アメリカ大統領選のテレビ討論会が行われ、トランプ大統領とバイデン前副大統領がテレビ討論で初めて直接対決した。世論調査でリードを許しているトランプ大統領にとっては大きな挽回のチャンスである一方、バイデン前副大統領にとってはリードをさらに広げるチャンスとなる。
終了後にロイターが「カオスが討論を支配した」と評した今回の討論会では何が議論され、どちらの候補が米国民の心を掴んだのか。今回の放送ではアメリカの政治事情に詳しい識者を迎え徹底検証を行った。

勝敗つかずもトランプ大統領には焦りが見えた

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内田嶺衣奈キャスター:
今回の討論会、率直にどちらが勝ったととらえられましたか。

薗浦健太郎 自民党副幹事長:
勝ち負けなし。相撲で言う水入りみたいなもの。まだ議論も深まっておらず、とりあえず色々なテーマをやった、という段階にすぎない。アメリカの有識者の評価も混沌としている。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
これほど酷い無内容なテレビ討論会は見たことがない。いわばR指定、15歳以下には見てもらいたくない。日本の若い方々が勉強しようというとき、これがアメリカを代表する大統領のテレビ討論会であるとはぜひ思わないでいただきたい。超大国衰えたり、と言わざるを得ない。

海野素央 明治大学政治経済学部 教授:
バイデン氏は余裕があり、笑顔もあった。一方、支持率で負けているトランプ大統領は焦りが前面に出ていた。それで何回も話に割り込んだ。次回のトランプ大統領の課題はどのようなスタイルをとるのか、どのようにバイデン氏を自分の土俵に引き込むのか。今回、バイデン氏はトランプ大統領の土俵に入らないようにしていた。

米連邦最高裁判事の問題は日本人の想像を超えて重要

内田嶺衣奈キャスター:
討論会の主な議題のうち、最初のテーマとなったのが連邦最高裁判事をめぐる問題。終身制となっているアメリカ連邦最高裁判所の判事は全部で9人。これまでは保守派が5人、リベラル派が4人という構成。しかし18日にリベラル派のギンズバーグ氏が死去したことにより後任判事が注目されている。トランプ大統領は保守派のエイミー・バレット連邦高裁判事を指名したが、これが上院で承認されれば保守派が6人、リベラル派が3人という構成に。

内田嶺衣奈キャスター:
最高裁判事の人事が、なぜテレビ討論会の最初のテーマになるほどに大統領選挙の大きな争点となるのでしょう。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
日本の最高裁とは社会の中での位置づけが全く違う。アメリカという国の行方を決める、社会全体を変えていく重要な位置付け。今までは保守・リベラルがバランスを取ってきていたが、今回ははっきりと保守系に傾く可能性がある。しかも大統領が変わる可能性があるときに駆け込みでこれほど重要な最高裁判事を決めるべきなのかという点が大きな議論になっている。

薗浦健太郎 自民党副幹事長:
例えば妊娠中絶の話、同性婚の話などに関して、どういう宗教観・立場の最高裁判事が生まれるか。自分が信ずる宗教の信じている道がアメリカの国策として認められるかどうかという瀬戸際で、彼らにとっては極めて切実な問題がここにある。日本の最高裁のように訴訟が起こって判決を下すというだけではなく、政策そのものにかなりの影響を与える点がまったく違う。

ドナルド・トランプ米大統領

薗浦健太郎 自民党副幹事長:
もうひとつは選挙に直接関わる問題。2000年のブッシュ対ゴアの大接戦で再集計を行った。最後は最高裁がもうこれ以上の再集計はないと決めてブッシュの勝ちが確定した。大統領選が接戦になったとき、選挙結果に直接影響を与えかねないのがこの最高裁判事の人事。

反町理キャスター:
トランプ大統領が「大統領選挙の結果は連邦最高裁に行きつく」と発言した。これはどういう意味か。今回の大統領選挙を迎えるにあたり、トランプ大統領はなぜ9人そろうことが重要だと言うのか。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
これまでの9人を見ると、必ずしも党派的に判決を出しているわけではない。そこで判事が8人だとすると、2000年の選挙同様の状況になったとき、4対4になる可能性がある。

海野素央 明治大学政治経済学部 教授:
トランプ大統領はなにがなんでも安全な6対3にしたい。ロバーツ首席判事という方が浮動票で転ぶ可能性があるため。トランプ大統領は勝利のシナリオとして最高裁での決着を見ており、さらに2期目も見据え、民主党ともめた場合に最高裁での勝利の方程式を得ることも意図している。

「トランプ氏納税問題」対「バイデン氏次男ロシア・中国金銭問題」

内田嶺衣奈キャスター:
トランプ大統領の納税問題。経営する事業の損失を計上して当選前15年間のうちの10年分の所得税を納めず、大統領に当選した2016年と2017年の納税額はそれぞれ750ドル(約7万9000円)だったとニューヨーク・タイムズが報じた。討論会でも司会が質問しています。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
トランプ大統領の当選時にワシントンで専門家や共和党の人たちから聞いたが、トランプ氏を支えている法律家集団はかつて歳入庁にいたり出向したりしていた人たちの集団で、あらゆる裁判で勝ち続けている最高の事務所。その人たちが精緻な理論武装と実務で「脱税ではなく節税である」として守っている。

ドナルド・トランプ米大統領(左)、ジョー・バイデン米全副大統領(右、発言者)

海野素央 明治大学政治経済学部 教授:
脱税ではないとしても、トランプ大統領はこの5年以上納税申告書を公開していない。ニューヨーク・タイムズは派生した問題など、何かつかんでいるのでは。4年間トランプ大統領に痛めつけられており、大きな続報を出してくるかもしれない。

反町理キャスター:
一方でトランプ大統領の反撃はバイデン氏の息子の件について。「君の息子は中国で何十億ドルも儲けたんだろう。モスクワ市長の奥さんから350万ドルももらってるじゃないか」といった発言があった。

海野素央 明治大学政治経済学部 教授

海野素央 明治大学政治経済学部 教授:
トランプ大統領はバイデン氏の次男を攻撃すると宣言していた。ただ、この金額については根拠がない。そこで次男の話が出たとき、バイデン氏からは本心から家族を守るという気持ち、父親像が出たと見える。トランプ大統領も攻めきれなかった。
また、バイデンさんは逆襲も用意していたはず。トランプ氏の娘のイバンカさんが中国の習近平主席と夕食を食べた後、彼女のブランドが中国で仮承認されたという件がある。

アメリカに政治的空白が起これば日本にとっても危険な事態に

薗浦健太郎 自民党副幹事長

反町理キャスター:
開票をめぐる混乱が起きた場合、今年の11月以降、来年の1月の就任式の日までの間にアメリカの政治的大空白が起こる可能性もある。日米関係と国際情勢をふまえ、日本が想定すべきことは。

薗浦健太郎 自民党副幹事長:
例えば東シナ海、南シナ海。フィリピンからアメリカが引いたあとに中国が出てきた。ベトナムでもそうでした。中国だけではなく、いろんな国が虎視眈々と狙っている。例えば北方四島にロシアの大統領が来たときも、日米同盟がきしんで空白があった。日本は準備が必要。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
トランプ大統領をなだめすかして操り外交安全保障政策を評価されていた安倍首相というリーダーが突然辞任し、東アジアに不安感がある。そのうえ肝心のアメリカの大統領、大統領選の討論がこのような状態。空白の発生は避けられない。

今後の討論会は、一転して本格的な政策論争になる可能性も

内田嶺衣奈キャスター:
1回目の討論会が終わり、これを受けた世論調査が出ています。両陣営は第2第3の討論会に向けて今後どういった戦略を練っていくのか。「どちらが最高の討論をしたか」で大きく差をつけられたトランプ陣営の第2回の討論会に向けた戦略は。

外交ジャーナリスト 手嶋龍一氏:
当然、選挙戦略を練るアドバイザーが、データをもとに振り付けを行う。それがどのように、どれほど可能か。またトランプ陣営はテレビ討論を最大の勝負所と見ず、Twitterなどソーシャルメディアを重視しているのかもしれない。

海野素央 明治大学政治経済学部 教授:
本格的な政策論争になるかも。そこでバイデン氏は中国の問題などで、政策上の立場をあえて相手に近づけアドバンテージをなくさせる「争点つぶし」の手法をとる可能性がある。これはクリントン元大統領も用いた、現職大統領を破るための方法。

薗浦健太郎 自民党副幹事長:
バイデン氏は「すでに民主党を押さえたので中道の票を取りにいく」という態度を示しているが、次の世論調査にどう出るか。トランプ大統領のポイントは経済。フロリダやアリゾナの接戦州では、8月の失業率が大きく改善。10月の頭に9月の数値が出る。そして選挙直前の10月29日には7-9月のGDP速報値が出る。これが改善していればトランプ大統領の大きな強みになる。経済が強ければ現職は強い。

BSフジLIVE「プライムニュース」9月30日放送