3万匹もの生き物が暮らす水族館。そこで働く飼育員の“知られざる仕事”に密着した。
魚釣りが好きな父親の影響で…
鋭い歯を持つサメの仲間に優雅に泳ぐエイの仲間。350種類、3万匹が集結する水族館、福岡市東区の『マリンワールド海の中道』だ。

水槽のなかを群れで優雅に泳ぐマイワシはマリンワールドで毎日、開催されている人気イベント“イワシのショー”の主役だ。
「餌を求めて水槽中を泳ぎ回るマイワシたちの美しい姿!」とショーの進行役を務めているのは、マリンワールド(海の中道海洋生態科学)の社員、増永拓斗さん。2025年の春に入社したばかりの社会人1年目の新人なのだ。

「慣れないです。人前で喋ることもなかったので。最初は、緊張しました」と話す増永さん。ショーの司会から魚の体調管理に至るまで、多様な仕事をこなしている。
「もともと生き物が好きで、いつも捕まえに出かけていました。大きい魚とかが飼育できるのは、水族館ぐらいじゃないですか。もっとほかの生き物を飼ってみたいとか見てみたいと思って」と飼育員になった動機を語る増永さん。

魚釣りが趣味だった父親の影響で、幼い頃から魚が大好きだったという。夢だった水族館の飼育員になり3カ月、特に驚いたのは「めちゃくちゃ仕事の幅は広いですね」ということらしい。
釣り道具を手に佐賀・呼子へ
この日、増永さんが早朝から向かった先は、佐賀・呼子の加部島漁港。始めたのは、なんと釣り。水槽の展示用のためだ。

水族館の魚は漁師から購入することが一般的だが、漁師が販売していない小さな魚などは、飼育員が漁船に同乗し譲り受けたり、自ら釣りを行い捕獲したりしているという。
増永さんが担当する『九州の海』エリアは、九州の海に生息する140種類の魚が展示されているが、このエリアにいる魚の多くは飼育員が自ら捕まえた魚だという。

この日の狙いは、スズメダイとクロホシイシモチ、合わせて300匹。「水槽の大きな魚以外での賑やか師。いっぱい釣れたらいいな」と増永さんは釣り糸を垂らすが、釣り開始から40分、全く釣れない。前日に降った雨で海水温が下がり釣果が芳しくないのだ。

仕方なく向かった次の漁港で釣り糸を垂らすと今度は、一瞬で浮が沈む。次々とスズメダイがかかって行く。しかし、この日はもうひとつの狙いのクロホシイシモチは、全く気配がなかった。
20キロのタンクを背負い博多湾へ
別の日、博多湾で行われたのは潜水訓練。一人前の飼育員になるために必要な訓練だという。飼育員は、自ら海に潜って魚たちを捕獲することもあるため、マリンワールドの飼育員は全員、潜水訓練を1年かけて行っている。また潜水技術は、大水槽で魚とパフォーマンスするためにも必要な技術なのだ。

20キロのタンクを背負い海中へ入る増永さん。この状態で180メートルを泳ぐ過酷な訓練を続ける。指導するマリンワールドの鈴木鴻之さんによると「最終的な目標は外の海、野外の海に出たときに、生き物の採集をできるような、安全にダイビングができる技術を身につけてもらうのが目標です」と語る。

飼育員の仕事は飼育だけじゃない
さらに別の日。この日の仕事は、増永さんが先日、呼子で釣ってきた魚の展示作業。釣って来たスズメダイは、健康状態を整えるため1週間ほどバッグヤードの予備水槽で飼育されていたが、いよいよ展示水槽へ移されることに。増永さんは、愛おしそうにスズメダイを丁寧に移していた。

新人飼育員の1日のスケジュールはどうなっているのか? 増永さんによると、午前中は水槽の点検やエサやりなど生き物の体調管理の仕事をしつつ、その合間にイワシやダイバーショーのパフォーマンス補助にも入る。そして午後からは博多湾に出て、生き物の収集をするという。まさに朝から水族館の全てを支えるような1日なのだ。

社会人になって3カ月。仕事を覚えるだけで精一杯という増永さん。「生き物をちゃんと飼育できて、なおかつお客さんに感動を与えていける飼育員になりたいです。好きなこと一本で生きたかったですね」。憧れだった飼育員という職業につき、ヤル気に胸を膨らませている。

魚と向き合う毎日。大好きな魚の魅力を水族館から伝え続ける。
(テレビ西日本)