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プレスリリース配信元:マウントメルビル株式会社

世界最大級の広告祭「Cannes Lions 2025」から、企業マーケターが実務で活かせる5つのヒントを現地取材をもとに紹介。

ブランド担当者こそ、この変化を見逃してはいけない。

「新しいキャンペーンを投下してもロイヤリティが高まらない」そんな企業マーケティングの“あるある”に、Cannes Lions 2025※1が明確なヒントをくれました。
企業でマーケティングやブランドを担当している皆さんにとって、Cannes Lionsは少し“遠い世界”に感じるかもしれません。華やかなCMを表彰する祭典、そう思われている方も多いでしょう。
でも、実際に現地で話を聞いていると、むしろ今、企業側で日々マーケティングを回している人たちこそ見るべき内容ばかりだと感じました。
「データと感性のバランス」「ブランドパーパスの形骸化への問い直し」「AI時代の本当のクリエイティブとは何か」など、どれも今すぐ実務に関係するテーマです。
私自身も昨年に引き続き現地で参加しレポートを書いていますが、今年は特に“今すぐ実務に活かせる示唆”が多く、より深く感じる部分がありました。
「変わらない物語を軸にしながら、いかに接点を横断的に構築するか」それが今、世界中の優れたブランドに共通して見られる潮流だったからです。

このレポートでは、Mt.MELVIL(本社:Los Angeles, CA、CEO/エクゼクティブプロデューサー:村田未来子 日本支社:東京都渋谷区、CEO/エクゼクティブプロデューサー:山脇 愛理)のビジネスマネージャーとして、そして元・企業マーケターとして、Cannes Lions 2025の現地で得た“リアルな空気”をお届けします。単なるセッションのまとめではなく、「明日から自社のマーケティングにどう活かせるか?」という視点で抽出したヒントと問いを中心にお伝えします。


気温も熱気も最高潮のCannes会場より

【1. ストーリーの芯がブランドに“複利”をもたらす】

PepsiCo, Inc.(以下、PepsiCo)のGlobal CMOであるジェーン・ウェイクリー氏は、セッションで、「創造性は目的のない表現ではなく、成長のための手段である」と語り、食文化との結びつきがブランドのカテゴリー拡張においていかに重要かを強調しました。Lay’sやCheetosなどの事例を通じて、“日常の中の物語を通じたブランド体験の再構築”が、事業成長と深く関係していることが示されました。
PepsiCoの元マーケティングVPであり、現在はKraft Heinz North AmericaのCMOを務めるトッド・カプラン氏は、ブランドとはリレーションシップであり、そこにはストーリーが欠かせないという姿勢を一貫して示してきました。 彼はこれまでも、一過性のバズではなく、語るべき“核”を定め、すべてのチャネルで繰り返し伝えていくことの重要性を主張しており、その考えは現在のブランドづくりにも通底しています。

この視点は、YouTube, LLC(以下、YouTube)CEOのニール・モーハン氏の「長く支持されるブランドは、語るべき“信念”を変えていない」という言葉とも重なります。動画プラットフォームとして20年の軌跡を持つYouTubeは、変化し続けるテクノロジーの中でも、表現者とファンの“絆”を中心に据えたブランド構築を続けています。

また、ドラマ『This Is Us』のクリエイターであるダン・フォーゲルマン氏は、「脚本家として最も信頼するのは“驚き”と“心の痛み”。そこにこそ人は惹きつけられる」と語り、自身の母親の死や家族の記憶など、個人的体験に根ざしたストーリーテリングが最も深く観客と接続する、とその背景を明かしました。感情に響く表現こそが、物語の本質であり、ブランドにも通じる要素だと感じさせました。

単なる“わかりやすさ”や“映え”ではなく、繰り返し語られ、深く刺さるストーリーこそが、ブランドと生活者の関係に“複利”をもたらす。その本質を、改めて感じさせられるセッションでした。

【2. 複数部門グランプリに見る“接点の越境”】

今年のCannes Lionsでは、単一チャネルや単発施策にとどまらず、社会・生活者・企業の“接点”を横断して作用するキャンペーンが高く評価されました。1つのアイデアが複数の部門(=視点)で受賞する傾向が見られたことは、今の時代におけるブランドの「振る舞い」の重要性を示しています。

特に注目を集めたのが、フランス発の保険グループAXAの『Three Words』キャンペーンです。このキャンペーンは、Titanium Grand Prix、Direct、Creative Business Transformationの3部門でグランプリを受賞しました。さらに、Film、Health & Wellness、Entertainmentなど複数部門でもGoldやBronzeを獲得し、その成果がAXA全体の高い評価に貢献。AXAはCannes Lions2025において「Creative Brand of the Year」に選出されました。

『Three Words』キャンペーンの仕掛けはシンプルでありながら革新的。住宅保険の契約文に“and domestic violence”を追加することで、家庭内暴力の被害者に対して避難・法的・心理的支援を保険の対象に含めたのです。制度設計、サービス改善、社会的啓発の複数の接点を越境する設計が、多面的に評価された要因です。

また、Unilever傘下のDoveのキャンペーン『The Dove Code』(『Real Beauty Redefined for the AI Era』)は、Media部門でGrand Prixを獲得し、Glass部門でもショートリストに選出されました。このキャンペーンでは、AIが生成するビジュアルが子どもたちの美意識に与える影響に着目し、教育用映像と「Real Beauty Prompt Playbook」を展開。テクノロジー、教育、ジェンダーの接点をまたぐ設計によって、ブランドの社会的姿勢が高く評価されました。

さらに、Instagramの『Caption with Intention』は、Digital Craft、Design、Brand Experience & Activationの3部門でグランプリを受賞。視覚障害のあるユーザーのためにaltテキスト記述の啓発活動、UI設計改善、クリエイター教育を並行展開し、テックとヒューマンセンタードデザインの交点に立つブランドの姿勢が評価されました。

これらの事例に共通していたのは、一発のバズや映えるビジュアルではなく、さまざまな接点を越境しながら連鎖的にブランド体験をつくっていること。現代におけるブランド価値とは、単一チャネルのインパクトではなく、行動・サービス・社会的文脈が横断的につながる構造によって決まることを、今年のグランプリたちは示していました。

【3. “感情”が、体験設計の起点になる時代へ】

e.l.f. BeautyのCMOであるコリー・マルキゾット氏は、「いまZ世代に刺さるのは、“完璧な映像”ではなく“リアルな共感”だ」と語りました。完璧に編集されたビジュアルや脚本された言葉ではなく、むしろ未完成さや素直な表現の中に、ユーザーが自己を投影できる“余白”がある、そうした感性が支持を集めているという指摘でした。

e.l.f.は、TikTok上で自社の楽曲『Eyes. Lips. Face.』※2をバイラルヒットさせ、ユーザー生成コンテンツ戦略で注目を集めた後も、“共創型マーケティング”を軸にしたキャンペーン展開を続けています。2024年から実施している、ジェンダーバイアスにユーモアで切り込んだ『So Many Dicks』キャンペーンが話題となり、Cannes Lions 2025ではCreative Data Lions部門(Use of Humor)でSilver Lionを受賞。さらにTitanium Lionsのショートリストにも選出され、実績としても高く評価されました。

マルキゾット氏は「共創には、私たちが信じる“声”が必要だ」と強調し、「単なるエンタメではなく、“信念をもって語るストーリー”が、ロイヤリティと購買に直結する」と語っていました。この「共感を起点としたストーリーテリング」は、単にSNSでの拡散を狙うものではなく、ブランドそのものの“人格”を表すものだとする視点は、非常に実践的です。

同様のテーマは、Hello Sunshineの創設者であり俳優・プロデューサーのリース・ウィザースプーン氏も共有していました。彼女は “Joy isn’t escapism. It’s resistance.”「“喜び”は、女性たちにとってのレジスタンス(抵抗)になりうる」と語り、社会課題と向き合いながらも、前向きな物語を描くことの重要性を語りました。特にZ世代女性に向けたブランドコミュニケーションでは、“怒り”や“課題”だけで終わらせず、その先の希望を描く必要があるという提言が印象的でした。

これらのセッションから私たちは、「データでセグメントする → 感情を起点にストーリーを投げかける → 参加を促す共創体験に繋げる → 購買へ」という、現代型マーケティングの新しい構造を学ぶことができます。

特にe.l.f.の事例は、「プロダクトありきの広告」から「共感ありきの関係構築」へとパラダイムが転換している今、D2Cやスモールブランドを展開する企業にも応用可能なヒントにあふれていました。

多くの記者も集まったリース・ウィザースプーン氏とe.l.f. BeautyのCMOであるコリー・マルキゾット氏のセッション


【4. 変わるブランド・変わらない問い】

バーガーキング、レストラン・ブランズ・インターナショナル、NotCoなど複数のブランドで大胆なクリエイティブを手がけてきたフェルナンド・マシャド氏※3は、Cannes Lions 2025でのセッション『Marketing’s Seven Deadly Sins(マーケティングの七つの大罪)』に登壇。会場では、企業が無自覚に陥りがちな7つの“思考の罠”を鋭く指摘しました。

Vanity(虚栄): ブランドの過去の成功や遺産を無視して、すぐに“全部変えたくなる”新任マーケターにありがちな過ち。バーガーキングでロゴを“モダン”に変えすぎた結果、逆にブランドの力を弱めた失敗を語りました。
Sloth(怠惰):リサーチに答えを求め、意思決定の責任を回避する姿勢。データに頼りすぎると、すべての判断が“平均化”されたマーケティングになってしまうと警告しました。
Gluttony(貪欲):ブランドの中核を疎かにしたまま新規事業に手を広げたヴァセリンでの苦い経験を共有。「ブランドの核は、思っているより速く崩れる」と警鐘を鳴らし、ブランド拡張を欲張りすぎてコアが弱まるという事例が語られました。
Greed(強欲): 売上を最優先にし、短期施策に傾倒する姿勢。短期的な売上指標(ROI)ばかりを追い、長期的なブランド構築とのバランスを欠く危うさを指摘しました。
Envy(嫉妬): 他社のキャンペーンを模倣するようなブリーフが創造性を妨げるという警告でした。
Pride(傲慢): 優秀なクリエイティブパートナーに過干渉することで、成果を妨げる傾向に言及。信頼によって生まれた『Play It Safe』キャンペーンの成功事例が語られました。
Wrath(怒り): 社内政治や感情論による意思決定。業務上のストレスや感情を職場に持ち込むことの弊害を指摘。「共感と人間らしさを失わないことが、長く成果を出す秘訣」と強調しました。

マシャド氏は、「この7つのうち3つ以上に思い当たる節があるなら、それは“組織の危険信号”」と断言。実際、彼自身が手がけたキャンペーンでも、一部の“罪”に陥った瞬間にブランドの勢いが停滞したと振り返っており、最後にマシャド氏は、「完璧な答えより、優れた問いの方が価値がある」と語りました。

一方で氏は、「成功しているブランドには“語るべき価値”が明確に存在している」とも強調しました。その例として氏が挙げたのが、NestleのKit Kat。1958年の “Have a break, have a Kit Kat.” というコピー以来、一貫して「休憩」「日常の中のリズム」というブランドの価値を語り続けており、そのシンプルさと継続性がロイヤリティを築いていると紹介されました。

また、Kit Katは近年、ポップアップやローカルコラボなどの“拡張型体験”を積極的に取り入れており、「ストーリーは変えず、接点だけを現代化していく」という戦略が、ブランドの鮮度と信頼を両立させているという点も示唆的でした。

このセッションは、目の前のKPIや一時的な流行に振り回されそうになる現場のマーケターにこそ、“今の自社がどの罪に近いか”を冷静に問い直す機会を与えてくれるものでした。

【5. 明日から実務で活かすための3つの問い】

Cannes Lionsを“遠くの祭典”として終わらせず、明日からのマーケティングに活かすために、私たちは、自社に対して以下の3つの問いを投げかける必要があります。

自社ブランドには、“語り続ける理由”が存在しているか?Story
一過性のキャンペーンを繰り返すのではなく、何を信じ、なぜ存在するのかを明確に語り続けているか。PepsiCoやKit Katのように、どんなチャネルや時代においても「ブレない信念」があれば、ブランドの軸は揺らぎません。

顧客接点を、“点”ではなく“線”として設計しているか?Touchpoint
広告・商品・SNS・店舗体験がバラバラではなく、連動してひとつの“体験設計”になっているか。AXAやInstagramが示したように、接点をまたぐ“越境的な設計思想”が評価の対象となる時代です。

感情や共感を起点に、ターゲットと接続しているか?Emotion
e.l.f.やHello Sunshineが実践するように、今の生活者が求めているのは“わかりやすい商品情報”ではなく、“共感と対話”。企業の声ではなく“誰の声を通して届けるか”が、ブランドの信頼度を左右します。

これらの視点は、「結果として受賞した」のではなく、「設計思想そのものが時代と共鳴した」からこその評価につながっています。
私たちが今取り組むべきなのは、「このキャンペーンで何を伝えるか?」ではなく、「このブランドはなぜ存在するのか?」という問いへの解像度を高めること。

一発のバズではなく、語り続けられる理由を持つブランドこそが、これからの時代に選ばれる。
Cannes Lions 2025が教えてくれたのは、そんな本質的で地に足のついた“ブランドの姿勢”でした。

【まとめ:ストーリーこそ、変化の時代に耐えうるブランド資産】


2025年のCannes Lionsで印象的だったのは、“今、現場で使えるヒント”が想像以上に多かったことです。
単なる映像表現の美しさや感動ストーリーではなく、「ストーリーをどのように信じ、繰り返し語り、日々の接点にまで落とし込むか?」というブランドの“振る舞いそのもの”が問われていたように感じます。

そして、その振る舞いは必ずしも壮大である必要はありません。むしろ、生活者の感情に誠実であること、言葉ではなく体験で信頼を積み重ねていくこと、バズではなく一貫性ある態度で関係性を育てること。これらの“姿勢”が、評価されていたのです。

一度きりの大きな打ち上げ花火ではなく、小さくても確実に灯り続けるストーリー。
その積み重ねが、やがてブランドと生活者の間に“複利的な関係”を生み出していく。そんな構造に、多くのブランドがシフトしている印象を強く受けました。

私たちMt.MELVILも、“ストーリーを起点にクリエイティブをつくる”姿勢を大切に、広告やオリジナルコンテンツの現場に取り組んできました。
今回レポートで紹介したような潮流は、まさに私たちが日々の実務で感じていることでもあり、
これからも、ストーリーの力でブランドや社会とつながる表現を、企業やパートナーとともにかたちにしていきたいと考えています。

Cannes Lionsは、決して“遠い業界の祭典”ではありません。
むしろ、日々の実務に追われている企業のマーケターこそが、最も多くの示唆を得られる場所である。
そんな確信を持って、レポートを締めくくりたいと思います。


暑さから逃れて、ここはみんなのチルスポット


※1
Cannes Lions International Festival of Creativity 2025
世界最大級の広告フェス。第72回目は2025年6月16日~20日にフランス・カンヌで開催されました。
※2
『Eyes. Lips. Face.』
e.l.f.が2019年に自社製作した楽曲でTikTokで爆発的拡散。UGCを活用した共創型プロモーションの成功事例とされています。
※3
Fernando Machado(フェルナンド・マシャド)
Garnett Station Partners Operating Partner。元バーガーキングCMO、NotCo CMOなどを歴任し、現在はCannes Lions Brand Marketer Academyの学長を務める。


※本レポートは、登壇者の発言や公式資料をもとに、執筆者の解釈を含めて構成しています。事実確認には十分努めておりますが、一部に解釈を伴う記述が含まれる点をご了承ください。



グスタヴィッチ むつみ
著者プロフィール
Mutsumi Gustavich(グスタヴィッチ むつみ)|Mt.MELVIL ビジネスマネージャー
マーケターとして、大手からスタートアップまで多様な企業で製品開発やコミュニケーション戦略に携わり、数々の企画を成功に導いてきた。台湾発スタートアップの日本支社立ち上げ、国内有数の菓子ブランドにおけるZ世代向けのブランドコミュニケーションやSDGs企画など360度施策の推進、外資系代理店での大型PRキャンペーンなど、幅広い実績を持つ。
Twitter(現X)で日本最速RTを記録したPR企画を手がけるなど、ソーシャル文脈でのバズ創出も得意とするほか、撮影・制作現場におけるプロデューサー経験も豊富。2024年よりMt.MELVILに参画し、ビジネスマネージャーとして企業の戦略フェーズからクリエイティブの設計・実行に貢献している。




マウントメルビル株式会社
マウントメルビル株式会社は東京(本社:東京都渋谷区、エクゼクティブプロデューサー:山脇 愛理)とロサンゼルス(Mt.MELVIL,Inc:Los Angeles, CA、エクゼクティブプロデューサー:村田未来子)を拠点に、広告やオリジナルコンテンツの制作、戦略まで手がけるクリエイティブプロダクションです。プロジェクトを日本から世界へ、また世界から日本へ広げていくための良きパートナーとして、経験豊かなプロデューサーチームがあらゆる局面でサポートしています。

https://www.mtmelvil.com/

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