島根県西部の美郷町に創業100年を超える和菓子の老舗がある。
これまで何度か迎えた閉店の危機を乗り越え、地域の人たちに親しまれてきた素朴な味わいの「羊かん」を受け継ぐ“仲良し姉妹”をJALふるさと応援隊の山崎美来さんが取材した。
石見銀山に続く街道沿いに趣ある老舗
「中国太郎」の異名を持つ中国地方最大の河川・江の川。
そのほとりに位置する美郷町浜原地区。

かつての石見銀山街道沿いに店を構えるのが「富士屋本舗」。1902年創業、123年の歴史を持つ和菓子の老舗だ。

歴史を感じさせる、レトロな外観の店に入ると、2人の女性が迎えてくれた。
菅多優美子さん(77・中央)と、2つ下の妹、畠山律子さん(75・左)。10年前から店を切り盛りしている“仲良し姉妹”だ。

看板商品は”日本一”の「柚子羊羹」
店先には、エゴマ、小豆、桜…味もサイズも様々な7種類の羊かんが並ぶ。
なかでも人気なのが、香り高い柚子をたっぷり使った「柚子羊羹」だ。

「昭和7(1932)年の『全国菓子博覧会』の記録ですけど、ちょうど祖父が初めて出品して、『名誉優良賞』というのをいただいたんですよ」と姉の優美子さんが教えてくれた。
古びた冊子には、確かに「柚(子)羊羹」と記されている。

「そうなんです。『柚子羊羹』では日本一なんですよ」
優美子さんが続けた。
この自慢の「柚子羊羹」をつくり始めたのは「富士屋本舗」の初代、祖父の藤吉さん。
1932年に開かれた国内最大の菓子の品評会「全国菓子大博覧会」に出品し、最高賞の「名誉優良賞」、日本一に選ばれたそうだ。
ちょうどよい甘さ さわやかな香り
「うちの『柚子羊羹』、食べてみてください」と妹の律子さんに勧められ、JALふるさと応援隊の山崎美来さんが口にした。
ユズのさわやかな香りを感じられて、ちょうどいい甘さで、たくさん食べたくなってしまうおいしさだ。

勧められるままに「えごま羊かん」も。
エゴマのプチプチした食感が楽しい。小豆の優しい甘さと相まって、口の中においしさが広がった。
すべて手作業 自然な甘さにこだわり
やさしい味わいで100年を超え、愛されてきた「富士屋本舗」の羊かん。
工場に案内してもらった。

大きな釜に寒天と水。
火にかけて約10分、ぐつぐつと煮立たせながら、焦がさないよう木のへらでかき混ぜ、寒天を溶かしていく。羊かんの舌触りにも関わる重要な工程だ。
全て手作業。70代の優美子さん、律子さんには大変な重労働だが、初代の祖父から受け継がれた方法で、伝統の味を守っている。

1日80本近い羊かんを作るが、その工程のほとんどが手作業。
専門業者から仕入れることが多い「あん」も手作りするため、羊かんができあがるまでには、3日ほどかかるという。
材料も、地元でとれるものを積極的に使用。防腐剤や甘味料などを使わず、天然の素材だけで作るからこそ出せる自然な甘さにこだわっている。
未曽有の水害…閉店の危機
姉妹で看板を守る「富士屋本舗」だが、100年を超える歴史の中で、幾度か閉店の危機に瀕したという。

「100年に一度といわれる大水害が昭和47(1972)年にありました。泥水の跡があそこに見えますよね。あそこまできたんですよ」

優美子さんが指さす先には、その水害の痕が今も残っていた。
先代の父・準吉さんの時代、集中豪雨で近くを流れる江の川が氾濫、「何もかも流されて、柱だけが見える状態でした。だから、復活するのは難しいなと思いましたね」と2人が振り返るように、この店も大きな浸水の被害を受けた。
しかし、この時は、銘菓の復活を願う地域の人たちの後押しもあり、廃業の危機を脱出し、営業再開にこぎつけた。
父の死で一念発起…「店を途絶えさせるのは惜しい」
もう一つの危機は、11年前の2014年。
店を守っていた先代の父・準吉さんが88歳で亡くなった。

この時、優美子さんは「富士屋本舗」を「このまま途絶えさせるのは惜しい」と思い、100年以上守られてきた味を受け継ぐことを決意。
大阪に嫁いでいた律子さんも、夫が他界したのをきっかけにふるさとに戻ることを決め、10年前、姉妹で跡を継いだ。
そんな2人が、時には「けんかしながら」、「意見の食い違いを徹底的に討論して」追い求めたのが、祖父の味を守ること。
いったいどうすれば…と途方に暮れた時、亡き父が書き留めていたたくさんのレシピメモが見つかった。

これを参考に、分からないところは母に聞きながら、大切な味を再現することができた。
受け継いだ老舗の味 まだまだ広めたい
祖父と父が培い、守ってきた老舗の味を受け継いだ優美子さんと律子さん。看板を継いで10年が経った今も、夢を持ち続けているそうだ。

姉・菅多優美子さん:
まだまだ食べていただいてない方がたくさんいらっしゃいますので、一人でも多くの方に食べていただいて、ファンになっていただきたいと思います。

妹・畠山律子さん:
大きな夢なんですけど、地元・島根県の出雲空港から海外へ羊かんを出せたらと願っています」

おいしい羊かんをもっと多くの人に届けたい。
“仲良し姉妹”の情熱が冷めることはなさそうだ。
(TSKさんいん中央テレビ)