トランプ関税について、最終的に発表されたのは、共に15%ということで、石破首相は「大きな成果だ」としましたが、はたして“15%”という数字をどう受け止めていけばいいのでしょうか。
事務方のトップとして第1次トランプ政権と交渉にあたった、関西学院大学の渋谷和久教授と見ていきます。
青井実キャスター:
まず15%という数字ですが、日本は今回の日米関税交渉、勝負に勝ったのか、それとも負けたのか、そのあたりどうでしょう。
関西学院大学・渋谷和久教授:
もともとこの交渉、このゲームは“無理ゲー”で、アメリカ側が無茶な関税を吹っかけて、これをまけてほしければ大幅に譲歩しろと。つまりアメリカが圧勝する形じゃないと終わらないっていうゲームなので、4月以前の状態に比べると、日本はとてもまずい状況なんですけれども、ここで終わらないとこのゲームは終わらないので、一見アメリカに負けたような形になっていますが、のちほどお話が出るかもしれませんが、守るべきところはしっかり守っているので、まあまあよくやったというところだと思います。
宮司愛海キャスター:
これまで赤沢大臣は関税交渉を8回行っているんですが、振り返って見てみましょう。これまで8回訪米する中で、中には日米首脳会談などもありました。5月末から6月にかけて集中的に交渉していたことが分かります。そして先日、参院選の直前にベッセント財務長官が来日し、その際に石破首相とも会ったということがありました。
青井実キャスター:
8回、かなり赤沢大臣が行っているなという印象ですが、交渉過程でどこがポイントでしたか?
関西学院大学・渋谷和久教授:
僕らの時、茂木大臣も8回交渉されたので同じ回数なんですが、僕らの時の最初の1~2回は、アメリカが「日本が譲るべきだ」といった話を一方的にして、なかなか議論に乗らないんですね。ようやく中身の議論に入れたのは3回目ぐらいということで。今回は、6月のサミットが1つの節目だったんですが、おそらくその時点で、トランプ大統領は自動車の関税は一切譲らないみたいな感じだったんじゃないかと思います。それで仕切り直しをしたうえで、8月1日の締め切りが近づく中で、日本側がおそらく投資5500億ドルという金額をある程度膨らませる形で提案をして、それで合意に至ったという感じだったと思います。
宮司愛海キャスター:
今、渋谷さんの話にもありました、日米の合意内容をあらためて見てみます。
相互関税が15%に引き下げられ、自動車関税15%、それからミニマムアクセス米の輸入割合をアメリカからは増やす。あとは80兆円、5500億ドルの投資があったということですが、渋谷さんが選ぶ合意のポイントは、どのあたりにあるんでしょうか。
関西学院大学・渋谷和久教授:
ポイントとしては、例えばお米の輸入割合なんですけども、これは今、77万トンのミニマムアクセス枠があって、その枠の中ということで、そういう意味ではタイから輸入している米をアメリカの米に置き換えるだけなので、日本にとってそんなに大きな影響はないという形ですね。しかも運用でやる話だと思いますので、一見花を持たせているようですが、日本へのダメージを最小限に抑える、いい知恵を出したんじゃないかなと思います。
青井実キャスター:
自動車ですが、もともと2.5だったので15%って上がるわけじゃないですか。なので、よかったと言い切れるのか、そのあたりの分析はどうでしょうか。
関西学院大学・渋谷和久教授:
相互関税というのは、もともとアメリカも吹っかけてきているんですが、自動車の関税は1980年代からアメリカがよく使っていた法的な根拠もあるものなので、この25%は、アメリカはたぶん譲る気があまりなくて、25%を下げるならイギリスみたいに日本側の品目の税率を下げろと。あるいは、イギリスとの合意もまさにそうですが、関税割り当てといって事実上の数量規制みたいなものを受け入れるか。いずれかが必ず必要だというのが相場観なんですが、日本はそのいずれも対応しないで15%、事実上半分にしたのは、これはかなり日本側が頑張ったと言わざるを得ないんじゃないかと思います。
青井実キャスター:
80兆円の投資についても見ていきましょう。
宮司愛海キャスター:
フジテレビの智田解説副委員長に聞きました。政府が日本企業の投資を全面的にバックアップするということを鮮明にして、対米投資に強力に打ち出すという、取り込むということを打ち出した。それから、アメリカが経済安全保障の点から特に最重要視している分野で投資を行うことがアピールにつながったのではという話を指摘していました。
青井実キャスター:
ただ、80兆円の9割は利益がアメリカにということで、不利のような気がするんですが。
関西学院大学・渋谷和久教授:
9割アメリカの利益ってのはよく分からない、トランプ流のロジックだと思いますが、事実としては、赤沢大臣や石破首相の説明を聞くと、国際協力銀行とか貿易保険なんかの出資とか融資とか融資保証の枠が80兆円ということであって、実際にそれだけの金額を税金で出すってことではありませんし、80兆円をいつまでにどの分野でやるってことを約束したわけではないと思います。日本政府が枠を用意するから、あとは民間企業がどれだけ出すかということだと思います。ただ実際、すでにアメリカに対して日本は7800億ドルくらい投資をして、これは世界一の投資額です。1兆ドルというのは、2月の段階で石破首相がトランプ大統領に言っていますので、5500億ドルというのはできなくない、可能な範囲の数字だと思います。