名建築として知られる三重県伊賀市の旧市役所が、図書館とホテルを一体化させた全国でも珍しい施設へと生まれ変わる。保存と活用の道が選ばれたこの建物は、かつて取り壊しも検討された。各地で同様の名建築が岐路に立つ中、その再生の形が注目を集めている。

三重県伊賀市の旧市役所をリノベしてできたホテル『泊船(はくせん)』
三重県伊賀市の旧市役所をリノベしてできたホテル『泊船(はくせん)』
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■“名建築”が生まれ変わる…三重県伊賀市の旧市役所が「図書館」に

忍者の街として知られる三重県伊賀市の中心地には、コンクリートの柱が並び、突き出た煙突が特徴的な建物がある。

合併前の上野市のときから、2018年まで、身近な市役所として使われていた建物だ。

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1937年に開かれたパリ万博の日本館を手掛けるなど、戦前・戦後に活躍した巨匠・坂倉準三(さかくら・じゅんぞう)が設計した名建築だが、今は工事の真っ最中で、室内いっぱいに本棚が並べられていた。

市内に3カ所ある図書館が統合し、およそ40万冊が楽しめる伊賀市の新たな中央図書館として、2026年4月にオープンする計画だ。

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かつての市役所の窓口は、そのまま生かしている。雨漏りのため塞いでいたという天窓も復活し、やわらかな光が降り注ぐ。

伊賀市・産業振興部の中澤邦浩さん:
「カウンターはオリジナルで昔からあるものです。タイルのままカウンターが上がっているのが非常に貴重」

2階で「学習室」になる広いスペースは、市議会の議場だった部屋だ。

■「建物好きにはたまらないのでは…」図書館の中にホテルが登場

出来るのは“ただの図書館”ではない。全国でも例のない、公共の「図書館の中のホテル」が2025年7月、図書館より一足先に19室がオープンする。ホテル名は『泊船(はくせん)』だ。

スイートルームは、元々は市長室だった部屋をリノベーションした。ゆったりとしたベッドと、落ち着いた雰囲気の家具が置かれている。

傷や汚れもあえて残し、古いけれど新しい、ここにしかないホテルになった。

船谷ホールディングスグループの船谷哲司代表:
「文化財として保存的価値がありますので、あえてこういうものを」

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さらに、中心を貫くコンクリートの柱が“ウリ”の部屋もある。

船谷ホールディングスグループの船谷哲司代表:
「まさに触れていただくと。自分が占有するかのようになりますので。建物がお好きな方にとってはたまらないんじゃないか」

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名建築を生かした「図書館ホテル」では、宿泊予約の時に好きな本のジャンルを伝えると、客室に用意してくれるサービスも計画しているという。

■岐路に立つ名建築

「図書館ホテル」の誕生までには紆余曲折があった。旧市役所からおよそ2.5km離れた、やや町はずれにできた今の市役所。

伊賀市・産業農林部の堀川敬二部長:
「旧庁舎の隣に新しい庁舎を建てて、完成して移転後、旧庁舎の方は取り壊すような方向で考えていた」

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文化的価値があるとは言え、1964年に完成した旧上野市庁舎は、2004年に市町村が合併したことで狭く不便になったため、取り壊して新たな市役所を建てる計画が進んでいた。

しかしその後、岡本栄前市長が建物の保存と市役所の移転を公約に当選した。同じ場所での建て直しを求めた経済界と対立する中、住民投票まで実施され、最終的に保存・活用の方針が決まった。

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身近な名建築は、いま各地で岐路に立っている。

旧上野市庁舎と同じ坂倉準三が、出身地のために設計した岐阜県羽島市の市役所。反り返った屋根などユニークだったが、市は耐震工事に必要な費用などを考えると保存・活用が難しいとして、2024年に取り壊しとなった。

伊賀市と明暗が分かれる結果だ。

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東京都庁やお台場のフジテレビ本社ビルで知られる世界的建築家・丹下健三(たんげ・けんぞう)の代表作・旧香川県立体育館も、解体の方針が決まっているが、今なお、保存を求める声は消えていない。

■「旧岐阜県庁」に迫られる判断 活用するための模索も

“保存”か“取り壊し”か、近く判断を迫られる建築が岐阜市にもある。岐阜市役所のすぐ目の前にある、レトロな建物は、2024年に築100年を迎えた「旧岐阜県庁」だ。

国会議事堂の建設にも携わった、岐阜県出身の建築家・矢橋賢吉(やばし・けんきち)が設計した。

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今は建物の中には入れないが、大垣市産の大理石による「階段ホール」や、飛騨の山々をモチーフとした「ステンドグラス」などが残っている。

岐阜県・管財課の高井哲也課長:
「利活用するためには、耐震性の確保やバリアフリー対策などの改修工事が必要となりますが、その費用には30億円を超えると見込んでおりまして、県の厳しい財政では大変難しい」

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2013年に閉鎖されて以降、10年以上“塩漬け”の状態だったが、県は改めて、民間から活用方法を募集している。

岐阜県の江崎禎英知事:
「(Q取り壊す可能性はある?)取り壊す、これもイチ、ゼロじゃないかもしれません。どこだけ残すのかという議論はあるかもしれないけど、まずは使っていただける方には最優先で使っていただきたい。その選択肢がゼロになったときに、さぁどうするか、そんな順番」

■オンリーワンの魅力で新たな賑いが作れるか

「図書館ホテル」に生まれ変わる旧伊賀市役所。

1964年当時からの窓ガラスやスチール製の窓枠は、趣はあるものの、そのまま使うのは不便だ。

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伊賀市・産業振興部の中澤邦浩さん:
「特に“冬寒く 夏暑い”というのが、市役所時代からの課題というか。古い窓ガラスというので、厚みもそんなにないですし、空調の機能としてはすごくマイナスであった」

床下に水を循環させて温度を調節する冷暖房を導入することにした。

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一方、意外な新発見もあった。「階段」と「スロープ」が、駐車場のアスファルトの下から見つかった。坂倉準三が設計したものが、駐車場を拡げるときに埋められたとみられ、今回、復元することが決まった

伊賀市・産業振興部の中澤邦浩さん:
「ここまで正直残っているとは想定していなかった。オリジナルのものになるので、直していって、使えるものは使っていこうと」

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歴史ある建築を残すには手間もお金もかかるが、市はオンリーワンの魅力で新たな賑わいをつくりたいと考えている。

伊賀市・産業振興部の中澤邦浩さん:
「先人から受け継いだものなので大切な建物でもありますし、これを未来につないでいく。(伊賀市は)観光地とはいえ、宿泊する人が少ないのが特徴で、郊外の方にも宿泊機能を利用して伊賀市を訪れて頂く方が増えることを願っている」

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新しいホテルは7月21日にオープンする。名建築の価値を生かせるのだろうか。

2025年6月19日放送

(東海テレビ)

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