宮城県出身、注目の劇作家三浦直之さんの世界の後編、高校生に寄せる三浦さんの思いです。注目の若き才能が、約20年ぶりに母校の仙台三高を訪れ後輩たちを指導しました。目から鱗が落ちる指導で高校生たちが生き生きと変わっていきました。
多くの観客で、盛り上がる劇場。脚本・演出は、宮城県出身の劇作家で演出家の三浦直之さん。仙台で生まれ、仙台三高を卒業するまでの18年間を宮城県で過ごしました。演劇だけでなく、ドラマやコントの脚本も手掛けるなど注目の若手劇作家・演出家です。
この日の舞台は、三浦さんが主宰する劇団「ロロ」の人気シリーズ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、通称「いつ高」シリーズ。高校生たちの青春群像劇です。「第三高等学校」はもちろん架空ですが、母校から取ったそうです。この「いつ高」シリーズ、ある特徴を持っています。
三浦直之さん
「高校演劇は上演時間が60分以内というルール。60分を1秒でも過ぎると、その時点で審査の対象外になります。舞台上のセッティングも時間内に生徒が行わないといけない。この後、俳優たちがセッティングを行って、それが完了次第、上演という流れになります」
全国高校演劇コンクールのルールに合わせ、全ての作品が60分以内。舞台設営の様子も、観客に公開し、コンクールのルール通り10分で完了させます。
さらに、高校生以下は原則無料で観劇でき、脚本もホームページですべて公開するなど、「高校生にやさしい」作品になっているのです。
三浦直之さん
「高校生たちが自分たちで脚本を書くのが僕は一番いいと思うんですけど、自分たちで書けない時に、戯曲(脚本)を選ぶ選択肢がすごく少ないなと思ったんですよね。60分の戯曲ってそもそもすごく少ないし。だったら自分もその中の選択肢を1個作れないかなと思って、高校生たちに『無料で使っていいよ』と言えるものを作りたいなと思った」
「いつ高」シリーズの制作をきっかけに、三浦さんは、高校演劇界との関わりを深めていきました。福島や大阪、三重の高校生とワークショップやコラボレーション作品を作り出していきます。一方で、地元宮城の高校生と触れ合う機会は、これまでありませんでした。
三浦直之さん
「高校生たちと作品作ると、本当にすごい刺激をもらうし、めちゃめちゃ学びになるし、毎回終わると元気もらって帰れる。演劇っていいなという気持ちで毎回帰れるから、ぜひ宮城でもやりたいですね」
この日、母校である仙台第三高校に、三浦さんの姿がありました。演劇部の生徒に、ワークショップをすることになったのです。
Q.母校に来るのは久しぶり?
三浦直之さん
「そうですね、たぶん卒業してから中に入るのは初めてなので、20年ぶりとか。いつ高シリーズに実体験みたいなものは入っていないですけど、この高校時代に読んだ青春小説みたいのが、すごく影響を与えてはいますね」
三浦さん「三浦です。よろしくお願いします。」
部員「お願いします」
現在、仙台三高の演劇部は、2年生1人、1年生2人の3人。三浦さんは部員たちにある課題を出します。
三浦さん
「最初に今日は、3人に『架空のラブレター』を書いてもらいます。ただ、生き物以外に対してラブレターを書いてください」
部員「なるほどー!!」
とまどいながらも、ラブレターを書き始める部員たち。三浦さんの狙いは?
三浦直之さん
「最初演じる時、『せりふを言う』ことはすごく頑張るんだけど、その時に舞台上って、せりふをしゃべっている人以外にも、それを聞いている人が周りにいるじゃないですか。そのしゃべっていない人が、舞台上にどういるかというのもすごく演劇では大事なんだよという、それを味わってもらうワークショップを、今日はやってみようかと思っています」
10分後。
三浦さん
「じゃあ、読んでもらってもいいですか。何に向かって?」
部員
「ピーマンさんです」
三浦さん
「じゃあお願いします。どうぞ」
部員
「実は初めて会った時はあなたを苦手だと思ってました。でも本当は胸のうちに優しさを秘めてることを、最近になって知りました。チンジャオロースーとしてあなたを食した時、やっとあなたの魅力に気づいたんです。どうか私と付き合ってくれませんか。ピーマンさん」
三浦さん
「はい、素晴らしい!」
1人ずつ読み上げた後は、次のステップへ。
三浦さん
「じゃあピーマンへのラブレターをまた読んでください。で、ピーマン役。ピーマンに今度ラブレターを伝える」
新たな課題は、相手に向かって、ラブレターを伝える事。
三浦さん
「この時に大事にしてほしいのは、ちゃんと相手に言葉を伝える。で、それを聞いてあげる、受け止めてあげる」
部員
「チンジャオロースーとしてあなたを食した時・・・どうか私と付き合ってくれませんか。ピーマンさん」
三浦さん
「よかったお辞儀するの。最後。よかった。その相手がこうリアクションするから、こんなふうに自分の言い方変わったなとか。それがすごくコミュニケーションの楽しさ、それって演劇の楽しさだから」
さらに人数を増やしたり、設定を複雑にしたり…初めての体験ですが、高校生たちがみるみる変わっていきました。
三浦さん
「よーいスタート」
部員
「彼女がいる人にこういうこと言えないかもしれないんだけど、大好きな人にちょっと言いたいことがあって。突然なんですけど、私は布団のことが大好きです」
部員
「ごめん。俺やっぱり彼女いるから!」
三浦さん
「ありがとうございます!だんだんできるようになってきたでしょ、『相手の視線を感じる』っていうところ」
およそ1時間半のワークショップ。刺激的な時間になったようです。
三浦さん
「これからもし台本を使って稽古する時とか、忘れないでほしいなと思います。でも、超楽しかった。すげえ良かったなあ。どんどん修羅場みたいな、めっちゃ楽しかったです。ありがとうございます」
仙台三高演劇部
部長 佐々木琴音さん(2年)
「人との会話っていう時に、大切なものだとか、お客さんから見える視点とかも、大切なんだなって、学ばせていただきました」
中川莉緒さん(1年)
「相手の言うことも伝わるし、相手にも伝えるしみたいな。ワークショップでしか得られないものだったので、とても良かったなと思います」
泉瑠璃さん(1年)
「私は部活に入って初めて複数人で劇をやって、その場をかき乱すみたいなのが
すごく楽しかったです。」
三浦さん
「なんかずっと楽しそうに参加してくれたっていうのはすごくうれしかったです。演劇って、なんかこう、いろんな可能性を考えるってことだと思うんだよね。このセリフってこういう気持ちで言ってんのかなとか、こういうことで言ってんのかなとか、いろんな可能性に思いをはせるってことだと思う。その経験を踏まえて、いろんな可能性を感じながら高校生活過ごしてほしいなと思います。」
劇作家・演出家、三浦直之さん。
そのまなざしは、高校生たちの持つ「可能性」と演劇の「可能性」を、重ねているようでした。