20年前に住民の声で設置

再開発が進む仙台駅東口。その発展を静かに支えてきた駅前の小さな横断歩道が、今年度中に姿を消す予定だ。
利便性か、安全か。20年前、住民の声で誕生した横断歩道がいま、静かに消えようとしている。
「歩く人のための横断歩道」から「渋滞の元凶」へ

廃止が検討されているのは、仙台市宮城野区・JR仙台駅東口のロータリーに接する東七番丁通りに設けられた信号のない横断歩道だ。
設置されたのは2004年前後。プロ野球・楽天イーグルスが仙台を本拠地としたシーズンとも重なり、東口周辺には人の流れが生まれ始めた時期でもある。
「駅裏」と呼ばれていたエリアをもっと便利にしたい、そんな地元住民の声を受け、県公安委員会が設置を決定したとされる。
それから20年。
ヨドバシカメラや大型オフィスビル、マンションなどが次々と建設され、かつての「駅裏」は、今や仙台市の主要玄関口の一つに姿を変えた。
通勤時間帯や週末には、横断歩道の手前に20台以上の車列ができることも珍しくない。
仙台東警察署は「歩行者の安全確保と、慢性的な渋滞の緩和」を理由に、今年度中の廃止を検討。地元の町内会にも、すでに説明を行っている。
歩行者の利便性はどうなる?

この横断歩道は、信号が設置されていないことから、歩行者が途切れずに渡り続ける構造となっていた。
一方で、車はその都度停止を余儀なくされ、周囲の交差点や駐車場の出入りにも影響を与えていた。
タクシー運転手は、こう語っている。
「球場側から右折してすぐこの横断歩道があって、前が詰まっていると直進も右折もできない。歩行者は止まらずに次々と渡る。今はこの交差点自体を避けるようにしています」
警察は、事故件数自体は少ないものの、歩行者のすり抜けや、自転車の飛び出しといった事故につながりかねない行動が増えていると説明する。
中には、スマートフォンを見ながら横断しようとする人や、渋滞した車の間を縫うように渡る歩行者もいたという。
「毎日の道が消える」ことへの戸惑いも

だが、長年この道を使い慣れてきた市民にとって、廃止は唐突な変化に映る。
仙台放送の本報道に関するウェブ記事のコメント欄では、さまざまな声が寄せられている。
賛成の声
「あの交通量で譲り合いがそもそも間違っているので正解だと思う。 」
「渋滞も緩和され事故も減る。いち早くやってほしいと思います。」
「仙台駅に近い横断歩道で歩行者にとっては便利な道だとは思いますが、安全面から考えても廃止で良いかなと思います。」
反対の声
「通勤でほぼ毎日使ってます。駅前まで直進できる動線がなくなるのは本当に困る」
「歩行者優先がようやく定着してきたと思ったら、今度は歩行者が切り捨てられるんですね」
「昔は車が全然止まらなかったけど、ようやく守られるようになってきた矢先にこれ。納得いかない」
「信号を付ければ済む話では?」「廃止はおかしい」といった意見もある。
一方で、「隣の信号との距離が近すぎて設置できなかったのでは」といった冷静な分析もあった。

代替ルートとしては、約50メートル北にある信号付き交差点が想定されているが、記者が実際に歩いてみたところ、信号待ちも含めて1分半ほどのロスが発生した。
再開発の恩恵 その裏で何が
こうしたなか、警察と仙台市は横断歩道の撤去後に、歩道側にガードレールを設けて乱横断を防ぐ方針を示している。

また、同じく渋滞の原因となっている、すぐ近くのヨドバシカメラ前の交差点では、現在の「コの字」型の横断歩道を「ロの字」型に改修し、すべての信号を音響式に切り替える計画も進められている。
20年前にこの横断歩道の整備を歓迎した地域住民の1人は、こうこぼしたという。
「20年前、まさかこんなに街が発展するとは思っていなかった。道路ももっと広げておけばよかったけれど、後からは難しいね」
都市が進化するほど「当たり前」は変わっていく

かつては「安全のために設けられた横断歩道」が、今では「渋滞と危険の温床」と見なされている。
便利な都市空間をつくる中で、守るべき対象や優先順位は変わっていく。
それは、仙台に限らず、全国の駅前・市街地でも起こり得る光景だ。
都市はいつも、どこかを変えて、どこかを失って、また新しい秩序をつくっていく。
その変化の只中で、一つの横断歩道が静かに消えていく。
仙台放送