今、相次いでいる警察官を騙(かた)った特殊詐欺で、若者の被害が急増しています。
【ニセ警察官(警察庁HPより)】「事情聴取ですが全過程録画録音することで、法的な効力を持つものとなります」
ビデオ通話で事情聴取を要求する警察官を騙る男。
さらには性被害まで…巧妙化する新たな手口を徹底取材しました。
■警察官を騙る手口の詐欺被害が急増
過去最悪のペースで被害が発生している特殊詐欺。
その中でもことしに入って急増しているのが警察官を騙る手口です。
警察庁によると、ことし1月から5月までの被害額はおよそ316億円と全体の64パーセントほどを占めています。
特徴的なのが被害者のおよそ4割が20代~30代。これまでは高齢者の被害が多かった特殊詐欺。いま若い世代での被害が急増しているのです。
【10代】「大阪府警から。罰金みたいな払わないといけないみたいな。絶対ちゃうからいいやと思って切りました」
【20代】「(電話番号の)最後が0110で、警察かなと思ったけど、最初に+1がついていたので、怪しいかなと思って出なかったです」
■「事件の主犯格に口座を15万円で売った」と疑われ…数百万円を振り込んでしまった30代
大阪府出身のピアニスト、芥川怜子さん(32)。ことし5月、警察官を騙る男らに数百万円を騙し取られました。
【被害にあった芥川怜子さん】「普段は電話でないんですけど、末尾が0110で警察だと思って出たんです。『あのストーカー事件どうなった?』とか(背景の話し声が)聞こえてくるんですね。相手側が本当に警察署にいると信じてしまいました」
数百万円という大金を振り込んでしまったピアニストの芥川さん。
事件はことし5月の朝、突然、スマートフォンにかかってきた1本の電話から始まりました。
【被害にあった芥川怜子さん】「三重県警の刑事ですと名乗られました。一番最初に信じた原因としては私の住所部屋番号まで全部言ってきた。そこまで個人情報がばれているということは警察かなと」
かかってきた電話番号は(プラス)「+180」が付いているものの、それ以外は実際に三重県警と同じでした。
【被害にあった芥川怜子さん】「海外からですか?って聞いたんですよ。録音機能がついているため+が最初についてしまうと説明されました」
三重県警の刑事を騙る男は、実在する巨額マネーロンダリング事件で、芥川さんの口座が犯罪に使われていると説明。
「芥川さんが事件の主犯格に口座を15万円で売った」というのです。
■「ちょっと待って。私逮捕されるんですか?」
その後、合同捜査をしているという「大阪府警捜査2課のコンドウリイサ」と名乗る女刑事から電話が。
【コンドウを名乗る女】「LINEのビデオ通話の機能を使って、画面の録音録画ですね。こういった形で聴取の方、取らせていただきたいと思います」
【被害にあった芥川怜子さん】「わかりました」
「コンドウ」は芥川さんをSNSのビデオ通話に誘導し、家族構成や年収、口座の残高などあらゆる個人情報を聞き取りました。
【コンドウを名乗る女】「逮捕状も執行されるということなんですね。その場合、芥川さんの身柄を拘束した上で、大阪府警へ身柄を移送されてしまうということです」
【被害にあった芥川怜子さん】「ちょっと待って。ちょっと頭がついていかないんですけど。この緊急逮捕令状というのは、私逮捕されるんですか?」
SNSで送られてきたのは、「逮捕状」。罪名は「犯罪収益隠匿罪」と書かれています。
■詐欺グループは顔を一切見せず…
さらに今度は、「大阪地検のカミヤ」を名乗る男から電話が。
詐欺グループは顔を一切見せず、画面に映っていたのは芥川さんが話す内容のメモ。
伝えてきたのは…
【大阪地検カミヤ名乗る男】「これから捜査員に向かわせまして、逮捕状執行し、こちらに連行していただいて、対面してお話しようというふうに思っておりますので」
【被害にあった芥川怜子さん】「え、待ってどうしたらいいんですか?えっ、どういうこと?全く身に覚えがない話なわけですよ。
【大阪地検カミヤ名乗る男】「身に覚えがない?」
【被害にあった芥川怜子さん】「ないですよもちろん。口座なんて売ったこともないですし、話がもう朝から何も理解できない状態です。何で私のが使われてて、私の個人情報がどこから抜けているのか…」
【大阪地検カミヤ名乗る男】「あなたのお話を今聞いたところで、信用なんて一切できません。それなりの証明がなければ我々は状況をもとに捜査するものですので」
■「資金調査」と称して芥川さんの口座の預金を金融庁に全額送るよう要求
カミヤは「資金調査」と称して芥川さんの口座の預金を金融庁に全額送るよう要求。
「紙幣番号」を調査すれば犯罪に関与していたか追跡できるというのです。
疑いが晴れれば、現金は戻ってくると説明され、芥川さんは数百万円を振り込んでしまいました。
■性的な写真も要求され…
そして、「検事のカミヤ」からさらなる追い打ちが…。
【大阪地検・カミヤを名乗る男】「今回の容疑者、体に少しタトゥーがあるというふうな確認をされてまして。胸の辺りわき腹の辺りですね、手術痕があるというふうな確認がされておりまして、こちらですね少し芥川さんの確認をさせていただきたくて」
【被害にあった芥川怜子さん】「位置的になんかやっぱり嫌ですね。わき腹って胸の下辺りですよね」
【大阪地検・カミヤを名乗る男】「そうですね。おそらく下着なども取っていただかないといけないんですよね」
【被害にあった芥川怜子さん】「ちょっとやだなあ」
【大阪地検・カミヤを名乗る男】「女性警察官呼んで参りますので。お願いできれば」
結局、別の業務があるとして女性の警察官は現れず、性的な被害には遭わずに済みました。
【被害にあった芥川怜子さん】「下着姿になって、いろいろなところにゆすりをかけてお金をだまし取ろうとしてたんじゃないかっていう。世の中にこんな悪い人たちが身近にいるかもしれないと思ったら怖くて、なかなか信じられなくなりましたね」
■「本物」の警察によると、SNSで逮捕状を送ったり、取り調べすることはない
警察官がSNSで逮捕状を送ったり、取り調べをしたりすることはあるのでしょうか。
【大阪府警府民安全対策課 井上信輔警部】「警察がSNSとか、ウェブサイト上で逮捕状を掲示するとか、人に示すということは絶対にないです。警察からの電話であっても身に覚えのない話であれば、一度電話を切るというのが大切だと思います」
■「どういった詐欺が増えてるのか気づきにくい時代に」20代の田中アナ語る
「ニセ警察官詐欺」の被害にあうのは、20代から30代の若者が多いそうです。
20代の田中友梨奈アナウンサーは、知人が警察になりすました人物から電話があり、身柄の拘束や罰金を要求されたことがあったといいます。
【田中友梨奈アナウンサー】「知人が犯罪に関与した可能性がある。身柄の拘束か、罰金を要求されたことがあったそうです。その時は慌てて、電話を切ったんですけど、本物の警察と思ってしまった理由が、実在する警察署の番号だったそうです」
電話をもう一度かけ直すと、警察からは電話をかけていなかったことが分かり、知人は詐欺被害には遭わなかったということです。
【田中友梨奈アナウンサー】「見たいものや興味あるものが(SNSなどで)流れてくる時代になっているので、どういった詐欺が増えてるのか気づきにくい時代になっているように感じました」
■警察のニセHPやInstagramも
捜査関係者は若者がだまされやすい理由について、「オンラインでの個人送金・金銭情報の取り扱いに慣れているため、警察を名乗る者からの要求も受け入れてしまうのでは」と話しています。
【ジャーナリスト鈴木哲夫さん】「オンラインの時代だからこそ、オンラインを使った詐欺が出てくるわけです。その時のコミュニケーションのツールに合わせて、必ず出てきますから。よくよく考えたら、警察官が電話で逮捕するって言っても、逃げられちゃう。ありえないんですよ。だけど、話していると引き込まれちゃう」
そのほかにも、警察のニセサイトやインスタグラムのニセアカウントも出回っています。ニセアカウントからダイレクトメッセージを送って、投資に誘導することもそうです。
おかしいと思ったら、 警察相談専用番号#9110まで相談してください。
スマートフォン1つでなんでもできてしまう時代。その環境に慣れている若い世代だからこそ注意が必要です。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年7月9日放送)