の焦点は大統領の感染問題に絞られることになり、これまで痛めつけられてきた「所得税問題」や「人種差別問題」などから解放されることも期待できる。
こうした展開になることを心配している人物が民主党側にいる。前回もヒラリー・クリントン候補の敗北を警告したドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏で、2日自身のフェイスブックの中でこう綴った。
「彼(トランプ大統領)は天才の悪魔だ。今回の新型ウイルス感染も、我々を陥れて反撃するための嘘だったと思う。病気だといえば同情を買うことを彼は知っているのだ。彼はそれを武器にすることをためらわない」
ウイルス感染は、トランプ再選の「オクトーバー・サプライズ(10月の驚き)」になるのだろうか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】