2025年は戦後80年の節目の年。新庄・最上地方を中心に活動している劇団が、戦争をテーマに演劇公演を行う。自殺願望のある今どきの少女と、平和な未来を願う戦時下の青年の物語を通し問いかける“生きること”の意味とは?
(日和)
「今年の目標…死ぬこと」
新庄市を拠点に活動する演劇集団・劇団ICO(いこ)の通し稽古。
(大和)
「いま僕の世界では戦争が行われている。日和の世界は平和だよね…」
(日和)
「平和といえば平和だけど、生きづらい。生きている意味も価値も見い出せない人も多い。かくいう私も死に…」
(大和)
「そんなはずない! 僕は、日和の世界は戦争もない、平和な物語で、ただ平凡な日常を書いているんだ。僕の話は爆弾も死も、何もない! 平和、平和なんだよ! 勝手に僕の話を捻じ曲げるな!」
(日和)
「は? 何言ってんの」
8月末に迫った演劇公演。
芝居はクライマックスに向けて熱を帯びていく。
(大和)
「平(おさむ)!」
(兵長)
「助ければ貴様も同罪とみなす」
(主人公大和役・工藤宏之さん)
「もちろん自分は戦争を経験していないが、理不尽な出来事でしたくてもできなかったことは今の時代でもリンクしている、もしくは同じような境遇にいる若者はいっぱいいると思う。自分ならどう行動したかという視点を大事に演技している」
最上地域の若者たちが集まり、2021年に旗揚げした劇団ICO。
現在は7人で活動している。
戦後80年。劇団は今回初めて戦争をテーマにした芝居に挑む。
(大和)
「それが戦争だよ!」
劇のタイトルは「拝啓、あなたはまだそこにいますか?」
戦場に駆り出された作家志望の青年・大和が、平和な未来を夢見て書いた1冊の本。
しかし、時空を超えて出会う物語の主人公・日和は…。
(日和)
「私は死ぬことしか考えていない! 明日はどうやって死のう。その次はって、それができなくてずるずる生きてる。だから私は…」
(大和)
「日和は死なない。ずっと生き続ける。だって本庄日和は、僕自身だから。僕は君なんだよ」
脚本・演出は劇団代表の信夫春香さん。
原動力となったのは、祖母が体験した真室川町の焼夷弾爆撃。
祖母は小学生だった信夫さんに、話の最後、決まってこう言ったという。
(劇団ICO代表・信夫春香さん)
「『もうあの時代は嫌だ。でも今の時代はちょぺっと(少し)いい』と。祖母が体験した時代も、私の生きてきた時代・これから生きる時代もどこか生きづらい。時代にほんろうされている。祖母は戦争体験をしてきた上でなお、長く生きてもそう思っていたのかと」
(日和)
「あんた1人が死んだって何にも変わらない! 世界も日本も私も変わらない…」
(大和)
「僕は変えるために戦場に行くんじゃないよ。守るために行くんだ。日本がこの先、どういう光筋(みちすじ)をたどろうとも日和は生きているじゃないか。物語はずっと残る」
(日和)
「あなたの書いた物語のようには生きられないよ…」
(大和)
「だったら、そうなるようにずっと書き続けるよ。これからもずっとね」
(劇団ICO代表・信夫春香さん)
「『あなたはそこにいますか?』の“そこ”は底辺の『そこ』と、場所の『そこ』を兼ねている。自分の中の“底辺”はどこなんだろう…。平和に向かって生きる糧を少しでも見出してもらえたら」
「死ぬのやめたか? ふっきれたような顔している」
「ちょっとだけ」
「ほんの少しだけ、生きてみようと思った」
「私は、僕は、ずっと書き続けよう。物語を紡いで」
「まだ見えぬ未来へ」
「見ようとしなかった未来へ」
「あなたはまだ、そこにいますか?」
「劇団ICO」の演劇公演「拝啓、あなたはまだそこにいますか?」は8月31日、新庄市民プラザで午後1時・午後6時からの2回公演。