ワードレス漫画とは?言語の壁を取り払ったコンテスト
イラストだけで展開される、せりふのない漫画、「ワードレス漫画」。KADOKAWAは7月23日に初めてワードレス漫画コンテストの表彰式を開催した。
ワードレス漫画コンテストは、せりふがないことから、言語に依存せず純粋に画力だけを審査するのが特徴だ。通常の漫画コンテストに比べ、画力のレベルが高いという。

初開催にも関わらずアルジェリアやケニアなどアフリカの国からも応募があり、104の国と地域から1126作品が集まった。
応募の9割以上が海外からで、日本の漫画文化が世界に広く浸透していることがうかがえる。
“実はマンガが上手い!” 優秀な海外クリエイターを発掘
KADOKAWAの関係者たちが驚いたのは、海外クリエイターの想像を超える表現力と完成度の高さだ。作画の完成度はもちろん、物語の展開や演出力にも秀でた見応えのある作品が数多く集まった。
現在、受賞者は編集者とともに2025年度中の連載開始を目指し、二人三脚で歩みを進めている。
オリジナル部門で銅賞を受賞した台湾出身の静/Shizuさんは、中学時代からイラストを独学で学んでいたという。コンテストでは、入院する男の子が水の精霊のような女の子と出会い空を自由に羽ばたくというストーリーを描いた。

静さんの連載を担当する編集者の松下正孝さんは、静さんの高い作画力に期待を寄せている。
KADOKAWA 戦略書籍編集部 松下正孝編集長:
演出の力がずば抜けていると感じている。この心情を演出していく力を、恋愛の心情の細やかさを描くことに、より生かしていただきたい。確実にヒット作を出せるように努めていきたい。

台湾出身・静/Shizuさん:
作品が肯定されたことが一番うれしい。自分はあまり自信がないのでだれかに称賛されることがすごくうれしい。特に業界の人に称賛されて、自信がすごく増えた。
同じくオリジナル部門で銀賞を受賞したインド出身のmasterlynx(マスターリンクス)さんは、兄弟2人で2022年から漫画を書いている。

兄のJivan(ジバン)さんがネームや編集、レイアウトを担当し、弟のYash(ヤシュ)さんが主にイラストを描いている。兄のJivan(ジバン)さんは現在大学に通っていて、卒業したら漫画家になることを目指している。
インド出身・masterlynxのJivan(ジバン)さん:
(受賞して)すごくうれしいです。この賞を受賞できたことは夢が叶ったというだけでなく、私たちにとって人生を変える契機になりました。私たちはインドの小さな町の出身ですが、こうして日本に来て、素晴らしいクリエイターの皆さんと肩を並べることができて、まるで夢のようです。これからも成長し続け、もっと多くの漫画を世界に届けていけるように頑張ります。
KADOKAWAグローバルコミック編集部・岡部一生さん:
すごく絵がかっこよくアクション漫画を描かせたら本当に素晴らしい作品ができるなと思った。なかなか日本の作家でも到達していない地点にいると思う、日本の読者に刺さると思う。
KADOKAWA 泉水敬 執行役:
日本の作家の力に勝るとも劣らない画力で作品を作っていただき、我々も驚いた。世界各国で盛り上がっている漫画市場の中で、各国にいるクリエイターの卵の皆さんを発掘して今後KADOKAWAの編集部と一緒に漫画を作っていくことで、その方々の力を開花できるのではないか。
国内作家は頭打ち?海外のクリエイターに「ビジネスチャンス」
KADOKAWAがワードレス漫画コンテストを初めて開催した背景には、コンテンツを生み出す「作家」の獲得に向けた熾烈な競争が激化していることにある。
KADOKAWA 泉水敬 執行役:
今回のコンテストの狙いは一言で言うと、優秀な海外のクリエイターの発掘である。今、日本の漫画市場も盛り上がっている中で作家の方々が非常に忙しくされていて数も限られてきている。
海外作家の漫画が日本を含む世界でヒットした例として、マレーシアの作家が描いた「どっちが強い!?」シリーズがある。
ライオンとトラ、サメとメカジキなど戦闘力の近い自然界の強い生き物たちを対決させ、勝敗を決めることで生き物について学べる学習漫画で、日本でも翻訳出版されている。
小学生を中心に人気に火が付き、シリーズ累計500万部を突破。海外発の作品であることを気づかずに楽しんでいる読者も少なくなく、「面白さ」はまさに国境を越えて通じたかたちだ。

連載に向けて準備を進めるアメリカ出身のREKUさんも、日本の漫画業界で作品を発表できることへの喜びを語った。

アメリカ出身REKUさん:
このようなコンテストの存在は、私のような日本の漫画業界を長い間憧れながらも、自分には関われない世界だと思っていたアーティストにとっては本当に大きな意味を持っている。
「IP育成×メディアミックス×海外展開」逆輸入作品も世界へ
KADOKAWAは、海外事業を今後の成長を支える重要な柱と位置づけている。海外クリエイターの発掘を通じて新たなIP(知的財産)を生み出す“0→1”の取り組みに加え、各国での子会社設立などを進め、創出した作品を世界中の読者に届けている。
現在は、欧州・北米・東南アジアを中心に19の海外拠点を展開しており、今後も海外市場での展開をさらに強化していく方針だ。
一方で、特に漫画を含む日本のコンテンツ産業は、経済産業省によると、すでに年間5.8兆円の海外売上を誇り、鉄鋼や半導体を上回る規模にまで成長していて、日本経済を支える「基幹産業」としての存在感を高めている。
国としてもコンテンツ産業に注力しており、去年6月に発表された「新たなクールジャパン戦略」では、2033年までに海外売上高20兆円の目標を掲げている。
KADOKAWAは「ストーリー構成のスキルがなくても絵が描けるクリエイターが活躍できる場を提供する」として、多様な才能がIP創出に関われる環境づくりを進めている。
こうした取り組みは2028年3月期までにIP7000点を創出するという中期経営計画の目標の実現に直結するものであり、グローバル市場を見据えた成長戦略の中核を担っている。

KADOKAWA 泉水敬 執行役:
KADOKAWAの強みはアニメやゲームといったメディアミックスの展開だが、その源泉となっているのは漫画であったり、小説であったりする。どんどん幅を広げていくことで、我々のビジネス全体の拡大にも繋がる。
編集部としても、(世界各国の作家などの)タレントをうまく活用して世界に広められるコンテンツをもっと創出していきたい。
漫画は日本が発祥の地であり、その市場で展開できることは、世界中の作家さんたちの一つの夢でもあると思うのでそれを実現することに加えて、世界の市場へも展開できることが、お互いの今後の成功につながるのではないか。
(執筆:フジテレビ経済部 栁原弥玖)