長野県千曲市で初の「移動スーパー」の運行が7月から始まりました。地元出身のシンガーソングライターとその夫が「買い物弱者」への手助けやお年寄りの交流の場になればと夫婦で地域を回ります。

かわいい犬のイラストなどが描かれた軽トラック。7月24日から千曲市で運行が始まった移動スーパー「はじ丸」です。

客:
「ごはんのおかずが必要で」

坪内麻友さん:
「鮭のフレークとかどうですか?いやだ?フレークって細かいやつ、ふりかけみたいな」

客(87):
「足が悪いからね。うちすぐそこだけど、ここだと来られるから杖ついて、助かります」


■「地元への思い」胸に 夫婦で営む

早速、お年寄りから人気となっている「移動スーパー」。営むのは地元出身の坪内麻友さん(41)と夫の裕邦さん(36)です。

坪内麻友さん:
「自分たちの想像以上に楽しみにしてくれている人が多かったとわかった」

夫・裕邦さん:
「大変だけど、待っていてくれる人や喜んでくれる人、困っている人のためになっているという実感があるから、毎朝起きるのが楽しみ」

移動スーパーを始めたのは地元への思いです。


■コロナ過を機に地元・千曲市へ

千曲市出身の麻友さん。高校卒業後、目指したのがシンガーソングライターです。東京で活動していましたが4年前、転機が訪れます。

坪内麻友さん:
「コロナ禍がきっかけですね。ライブハウスとかイベントも全くなくなってしまって、その間ずっと配信をやっていた。配信って携帯電話一つあればどこでもできることなので、これを機に千曲市に戻っても音楽は続けられるというところで」

その後、麻友さんのファンだった裕邦さんと結婚。千曲市に活動の拠点を移しました。


■地域で増える「買い物弱者」何か手は

戻って来た地元で見えてきたのは地域が抱える課題でした。

坪内麻友さん:
「千曲市の人口の3分の1が65歳以上。これから超高齢化社会に向けて買い物弱者の方とか、街中はスーパーは多いイメージがあったけど、近くにあっても行けないという考え方は、ご年配の方のすごく正直な気持ち。近くにあるからいいでしょということでもないのよねと(言っていた)」

何か役に立てないか―。2人がインターネットで見つけたのが移動スーパー「はじ丸」でした。

「はじ丸」は三重県の企業が2017年からフランチャイズ展開しています。千曲市では他の会社の移動スーパーも含め初の運行となります。

■450品目を越える品揃え

7月28日午前8時半、1日の始まりは協力店の大型スーパー「バロー」での仕入れから。

坪内麻友さん:
「朝の7時からピッキングを始めて、先週の金曜と木曜に売れたものをメモして、それを中心に選んでいく」

生鮮食品や総菜などを積み込んでいきます。食料品を中心に450品目を超える商品を準備します。

坪内麻友さん:
「あれない?これない?って言われたときに、ぱって出せるようなお店でありたいと思うので」


■運転免許を返納し、買い物が…

この日、まず向かったのは住宅街の土口地区。

客:
「待ってましたわ」

続々と住民が集まってきました。

客(85歳男性):
「刺身も来てるんだな」

坪内麻友さん:
「刺身来ていますよ」

客(85歳男性):
「ホタテないか?」

坪内麻友さん:
「ホタテない。タイとサーモンと盛り合わせと」

客(85歳男性):
「それでいい、それ2つもらえるかい」

こちらの85歳の男性は7月、免許を返納したばかり。買い物に困っていたところ移動スーパーを知りすぐに依頼しました。

客(85歳男性):
「(普段買い物は)人に頼んだり、子どもが来たときに行ったり。週に1回来てもらえれば一番ありがたい、本当にありがたい」

市街地でも増えている「買い物弱者」。2人は週5日運行し、依頼があれば個人の住宅、施設などどこでも回る予定です。

始まったばかりですが、すでに1週間で約300人から依頼が入っているそうです。


■住民たちの”憩いの場”に

個人宅へ。

客:
「久しぶり」

買い物が終わると―。

客:
「11日の祭日も来てくれるって」

別の客:
「生協お休みだから助かる」

すでに住民同士の交流の場にもなっています。

客(87):
「久しぶりに行き会う方っきりですもの、みんな暑いし(外に)出ていないから。一言二言話ができるから」


■想定外の売れ行きで急遽追加仕入れ!

午前の依頼が終わると再び「バロー」へ。

坪内麻友さん:
「思いのほか売れすぎちゃって、今追加で慌てて買ってきました」

想定外のにぎわいで急きょ追加の仕入れです。

坪内麻友さん:
「午前中が思った以上にお客さんが集まっててくれて」

夫・裕邦さん:
「それだけ買い物に困っている人がいるってことだからね」

■夫婦とのおしゃべりも楽しみに

続いて上山田地区へ。

坪内麻友さん:
「お待たせしました」

夫・裕邦さん:
「助六みたいなものがあります」

客(85歳女性):
「これね、喜ぶんです。おすしが好きだから」

こちらの女性(85)は90歳の夫と2人暮らし。

客(85歳女性):
「(普段)ほとんどしゃべることがない、私はおしゃべりはしたい方。しゃべれるっていうのは最高だわ。年寄はね、いいことだと思います」

自分たちより「若い夫婦」とおしゃべりするのも利用者の楽しみの一つのようです。

次の場所でも―。

坪内麻友さん:
「毎週来るのでよろしくお願いします」

客:
「毎週来るだ?」

坪内麻友さん:
「毎週来ます、来るなって言われても来ます」

客:
「は―!うれしいわ」


■地域の見守りも 

午後4時半、この日最後の場所へ。

坪内麻友さん:
「お待たせしました」

客:
「どうも!さあ何がいいかな」

客(78歳男性):
「この近辺、もう車の免許なくて車が運転できないとか、そういう人も多いんですよ。だから来ていただければありがたい。これから高齢化社会だから本当にこういうのが必要になってくる」

利用者のほとんどは1人暮らしか高齢の夫婦。2人は「地域の見守り」も担いたいと考えています。

夫・裕邦さん:
「今、困っている方に電話かけてもらったりして、すぐに行けるようにして、もっとそういう人(買い物弱者)が少なくなればいい」

坪内麻友さん:
「音楽活動も移動スーパーも共通しているところは、自分を必要としてくれている、自分がやっていることが皆さんの役に立っていると思うと、すごくやりがいがあって、自分の生きがいです」

シンガーソングライターの女性と夫が始めた移動スーパー。夫婦はこれからも地域を思って走り続けます。

長野放送
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