2025年7月20日投開票の参議院選挙で、最大の争点と言えるのが「物価高対策」だ。多くの政党が「消費税減税」を公約に掲げる中で、有権者の期待と不安を取材した。

■強豪校の「胃袋」支える寮母 物価高で“やりくり”も…
愛知県春日井市にある中部大学春日丘高校のラグビー部は、全国高校ラグビー「花園」に12年連続で出場している強豪校だ。
練習を終えた後の夕食、部員たちは山盛りのごはんやボリューム満点のおかずを、モリモリと食べている。

部員:
「おいしいです」
別の部員:
「ごはん自由におかわりできるので、食べなきゃだめですね」
ラグビー部の宮地真監督:
「運動するってことはカロリー消費しているわけだから、体を大きくしないといけないので」
ラグビー部の寮は、宮地監督の自宅の横にあり、部員36人が生活している。
部員たちのパワーの源となる“食”は、宮地監督の妻で、寮母を務める宏美さんがサポートする。スタッフらと協力し、昼のお弁当もおよそ40人分を準備する。

しかし、悩みの種は『食材の高騰』だ。
寮母の宏美さん:
「『わぁーまた高くなった』と思って、寮費の値上げをしたくないので、そうなると食材、買い物で抑えるしか方法がないので」

寮費の半分以上を占めるという食費については、5年前と比べて昼食1食あたり50円は上がっているという。
買い出しに同行させてもらうと、宏美さんは安売りしている食材などを、次々とかごに入れていく。

“少しでも安いものを“とスーパーごとに安い商品を把握し、1日に数軒の店舗をはしごすることもある。
この日は、すぐ使う予定があるうどんを2割引でお得に手に入れた。

寮母の宏美さん:
「けっこう大量に買うので、それが毎日なので100グラムあたり10円違うだけで、すごく違ってくるので、結構10円上がるだけでも『えっ』て思いますね」
寮の廊下には値上がり前に買いだめた調味料などがストックされている。物価高の厳しい状況でも寮費を据え置き、食事の量や質を維持しようと工夫を凝らしている。

寮母の宏美さん:
「先が見えないし、まだまだ上がるような感じなので、不安ですよね。消費税ゼロが一番希望ですけど、いきなりというのはやっぱり大変だと思うので、1日でも長くそういう日が来れば本当に助かります」
■「赤字では営業できない」ラーメン店と“1000円の壁”
消費税の減税を求める声は飲食店からも上がっている。創業52年となる愛知県一宮市の老舗ラーメン店「ほていや」。昔ながらの中華そばは、長年地元で愛され続けている。

出汁に使う昆布やにぼし、豪快に盛られる店自慢のチャーシューに使う豚肉など、あらゆるものの価格が高騰した。徐々に値上げを行い、2025年の初めにはとうとう中華そばが1杯1000円となった。
ほていやの店主 遠藤静江さん:
「材料が高くなるから、どうしても上げないとやっていけない。赤字になってでは営業できないんで」

値上げに対し、常連客はどう思っているのか?
客の男性:
「初め、価格に1000円という文字が出た瞬間にちょっとびびっちゃった。実際1000円迎えてみると、行きたいときに行くなって、結局通っちゃっている」
別の男性:
「やっぱり食べたくなりますから、これが2000円、3000円となってくると、ちょっと考えますけど」

急激な物価高騰の中、店主の遠藤さんは長年変わらぬ味を楽しみに来る客のためにも 「減税」に期待を寄せる。
ほていやの店主 遠藤静江さん:
「減税で(仕入れの)値段が下がるのは大賛成です。(食料品の)8%だけ下げるとかするのは絶対平等じゃない。(食料品以外の)10%のほうも、5%にするとか」
今回の参院選では、物価高対策が最大の争点となっている。与党が現金給付を公約にしているのに対し、野党各党は、消費税の「減税」や「廃止」を打ち出している。

その一方で、昨年度の消費税による税収は25兆212億円と、国の税収全体の3分の1を占めている。財務省の試算では、食料品の消費税率を0%にした場合、地方分も合わせて5兆円の減収となり、一律5%に減税すると15兆円の減収としている。
有権者はどう考えているか、名古屋で50人にアンケートを行った。
50代男性:
「安くしてくれれば、もっともっと消費が伸びて経済が回るんじゃないかなと」
30代女性:
「(消費税が)減ってくれるにこしたことはないかなって」
減税を求める人は全体の4分の3となる38人で、このうち24人が食料品の軽減税率8%の引き下げを求めた。

60代男性:
「食べずにはいられないので、将来的なこと考えると、せめて食料品だけでも減税していただけるとありがたい」
60代女性:
「せめて食料品は下げるべきだと思います。全部下げちゃうと『じゃあ、やっていけるのか』っていうのがちょっとあって」
一方で、税率を下げなくても良いという声が、全体のほぼ4分の1、12人を占めた。
50代女性:
「減税したところで、また他のところでお金取られるんだろうなと、だったら別に減税しないで、そのままでいてくれれば」
60代男性:
「消費税は社会保障に主に使われているということですので、その分の財源がなくなってしまうものですから、社会保障に影響が出るんじゃないかと思って」
消費税が医療・介護・子育て支援など、社会保障の財源とされていることから、減税によりそうした政策に影響がでることを心配する意見だった。
■将来担う学生たちは「減税に期待」も「将来に不安」
参院選が公示された7月3日、愛知学院大学の3年生16人が参院選の分析に向け、候補者のSNSアカウントや、新聞記事などからデータを収集していた。

この国の将来を担う学生たちに、消費税の減税について聞いてみた。
女子学生:
「消費税がちょっとでも下がった方が、学費とかにお金が使えたりとか」
別の女子学生
「食費(の高騰)が落ち着けば、もうちょっと消費が変わるから、消費税は減税してほしいとは思います」
減税に期待する声もある一方で、より多く聞かれたのは、将来への不安や疑問の声だった。
男子学生:
「率直にうれしいと思いますけど、財源とかが不安だったりしますね」
別の男子学生:
「うれしい反面、疑問も残ります。財政赤字とか拡大していっているので、その埋め合わせをどうするのかというのと、公共サービスの削減とか、おそらく並行して行うと思うので、どこまでそうなるのかというのは、気になるところです」
別の男子学生:
「減税って言ってくれること自体はうれしいけど、あんまり信頼できないなという、かと言って、減税をしない代わりに年間2万出しますって言ってくれているのも、2万円だとそこまで恩恵感じられないかな」
金融政策などに詳しい、野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんはこう指摘する。

木内登英さん:
「単純に今、『減税がいいですか』みたいな問いかけも問題だと思うんです。それがどういう効果を生んで、どういう将来の社会、国家につながっていくかまで、まず政党としてそれを示す必要がありますし、有権者はそれを理解した上で政党を選ぶと」
■「物価高対策」と「減税」 各党の公約は
参院選で大きな争点となる物価高対策について、野党各党は消費税の減税や廃止を主張している。

・立憲は原則1年間、食料品の消費税ゼロ、当面1人2万円の給付
・維新は原則2年間、食料品の消費税をゼロ
・社民と保守は恒久的に食料品の消費税ゼロ
・国民は時限的に消費税5%
・共産は消費税廃止を目指し、まず5%に減税
・れいわは消費税廃止するとともに、一人当たり10万円の給付
・参政は段階的に消費税を廃止するとしている。
自民と公明は、消費税減税ではなく給付を主張しているが、公明は「軽減税率の引き下げを今後議論していく」と、減税に含みを持たせている。

必要な財源については、次のように回答している。
・自民、公明、維新は税収の上振れ分を賄う。
・国民は税収の上振れ分で賄えない分は、赤字国債の発行も容認する。
・れいわと参政も赤字国債の発行は問題ない。
・立憲は積みすぎた政府の基金の取り崩しなどを充てる。
・共産は大企業や富裕層への課税を強化する。
・社民は防衛費削減や高所得者層への課税強化で賄う。
・保守は財源を明示せず税収増で賄う。
2025年7月9日放送
(東海テレビ)