お酒のプロ、「バーテンダー」の世界。
神戸の街中にあるバーで、カウンターに立つ女性バーテンダー。
人生の転機が訪れる中、プロとしての高みを目指し続ける姿を追った。

■体にしみ込んだ“所作” 「心が救われたらいいな」とバーテンダーの生田さん
バーテンダーが作り出す、あなたに寄り添う一杯。
その“所作”は、体にしみ込んでいる。
バーテンダー 生田理実さん:醤油置くときも、塩取るときもこうやって。普通にペットボトル飲んで、(フタを)閉めたときに、キュッって閉めてる自分がいます。
バーテンダー・生田理実さん。神戸・三宮にあるBAR SLOPPY JOE。
生田さんは、数多くの賞を獲得してきた、日本有数のバーテンダーだ。
バーテンダー 生田理実さん:お酒1つでも、バーテンダーの人柄が出る。ここに来た人が、少しでも心が救われたらいいなと思って仕事をしている。

■ 最高の1杯を目指し 「所作でおいしそうにみえる」細かい動きにも気配り
バーテンダーの仕事は昼の仕込みから始まります。溶けにくい球体の氷を、手際よく作っていく。
バーテンダー 生田理実さん:最初は15分ぐらい掛かっていました。
仕込みを終えたら自主練習。細かい動きにも気を配る。
バーテンダー 生田理実さん:カウンターの仕事なんで、お寿司屋さんと一緒で、所作が味にも影響する。おいしそうに見えますかね、所作で。
味に大きな影響を与える温度の調整は、大切な技術だ。1度単位でデータを集め、最高の1杯を目指す。

■就職先が決まっていたが…「やっぱりバーテンダーがしたい」
生田さんは学生時代、子どもたちに寄り添いたいと、学校の保健師をめざして勉強。その時に、バーでアルバイトをしていた。
勤務先も決まり、誰もがその道を行くと思っていたが…
BAR SLOPPY JOEマスター 信原邦彦さん:『アルバイト今日で終わりだね』っていうことで、(生田さんが)アルバイト最後の日に、『マスター、相談があるんですけど』と。『私、やっぱりバーテンダーがしたいです』って。え?ってなったんですね。
この決断に家族も…
生田さんの母・真弓さん:めちゃくちゃ反対して、せっかく(就職の)道がやっとできたところに、『は!?』って。彼女が号泣して『(バーテンダーを)やらせてほしい』って言ってきた。
バーテンダー 生田理実さん:バーって、やっぱりゆっくりお話しできる場所で。皆さん人生で、色々うれしいことも、悲しいこともあるんですけど、そこにちょっとでも寄り添える。バーテンダーって。一杯で寄り添う。言葉で寄り添う。

■母親になると「辞めざるを得ない」現実 「続ける方法をずっと考えている」と生田さん
去年、初めての子供が誕生した。
早くもシェイカーに強い興味があるようだ。
出産前、毎日のようにバーで働いていた生田さん。いまは週3日ほどにしている。出勤日は、子どもを保育園に預けて仕込みと自主練習、営業の夜は、仕事終わりの夫が面倒をみる。
生田さんの夫・諒さん:ハイボール作ったときに、(生田さんが)『一口だけ頂戴』って言って、飲んだら、『まずっ』とか言って。『まずいって言うなら作って』と言っても、絶対作ってくれない。
バーテンダー 生田理実さん:だって、お箸で混ぜたりするし…。
バーテンダーの世界では、母親になると「辞めざるを得ない」と決断する人がほとんどだという。そんな中、生田さんはカウンターに戻った。
バーテンダー 生田理実さん:出産すると、シェイクの形も変わっていて、動画見た時に、『あれ、自分のシェイクこんなんだっけ?』って、すごく残念に思ったことがあって。戻さないとって思いましたね。(バーテンダーを)続けていける方法を、ずっと考えている。
バーテンダーとしての感覚を取り返すために、出産のわずか2カ月後には抱っこをしながら練習をしていた。
この姿勢には当初、猛反対していたお母さんも。
生田さんの母・真弓さん:すごいなっていうのは感じてます。『そこまでやるかな』って、思いの強さって言うんですかね。『応援したいな』とは、思えるようになりました。

■10日後のコンテストに向け特訓 経験を頼りに感覚を養う
同僚】:スタート。
この日の開店前の自主練習は、10日後に迫った“あるコンテスト”に向けたものだ。
鍛えるのは「ハンドメジャー」という技術。道具を使わず、手の感覚だけで正確な分量のカクテルを3杯、作らなくてはいけない。
経験がものをいう技術。
バーテンダー 生田理実さん:少ないね…。
まだ確固たる自信を持てないでいた。昔の半分程度の出勤で、感覚を養うのは至難の業だ。

■練習した「ハンドメジャー」 作るカクテルは想定外!
迎えたコンテスト当日。
関西のバーテンダーが集まり、4つの部門で技術を競う。上位4人が全国大会に進める。
店とは違う、張り詰めた空気の中、「ハンドメジャー」が試される時が来た。作るカクテルは直前に発表された。
それは「ジプシー」。店ではめったにオーダーがない一品だ。
バーテンダー 生田理実さん:発表されたカクテル、思ってもいないカクテルだった…まずは手順を間違えないようにしないと。10秒で30ミリ入るので、それを確認して…。
ブランクを経て、限られた時間で練習を積んできた。
その成果を発揮できるのか。

■自分を信じて全力で挑む「ジプシー」 結果は…最多タイの5つの表彰
「スタート」の声がかかり、ジプシーを3杯分、厳しい審査の目が注がれる中、作っていく。
緊張のなかでも凛として、鍛えた感覚を信じて。そして…。
バーテンダー 生田理実さん:(ハンドメジャーの)ジプシーは、しっかり決めることができました。
全力で挑んだ結果は…。
「第3位はゼッケン番号7番、兵庫県支部、生田理実選手」
総合3位入賞で、全国大会への出場決定だ。
表彰は総合だけでなく、なんと参加した選手の中で、最多タイとなる5つの表彰となった。
バーテンダー 生田理実さん:3位!
生田さんの夫・諒さん:えー、よかったやん!
応援に来た家族。実はこの日は…。
バーテンダー 生田理実さん:子供の誕生日!いっぱいの『おめでとう』で幸せです。

■母親とバーテンダーの両立 「できることを探して、手を止めない」
バーテンダーと母親。両立している人は、ほとんどいない。
バーテンダー 生田理実さん:子供の成長とともに、私もできることを探して、その都度、模索しながら。それでも手は止めずにやっていくっていうのが、自分の目標であり、テーマでもあるかな、人生の。
職業・バーテンダー。
「誰かに寄り添いたい」と選んだこの道を歩み続ける。
(関西テレビ「newsランナー」2025年7月10日放送)
